夜明け前。
夜明け前。
佐之助と鍋蔵は、目立たぬように屋敷を後にする。
訪れた先は、町はずれの荒屋。
中には膝を抱え、考え込んでいる技王。
その横でイビキをかく雲海。
「お前が技王だな。」
佐之助の言葉に、技王は顔を上げる。
技王は、鍋蔵の顔を見て緊張を解く。
「そうだ。」
技王は佐之助の顔をまじまじと見る。
「久しぶりだな。」
「覚えているのか?」
佐之助の問いに技王は答える。
「真面目そうな奴だからな。」
技王は口元を歪める。
「横で寝てるおっさんは誰だ。」
佐之助は雲海の顔を覗き込む。
息を呑む、佐之助。
「都には、二度と戻ってこないと思っていたよ。」
雲海は目を覚まし、大きく伸びをする。
「佐之助か。いつも愚弟の世話すまんな。」
技王は怪訝な顔をする。
「アイツは、今は泰山と名乗っておる。」
技王は雲海と佐之助の顔を交互に見る。
佐之助が、躊躇いながら口を開く。
「よろしいのですか?」
雲海は欠伸をする。
「この方は、右将軍 泰山様の実の兄上だ。」
鍋蔵が、思わず口を開く。
「胡散臭い坊主だと思っていたが…。」
「本当に、構わないのですな?」
佐之助の問いに、雲海は頭をかきながら答える。
「この期に及んで、隠してもしょうがあるまい。」
「このおっさんがか?」
技王の言葉に雲海は肩をすくめる。
「将軍の地位を捨てた男が、このおっさん…。」
「昔のことだ。あと、おっさんって言うな。」
「そんな男が、なんで温泉で管を巻いていたんだ。」
「お前の姉さんに、惚れたのさ。」
雲海は、声をあげて笑う。
佐之助はその様子を腕を組みながら、眺めていた。
「こいつらなら、何かができるかもしれんな。」
「何がだ?」
鍋蔵の問いに、佐之助は笑いながら答える。
「今、考えているところだ。」
荒屋の外では、人々の声が聞こえ始めていた。
「腹、減らんか?」
鍋蔵は、鍋の準備を始める。
雲海も欠伸をしながら手伝う。
腕組みをして考え込む佐之助。
膝を抱える技王。
「味噌の香りが邪魔で考えがまとまらん。」
佐之助は立ち上がり、鍋蔵と雲海のところへ向かう。
技王はその様子を力なく見送る。
「なんなんだこいつら。」
味噌の香りが技王の記憶を刺激する。
雲長やまだ幼かった子龍達と囲んだ鍋。
失われた、大切な時間。
技王の思考を遮るように荒屋の外からは、子供の声が聞こえる。
「やっぱりこっちだよ。味噌の匂いがする。」
「あんた、相変わらず鼻いいわね。」
「そういえば、腹減ったな。」
荒屋の戸が軋みながら開き、陽の光が差し込む。
小太朗と桜と岩之助が、到着した。
「お、こんなにいたら鍋の材料が足りんな。」
鍋蔵は、いつもと変わらぬ様子で呟いた。
「さてと、皆揃ったな。」
鍋蔵は皆の顔を見渡す。
小太朗と桜は皆のお椀に手際よく鍋を分ける。
「小太朗、いただきますの挨拶をしてくれ。」
小太朗は鍋の湯気を見つめる。
「それでは手を合わせて。」
皆、心なしか笑顔だ。
「いただきます。」
鍋を食べながら、皆思い思いに話し始める。
「小太朗、このおっさん将軍のお兄さんらしいぞ。」
鍋蔵の言葉に小太朗がむせる。
「雲海のおっさん、嘘はダメよ。」
桜の言葉に雲海は苦笑いする。
「隠してたつもりはないんだが、めんどくさくての。」
岩之助が口を開く。
「この人は誰なんだ?」
箸で技王を指す手を桜が叩く。
「人を箸で指したらダメって、教わんなかったの!」
しゅんとなる岩之助。
その様子を見ながら、技王が口を開く。
「俺は夏樹。ちょっと前までは技王って呼ばれていた。今は国を失ったただの男だ。」
「夏樹さんか…。」
技王は小太朗の顔を見る。
「そっちの方が呼びやすいね。」
小太朗の言葉に技王は笑う。
「さてと、これからの話だが…。」
佐之助の言葉を鍋蔵が手で制する。
「飯の時に、難しい話は無しだ。」
皆が頷く。
「鍋蔵の鍋、前より上手くなってないか?」
雲海の言葉に、桜は頷く。
「食材は大して違わないけど。」
言いながらお椀を小太郎に差し出す。
「桜姉ちゃん食べ過ぎたら太るよ。」
小太朗は笑いながらおかわりを注ぐ。
「美味しそうに食べる桜さんも素敵だ…。」
喋り終わる前に、岩之助は桜に叩かれる。
皆が笑顔で鍋を囲む様子を見ながら夏樹は思う。
ここに雲長がいれば。
夏樹は首を振り、その思いを振り払う。
今、ここにいるもの達で、何ができるのだろう。
桜は空になった鍋を見つめる。
「お腹いっぱいになったらなんだか、元気が出てきたね。」
小太朗は笑顔で答える
「鍋は空っぽになったけど、その分前向きになった気がする。」
「さて、俺は泰山に会いに行く。」
雲海が立ち上がる。
「俺達も行く。」
佐之助も立ち上がる。
「俺も泰山に話がある。」
夏樹も立ち上がった。




