剣の理由。
平野は、土埃に塗れていた。
太陽を覆い隠すほどの土埃の向こうから、鬨の声が聞こえる。
少し離れた丘の上で、馬に乗ったまま二人は話している。
「都の軍が攻めてきた。戦力はあちらの方が上だ。我が軍は劣勢だな。」
雲長は、他人事のように言う。
「一旦、ここらで休戦になる。戦さ場の気配がそう言っている。」
雲長の言葉通り、ゆっくりと戦場が二つに分かれて行く。
両軍とも統率が取れた動き、訓練が行き届いた軍の動きだ。
先程まで、激戦が繰り広げられていた場所には、折れた旗、積み重なる黒い影。
「俺は、何でここに連れてこられたんだ。」
馬上の鍋蔵の問いを雲長は無視する。
「向こうの指揮官とこちらの指揮官、子龍の一騎打ちになる。お互い、被害は抑えたいからな。」
雲長は大きく息を吐き出す。
「子龍は負けるだろうな。向こうの指揮官はかなりの使い手だ。」
「それで、俺を呼んだのか。」
雲長は頷く。
「一回だけだ。こっちは子供達を人質に取っているしな。」
「そんなつもりも無いくせに…。」
鍋蔵は低く笑う。
土埃が落ち着いた頃、両軍は一定の距離をおいて向かい合う。
それぞれの人の塊の中から、一名ずつ中央に飛び出してくる。
「我こそは技王の軍の一番の使い手、子龍だ。」
戦場に響き渡る大音声。
「死にたい奴は掛かって来い!」
「我こそは都の軍の指揮官、中村佐之助。無駄に血を流すな!」
鍋蔵の眉がぴくりと動く。
馬上の二人は距離を測るように円を描きながら、互いの隙を伺う。
両軍共に、固唾を飲んで成り行きを見守る。
一陣の風がきっかけとなり、均衡が破れる。
すれ違いざまに剣が交わる。
光を反射する剣と、金属がぶつかる音。
何合か打ち合ったのち、片方が馬上から転落した。
馬上に残っているのは、佐之助。
落馬した子龍を技王の軍から数名が飛び出してきて、引きずるように自軍は連れ帰る。
「他に、俺と剣を交える勇気がある奴はおらんか!」
静まり返る戦場。
動く者は、誰一人いない。
静寂を破るように、蹄鉄が地を蹴る音が響く。
「故あって、助太刀いたす。」
鍋蔵は、馬上から叫ぶ。
佐之助の前に現れたのは、鍋蔵。
「こんなところで会うとはな…。」
佐之助は鍋蔵を見据える。
「貴様、この戦いがなぜ起こっているのかわかっておるのか!」
佐之助は、逸る馬を抑えながら続ける。
「今この国は、他国からの侵略を受けている。外敵に対して一つにまとまって戦わねば、この国が失われてしまう。自分の領土を守るための戦いなどしている場合ではないのだ!」
「だからと言って、目の前の民を苦しめてよいわけではない。」
鍋蔵は、馬上で木刀を構える。
「国とは民。1人ひとりの民が集まって国となる。目の前の一人をおろそかにして、国は成り立たん。」
鍋蔵の全身にみなぎる気が周りを圧倒する。
佐之助は怯える馬を必死に抑える。
「国を守らなければその一人も救えん。」
佐之助と鍋蔵は、馬上で剣を構える。
戦場の全ての目が二人に注がれている。
睨み合う二人、左之助は肩で大きく息をしている。
「戦で負けて、消えた村もある。」
「人がいれば、また村ができる。」
どちらからともなく、距離を詰める。
「あの時、救えなかった村のことを忘れたのか?」
佐之助の表情が変わる。
鍋蔵の目に暗い光が宿る。
「…忘れられるはずがない。あの時俺が戦に戻らなければ、あの女は子供を抱いたまま…。」
すれ違いざまに、剣が交わる。
静寂を破る金属と硬い木がぶつかる音。
二人は距離を取る。
鍋蔵が、大きく息を吐き出す。
佐之助が気勢を発する。
互いの馬が、足を止める。
明らかに怯えている。
佐之助は手が白くなるほど手綱を握りしめている。
「決着がつかないな。」
鍋蔵は、肩で大きく息をし額の汗を拭う。
「腕を上げたな。」
鍋蔵の言葉に佐之助は肩の力を抜く。
肩をすくめた佐之助は
「今日はいったん引く。だがこの国の行く末を貴様なりにしっかりと考えておけ!」
言い残し、馬をひく。
歓声に包まれる、技王の軍。
都の軍、技王の軍それぞれ指揮官に従い、粛々と軍を引く。
雲長のもとに戻った鍋蔵。
「技王のもとへ行こう。」




