竹蜻蛉。
鍋蔵達は、技王に連れられて城下町を散策することになった。
計画的に立てられた街並みは、碁盤の目のように規則正しく並んでいる。
夏の訪れを告げる、暑い日差し。
小太朗は額の汗を拭う。
「雲長さん、あの建物は何ですか?」
小太朗が指差した先には、小さく質素な建物。
中から子供の声が聞こえてくる。
「あれは、寺子屋だな。子供達が読み書き算盤を習っているところだ。」
小太朗は興味を惹かれたようだ。
桜の手を引いて、寺子屋へ近づいて行く。
中の様子を羨ましそうに見ている小太朗の頭を桜が優しく撫でる。
「普通の子供らしいことをさせてやりたいもんだが…。」
鍋蔵は顎をさする。
前方から、馬に乗った兵士が技王の元にやってくる。
「失礼します。」
下馬した兵士は、技王の耳元で何かを囁く。
ただならぬ気配に侍の肩に緊張が走る。
技王は雲長を手招きし、小声で指示を出す。
「鍋蔵、力を借りたい。一緒に来てくれ。」
小太朗と桜の表情が不安で曇る。
「何、たいしたことではない。明日には戻ってくる。」
技王は、幼い二人の不安を取り除こうと目線を合わせて声をかける。
「それまで、俺が街の案内と自慢の発明品を見せてやる。」
雲長の合図で若い兵士は馬を手配するために、一旦離れる。
鍋蔵と雲長、若い兵士が馬に乗って去って行く土埃を見送る三人。
小太朗と桜は沈んだ気分のまま、技王に連れられて散策を再開する。
技王の説明を上の空で聞いていた小太朗が、何かに目を止める。
「どうしたんだ?」
技王の問いに小太朗は、三人の子供達が遊んでいる方を指差す。
「あの子達は一つの竹蜻蛉を取り合って遊んでる。」
言いながら、小太朗は子供達に向かって歩き始める。
「もっと竹蜻蛉を作ってあげたら、喧嘩しなくて良くなりますよね。」
桜は、その言葉に頷く。
「なるほど。」
桜は子供達に声をかけて、材料を分けてもらう。
技王は懐から小刀を取り出す。
三人でああだこうだと言いながら、竹蜻蛉を作る。
二つできた竹蜻蛉を桜が子供達に渡す。
子供達は礼を言って、竹蜻蛉で仲良く遊び始める。
それを見て微笑む桜。
振り返ると、小太朗と技王が真剣な顔で新しい竹蜻蛉を作り始めている。
「羽を増やした方が、もっと飛ぶと思うんだけど…。」
「それだとバランスが崩れるから、回転数を上げた方がいいんじゃないか?」
二人の様子を見て桜は肩をすくめる。
小一時間後、小太朗と技王が作った竹蜻蛉。
紐で引く発射台が付いている。
「桜姉ちゃん、この紐を引っ張って。」
桜は言われるままに、紐を引っ張る。
小太朗と技王は少し緊張した面持ちで、その様子を見守る。
竹蜻蛉が飛び始めた瞬間、技王は笑顔になる。
その竹蜻蛉は、夕陽を受けてどこまでも高く空へ飛んでいった。




