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鍋侍と、弟子たち〜戦う前に、飯を食え〜  作者: now here man
第七章 最終章

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蝉の声。

雲海は一人鬱々と酒を飲んでいた。

夏凛は、遠巻きに見守る。

雲海にはそれが有り難かった。


「技王が国を追われたんだってな。」

夏凛は頷く。

「話してくれた商人は、子龍って奴が国を乗っ取るっていってたが本当なのか?」

「技王は小さい時から、周りのことに気がつかない子だった。当然の結果でありんす。」


「あんた、技王の姉なんだろ。なんでこんな鄙びた温泉街にいるんだ。」

夏凛は、雲海の盃を一息で飲み干す。

「あたしは女だから、王にはなれなかった。母親の後を継いでここに来たでありんす。」

雲海は、夏凛に酔った眼差しを向ける。

「ならなかった。じゃないのか?」

夏凛は遠くを見るように目を細める。


「あの子は小さい頃から、王になることが決まっていたでありんす。城の外のことを知る機会があればと、今でも思うでありんす。」

雲海は盃に酒を注ぎ、夏凛の方へ押しやる。

「私が王になっていれば、とも思うし、あの子だから良かった、とも思うでありんす。」


外の蝉の声が遠くに聞こえる。

「こんな昼間から酒を飲んでる、生臭坊主にする話ではなかったでありんす。」

雲海は苦笑する。

「そろそろあいつの鍋が食いてえなぁ。」

雲海は大きく伸びをした。


蝉の声がうるさいほどだ。

その頃、鍋蔵達は旅を急いでいた。

追っ手の姿は見えないが、せき立てられるように馬を走らせる。

「ちょっと寄り道していかないか?」

鍋蔵の言葉に技王は怪訝な顔をする。

「お前の姉がいる温泉街が近い。姉に会っていけ。」

「国を失った俺に、どんな顔して会えって言うんだ。今は一刻が惜しい。」

「こんな時だからこそだ。」

鍋蔵は真っ直ぐにただ前を見つめていた。


その日のうちに温泉街へと二人は辿り着いた。

鍋蔵は迷いなく、夏凛の店へと向かう。

「ここだけは変わらないな。」

技王は街の様子を眺めながら呟く。


雲海は、意外そうな顔をする。

「そろそろお前の鍋が食べたくなってきた頃だ。よくわかったな。」

鍋蔵は苦笑いする。

「夏凛、台所を貸してくれ。」

鍋蔵の言葉に、夏凛は奥の間から顔を出す。

「お久しぶりでありんす。」

夏凛の目が技王で止まる。

「随分とやつれているでありんすな。」

夏凛は、目を細める。


鍋蔵と雲海はそっと台所へと姿を消す。

「姉さんの言う通りだったよ。俺は失ってしまった。」

技王は疲れ切った体を床に投げ出す。


夏凛はその横に座り疲れ切った弟の頭を愛しそうに撫でる。

「体ばかり大きくなって、主の中身は昔のままじゃ。」

技王は、頬に流れるものをそのままに天井を見つめる。


「雲長を死なせてしまった。」

夏凛の細い指が、動くのを止める。

「あいつは俺の夢の一番の理解者だった。一緒に夢を見れたのはあいつだけだったんだ。」


蝉の声がうるさいほどだ。


「あいつは、俺に出来ないことをしてくれた。俺は俺の半身を失ってしまった。」


「それでも…。」

夏凛は座り直し、言葉を続ける。

「それでも腹は減るでありんす。」


台所からは微かな味噌の匂いが漂ってくる。


「父上も母上も、あの世から主がどう生きるかを見てくれておるでありんす。」

鍋蔵は、湯気をたてる鍋を運んでくる。

後ろから酒を抱えた雲海が小躍りしそうな表情でついてくる。


四人で鍋を囲む。

それぞれの想いを湯気が包む。


一人顔を赤くするほど盃を傾けていた雲海。

空になった椀を見つめる。


沈黙を破るように雲海が口を開く。

「俺も一緒に都へ行く。」


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