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鍋侍と、弟子たち〜戦う前に、飯を食え〜  作者: now here man
第五章 技王

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剣の理由。

平野は、土埃に塗れていた。

太陽を覆い隠すほどの土埃の向こうから、鬨の声が聞こえる。


少し離れた丘の上で、馬に乗ったまま二人は話している。

「都の軍が攻めてきた。戦力はあちらの方が上だ。我が軍は劣勢だな。」

雲長は、他人事のように言う。

「一旦、ここらで休戦になる。戦さ場の気配がそう言っている。」

雲長の言葉通り、ゆっくりと戦場が二つに分かれて行く。


両軍とも統率が取れた動き、訓練が行き届いた軍の動きだ。

先程まで、激戦が繰り広げられていた場所には、折れた旗、積み重なる黒い影。


「俺は、何でここに連れてこられたんだ。」

馬上の鍋蔵の問いを雲長は無視する。

「向こうの指揮官とこちらの指揮官、子龍の一騎打ちになる。お互い、被害は抑えたいからな。」


雲長は大きく息を吐き出す。

「子龍は負けるだろうな。向こうの指揮官はかなりの使い手だ。」

「それで、俺を呼んだのか。」

雲長は頷く。

「一回だけだ。こっちは子供達を人質に取っているしな。」

「そんなつもりも無いくせに…。」

鍋蔵は低く笑う。


土埃が落ち着いた頃、両軍は一定の距離をおいて向かい合う。


それぞれの人の塊の中から、一名ずつ中央に飛び出してくる。


「我こそは技王の軍の一番の使い手、子龍だ。」

戦場に響き渡る大音声。

「死にたい奴は掛かって来い!」


「我こそは都の軍の指揮官、中村佐之助。無駄に血を流すな!」

鍋蔵の眉がぴくりと動く。


馬上の二人は距離を測るように円を描きながら、互いの隙を伺う。


両軍共に、固唾を飲んで成り行きを見守る。


一陣の風がきっかけとなり、均衡が破れる。

すれ違いざまに剣が交わる。

光を反射する剣と、金属がぶつかる音。

何合か打ち合ったのち、片方が馬上から転落した。

馬上に残っているのは、佐之助。


落馬した子龍を技王の軍から数名が飛び出してきて、引きずるように自軍は連れ帰る。


「他に、俺と剣を交える勇気がある奴はおらんか!」

静まり返る戦場。


動く者は、誰一人いない。


静寂を破るように、蹄鉄が地を蹴る音が響く。

「故あって、助太刀いたす。」

鍋蔵は、馬上から叫ぶ。

佐之助の前に現れたのは、鍋蔵。


「こんなところで会うとはな…。」

佐之助は鍋蔵を見据える。


「貴様、この戦いがなぜ起こっているのかわかっておるのか!」

佐之助は、逸る馬を抑えながら続ける。

「今この国は、他国からの侵略を受けている。外敵に対して一つにまとまって戦わねば、この国が失われてしまう。自分の領土を守るための戦いなどしている場合ではないのだ!」

「だからと言って、目の前の民を苦しめてよいわけではない。」

鍋蔵は、馬上で木刀を構える。


「国とは民。1人ひとりの民が集まって国となる。目の前の一人をおろそかにして、国は成り立たん。」

鍋蔵の全身にみなぎる気が周りを圧倒する。

佐之助は怯える馬を必死に抑える。


「国を守らなければその一人も救えん。」

佐之助と鍋蔵は、馬上で剣を構える。

戦場の全ての目が二人に注がれている。



睨み合う二人、左之助は肩で大きく息をしている。

「戦で負けて、消えた村もある。」

「人がいれば、また村ができる。」

どちらからともなく、距離を詰める。


「あの時、救えなかった村のことを忘れたのか?」

佐之助の表情が変わる。

鍋蔵の目に暗い光が宿る。

「…忘れられるはずがない。あの時俺が戦に戻らなければ、あの女は子供を抱いたまま…。」


すれ違いざまに、剣が交わる。

静寂を破る金属と硬い木がぶつかる音。

二人は距離を取る。


鍋蔵が、大きく息を吐き出す。

佐之助が気勢を発する。


互いの馬が、足を止める。

明らかに怯えている。


佐之助は手が白くなるほど手綱を握りしめている。

「決着がつかないな。」

鍋蔵は、肩で大きく息をし額の汗を拭う。

「腕を上げたな。」

鍋蔵の言葉に佐之助は肩の力を抜く。


肩をすくめた佐之助は

「今日はいったん引く。だがこの国の行く末を貴様なりにしっかりと考えておけ!」

言い残し、馬をひく。


歓声に包まれる、技王の軍。


都の軍、技王の軍それぞれ指揮官に従い、粛々と軍を引く。


雲長のもとに戻った鍋蔵。

「技王のもとへ行こう。」

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