雨と追憶。
子龍は天を睨みつけていた。
雨が激しく子龍を叩く。
雲長の命を奪った剣。
放り投げたいが、指が動かない。
「剣はただの武器ではない。男の志の象徴だ。」
雲長の言葉が頭の中にこだまする。
子龍は、幼い頃に戦で両親を失った。
今では、顔も覚えていない。
親戚をたらい回しにされる日々。
人一倍体が大きく、力が強かった子龍は鼻つまみ者だった。
そんな子龍を迎えてくれたのは、雲長だった。
剣の才を見抜き、修行をつけてくれた。
嫌がる子龍を寺子屋に通わせ、学を身につけさせた。
厳しく指導される毎日。
だが、辛くはなかった。
その大きな背中に、隠された優しさを知っていたから。
いつしか、雲長を父と慕うようになっていた。
そして、早く雲長の片腕になれるよう精進した。
男としての生き方。
与えられた役割。
国とは、民とは。
全てを雲長から学んだ。
いつしか、雲長と子龍の考え方にズレが生じていた。
子龍も雲長もあえて目を背けていた。
成人した子龍は、軍に入る。
与えられた任務をこなす毎日。
子龍より優れた軍人は沢山いた。
世界は広いと思った。
だが、長く生き残るものは少なかった。
子龍の働きは評価され、願いは叶った。
雲長の右腕として認められた。
雲長の補佐として、技王に会える立場になった。
初めは緊張して、顔を見ることも出来なかった。
数々の発明で人々の暮らしを良くした王。
雲の上の存在。
だが、いつしか見方が変わった。
ただ、ガラクタいじりが好きな男。
それだけだ。
技王は未来を作ることは出来る。
だが、その未来を守る術を持たない。
そう思った時、子龍の心にある考えが宿る。
「生かすべきは民だ。技王がいなくても、民がいればそれが国だ。」
酔った勢いで、その思いを雲長にぶつける。
しばらく考えた雲長は
「国の未来のためには、希望が必要だ。技王は民のための希望になれる。」
盃を重ねるたび、月日を重ねるたび、互いの意思はすれ違う。
表面上は上司と部下。有能すぎるほどの。
だが、いつしか心の底から分かりあうことはできなくなっていた。
子龍の地位が上がれば、さまざまな情報が入ってくる。
この国の有様。世界の情勢。
焦りばかりが募る。
なんとか出来ないか。
子龍は、世界の情勢を知るために動き始める。
今のままでは、国力に劣るこの国は、外国勢力に一飲みにされてしまう。
鎖国状態にあるため、侵略を受けていないだけだ。
子龍はあらゆる策を検討する。
答えが出ない日々が続く。
そんなある日、一人の男が子龍を訪ねてきた。
見窄らしい格好。
だが、目だけがギラギラと光っていた。
興味を持った子龍は、男の希望通り二人きりで話す場を設けた。
聞かされたのは、この国に思った以上に早く脅威が迫っていること。
男の手筈で、外国の勢力と手を組む余地があること。
一旦、外国勢力がこの国を支配した後は、自治をする余地があること。
男はそう言った。
子龍も、それが方便であることくらい理解していた。
だが、万に一つでも挽回の目があるのなら、それにかけてみるのも悪くない。
…そう思った結果がこれだ。
子龍は雨に濡れながら、眠れない夜を過ごす。
一人、干し肉を齧りながら川面を眺めていた。
昨晩の雨はいつのまにか上がっている。
静かな水面の下に、小さな魚達の群れ。
鳥の影に怯え、大きな魚の影に怯え、散っては集まる小さな魚達。
子龍の様子を遠巻きに見てい兵士達の中から、若い兵士が意を決して子龍に声をかける。
「子龍さん、これからどうする。」
子龍は振り返り、兵士達の顔を見渡す。
見知った顔ばかりだ。
数々の戦を潜り抜けてきた仲間。
子龍の考えは長い年月をかけて伝えてきた。
賛同してくれた仲間達。
「俺たちの目指すものは変わらん。」
子龍は、天に向かって拳を突き上げる。
「俺たちで民を守るぞ!」
辺りは、歓声に包まれた。




