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鍋侍と、弟子たち〜戦う前に、飯を食え〜  作者: now here man
第五章 技王

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雨。

技王の城へ着く頃には、すっかり陽が落ちていた。

あたりは静かな闇に包まれようとしている。


雲長は、鍋蔵を伴い技王の居室へ。

「戦は、一旦止まりました。しばらくは睨み合いですな。」

王への報告にしては、軽い。

「雲長、少しは敬意を持って接しろ。客人の前だぞ。」

「失礼しました。」

雲長はわざとらしく、姿勢を正す。


「我が軍が劣勢、子龍が一騎打ちで敗れた際にこちらの鍋蔵さんのお陰で、一騎打ちは回避。戦線は膠着しております。」

「そうか。鍋蔵、御苦労だった。」


技王は鍋蔵と雲長を座るように促し、小姓に酒を持ってくるように指示を出す。


鍋蔵が口を開く。

「向こうの指揮官が言っていたんだが、この国は他国の侵攻を受けているのか?」

「そうだ。だが我が領土には技術がある。簡単にはやられはせん。」

技王は盃を傾ける。

「侵略を受けているのは北の知王の領地だ。今のところ、領地を侵されることなく踏みとどまっているとのことだ。」

雲長は盃を眺めながら言う。


「一大事です!」

先程の小姓が転がるように飛び込んでくる。

「どうした、何を慌てておる。」

雲長が問いただす。

「城下で火災が発生しております。目下総出で消火にあたっております。」

技王が、雲長に目配せをする。


雲長が、懐から小さな笛を取り出して吹く。

笛を吹き終わるとすぐに、若い兵士が部屋へ現れる。

「現状はどうなっておる?」


技王の問いに若い兵士が答える。

「火元は城下の南の地区。近衛兵を二部隊消火に向かわせてます。」


若い兵士の報告の途中で、また扉が開く。

「北側の地区で火が上がっております。いかがいたしましょう!」

技王と雲長が目を見合わせる。


「雲長、北側には兵器庫がある、子龍達の二部隊をそちらに向かわせろ。」

技王は続ける。

「南の住民達の多い地域には雲長が向かえ。鍋蔵も手伝ってやってくれぬか。」

鍋蔵は小さく頷く。

「この城の守りは、残り一部隊で何とかする。」

雲長が頷き、それぞれの兵士に指示を出す。


雲長と鍋蔵は南の火事現場へと向かう。

遠くからでもわかるほどの炎が、夜空を赤く染めている。


雲長は、近くの兵士達を捕まえ、状況を確認、指示を出す。

指示を受けた兵士たちは一目散に駆け出す。

「俺にできることはあるか?」

「住民の避難を手伝ってくれ。城の周りには堀がある。城まで逃げれば安全だ。」

「わかった。」

鍋蔵は駆け出す。


技王の兵達と共に住民の誘導を行う。

「城まで逃げれば安全だ!」

「荷物は捨てて行け!」

兵達の声が響く。


炎の熱気が、人々を包む。

火に照らされた兵達の顔が緊張で強張っている。


雲長は馬に乗り全体の状況を把握しながら、指示を出しているようだ。


ある程度状況が落ち着いてきたようだ。

兵達も避難を始めた。


鍋蔵は、何かを聞いた気がした。

振り返ると、一際大きな館が火に包まれている。

館の二階から、助けを求める声が聞こえる。


鍋蔵の体に緊張が走る。

燃える館に向かって駆け出そうとする鍋蔵を呼び止める声。

「やめろ!そこはもう無理だ。引けっ!」

鍋蔵は振り返り

「俺は目の前の一人を見逃すことはしない!」

「より多くの民を救うために、見捨てることも必要だ!」

雲長の言葉を振り切り、走り出す鍋蔵。


近くに落ちていたボロ布を纏い、館に飛び込む鍋蔵。


暑い。

火だけではなく、煙もかなりの熱を帯びて鍋蔵を包む。

館の階段はまだ燃えてはいない。

まだ間に合う!

鍋蔵は覚悟を決めて、二階へ向かう。


先程の声が近づいてくる。

若い女と赤子の声。


階段を駆け上がる。

あと半分だ。

赤子を抱えた女の姿が見えたその瞬間。

階段が崩れ落ちる。


鍋蔵の体が宙に浮く。

そう思った瞬間、鍋蔵の意識は暗い闇の中へ吸い込まれていった。



闇の中、戦場であの女が子供を抱いている光景を見た気がした。


「お師匠さん、目を覚まして!」

急速に意識が呼び戻される。

不安そうな表情。

小太朗の顔、頬が濡れている。

桜の心配そうな表情。


鍋蔵は、焼けるような痛みに顔を顰める。

「…あの屋敷の人達はどうなったんだ?」

「あの屋敷からは誰も助けられなかったんだって。」

小太朗は頬を拭いながら言う。

「お師匠さんが行ったのに、助けられなかったんだね。」

鍋蔵は言葉に詰まる。 


「あの屋敷は、雲長さんの屋敷なんだって。」

桜は意識して、普通の声を出そうとする。

「奥さんと子供か逃げ遅れたそうよ…。」

「…また、救えなかった。」


不意に雲長が姿を現す。やつれて、埃に塗れた疲れ切った姿。

雲長は鍋蔵の襟首が掴む。

その手は震えている。

鍋蔵は言葉を失う。


雲長は自分に言い聞かせるように呟く。

「…妻と子供は助けられなかった。だがあれで良かったんだ。そうしなければ、もっと死んでいた。」


鍋蔵は掠れた声が空虚に舞う。

「俺は、…また間に合わなかった。」


咽び泣くように、静かに雨が降り始めた。

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