残響。
土埃に包まれる。
鍋蔵の横には技王。雲長は土埃の中に消えていた。
ことの起こりは、二日前。
火事の件で不審な動きを見せた子龍を拘束し、雲長と技王が追求した結果、他国との繋がりがあったことが発覚した。
監禁していた子龍が夜半に脱獄し、敵国の勢力と合流。技王に反旗を翻した。
情勢は一気に悪化。技王の領地の半数が瞬く間に奪われた、城を追われた技王達。
今では、追われる身となってしまった。
「兵器庫を抑えられたのが痛かったな。」
技王は呟く。
「子龍は、俺が育てた弟子です。弟子の不始末。俺が処分します。」
雲長は、技王が止めるのも聞かずに、走り出した。
残された技王を鍋蔵が護衛する形となった。
「闇に乗じて、都にでも逃げ込むか。」
技王は不敵な笑みを浮かべる。
「都には昔の仲間がいる。しばらく身を隠し、再起を謀る。」
鍋蔵はその言葉の奥に、一抹の不安があるのを嗅ぎ取った。
雲長は駆ける。
愛馬の息が弾むのを感じている。
「俺の生き方は間違っていたのだろうか?」
頭の中に浮かぶのは、火事で失った妻、そして年端もいかぬ我が子のこと。
この国の民の為、それだけを考えて生きてきた。
「自分の代わりの、技王を支える人物として子龍を育てた。子供の頃からずっと見てきていたはずなのに、心の中まで推し量ることが出来なかった。」
手綱を握りしめる手が、震えている。
その震えを消すために、雲長は愛馬に鞭を打った。
子龍の初陣を見送った日。
緊張で青白い顔をした子龍の肩を叩き、励ました。
戦から無事戻ってきた子龍を思わず抱きしめたこと。
様々な思いが脳裏をよぎる。
…どこで道を間違った。
その思いが頭から離れない。
出迎えた子龍は、背後に多数の部下を従えている。
見知った顔ばかりだ。
「こんなにも…。」
雲長は愕然とする。
軍部が雲長と子龍、それぞれを支持する派閥に分かれつつあることは感じていた。
雲長は、自分の甘さを呪う。
「子龍、主君に刃向かう不届きものよ。その首にこの刃をくれてやる、覚悟しろ。」
「雲長さん。このままではこの国は崩壊してしまう。なんでそれがわからんのですか。」
二人は剣を抜き、睨み合う。
先に口を開いたのは、子龍だった。
「都からの侵略を防ぐためには、この国だけの力では無理なんです。外国の力を借りてでも防がなければ。」
「その外国の狙いは、この国だけではない。都も含めた全ての国の支配だ。何故、それが分からん!」
睨み合う二人を曇った空が見つめている。
「技王は甘い。技術だけでは国は守れない。この国にはそもそも人が少ないのだ。」
「だから、豊かな国のために技術を磨いている。」
子龍の言葉に、雲長は答える。
どこか虚しさを感じる。
何度も繰り返してきたやり取りだ。
「国とは民だ。一時属国になったとしても民がいればやり直せる。」
子龍は、何度も言葉にしてきた事を口に出す。
「その民の幸せを奪うのが、属国だというのが何故分からん!」
稲光がきっかけとなった。
二人の剣が交わる。
倒れた雲長が最後に見たのは、子龍の代わりに泣き始めた空と、失ったはずの妻と子供の笑顔だった。




