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鍋侍と、弟子たち〜戦う前に、飯を食え〜  作者: now here man
第七章 最終章

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憧憬。

男は、自分の手を見つめている。

剣だこができた、ゴツゴツとしたささくれだった手。

毎日千回は剣を振っている。


あの鍋を背負った侍に勝つため。

初めに会った時は、ただの流れ者の浪人に見えた。

町娘を攫おうとした俺を軽くいなして、嗜めた。


次に会った時、鍋を食わされた。

懐かしい故郷の味がした。


三回目。

充分修行して、強くなった。

万全の態勢での勝負。


だが、見合った瞬間わかった。

この男は遥か高みに居る。

修行を重ねて強くなったからこそ、それがわかった。


当然のように負けた。

圧倒的な強さ。


そして、岩之助は脳天を槍で貫かれたかのような衝撃を受けた。


まさに、運命。

岩之助は出会ってしまったのだ。

運命の人と。


風に靡く黒く艶やかな髪。

涼しげな目元。

紅い唇。

立ち姿だけで、武芸の心得があるのが分かる。


今まで出会った誰よりも強く、岩之助を惹きつける。


衝動を抑えることができなかった。

口をついて出た言葉は

「…お義父さん。」

我ながら恥ずかしかった。


鍋を背負った、その男に完全に敗北した瞬間だった。

その瞬間、その男に勝つよりも、初めて会ったその少女に認められたい。

その感情が勝った。


岩之助は拳を握りしめる。

また会いたい。

その思いを胸に、暮れかけた夕陽を背に再び歩き出す。


噂話を頼りに、技王の国へと辿り着いた。

手形がなかったが何やら火事があったそうで、検問も甘かった。苦もなく通ることができた。


技王の国。

聞いていた通り、技術が発展している。

至る所に工夫が施してあり、人々は活気に包まれている。

岩之助は、『こんな国もあるものだな。』と感心した。


町の人に聞き、鍋を背負った侍が、技王が元にいること。火事の際に火傷をして温泉で療養していること。

連れの二人は、技王のもとで世話になっていることを聞いた。


居場所はわかったが、流石に王のいる場所。容易く潜り込むことはできない。


岩之助は安宿の薄い布団へ転がり込む。


明日こそ会えるだろうか。

一人夜の闇の中。

胸の奥が、妙に落ち着かなかった。

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