遠くまで。
都への道のりは長い。
逸る技王を宥める鍋蔵。
「このままでは、馬が潰れる。」
鍋蔵は馬の様子を見ながら、馬が潰れないように適度に休息をとる。
代えの馬がいるわけではないのだ。
夜の闇の中、鍋蔵と技王は焚き火を囲む。
「一刻も早く都で体制を建て直さねば。」
ゆらめく炎に、技王の焦燥した表情が照らし出される。
鍋蔵は、黙って鍋に味噌を入れる。
味噌を溶かしただけの汁と干し肉だけの飯。
「少しでも体力をつけておけ。」
鍋蔵は湯気を立てるお椀を技王に押し付ける。
噛み締めた干し肉は、固かった。
二人は無言で噛み続ける。
「雲長を失った。子供の頃からずっと一緒だった。」
鍋蔵はただ頷く。
「俺の足りないところを補ってくれていたんだ。」
技王の手が震える。
鍋蔵はじっと焚き火を見つめている。
「雲長は信念を曲げなかった。」
鍋蔵は言葉を絞り出すように喋る。
「俺は雲長の妻子を助けることが、出来なかった。」
パチリと焚き火が爆ぜる。
鍋蔵の首を垂れた姿が、揺れる炎に照らし出される。
「俺は、俺の国の民の生活が楽になればいい。それだけを考えていた。発明は楽しかったしな。」
技王は、汁を飲み干す。
「だが、雲長を失った。」
天を仰ぐ技王。
しばしの静寂。
「急ごう。」
鍋蔵の言葉に技王は頷いた。
焚き火の火が小さく揺れる。
二人は夜明け前に旅支度を整えた。
…その頃。
小太朗と桜は都を目指していた。
「おっさんとは別行動だけど、都で合流するわよ。」
小太朗は頷く。
鍋蔵の判断で、別行動となった2人の頼りは一枚の地図。
「都に着いたら、佐之助さんがなんとかしてくれるって。お師匠さんがいってました。」
地図の上で桜の指が動く。
「ここが技王の国。ここが今からいく都。」
桜の指が丁寧になぞるのは南。力王の村がある辺り。
「私達、遠くまで来たのね。」
「この海の外にあるのが、悪い国なの?」
「この国を乗っ取るつもりらしいわ。私たちの生活を邪魔するなら、私は嫌い。」
「そうかなぁ。」
小太朗は腕を組む。
「でもきっと、その国の人たちも家族がいて、生活があるんだろうね。」
桜は頷く。
「会ったこともないから、良いか悪いかはわかんない。」
桜は地図を畳み、立ち上がる。
「休憩は終わり。早く都へ行くわよ。」
焦る気持ちを抑えながら、一路都を目指す二人。
暑い風が二人を包む。
日が沈み始めた頃、背後から蹄の音が近づいてくる。
身構える二人。
視線の先には岩之助。
「やっと追いついた。」
馬上から微笑む岩之助。
「女と子供の二人旅じゃ危ないだろ。」
岩之助は馬から降りる。
「二人とも乗れ。俺が都まで連れて行ってやる。」
桜はそっぽを向く。
「ありがとう。勘太郎さん!」
「いい加減、覚えてくれ。」
岩之助は苦笑いする。
戦乱の火は遠くから、じわじわとそれぞれの背中へと近づいてくる。




