豚汁。
技王に連れて、台所へ。
昼食の支度を始めようとしていた小太りの男に技王が声をかける。
二言三言話した後、小太りの男はニヤリと笑い、頷く。
用意した食材はどちらも同じ。
豚バラ肉、大根、にんじん、ごぼう、こんにゃく、長ねぎ。
技王の料理長は、見たこともない大きな器具に野菜を順番に入れる。
小気味良い音と共に、均一に切られた具材が飛び出してくる。
小太りの男は、煮立った鍋に食材を手際よく放り込んでいく。
鍋蔵達は、一つ一つの具材を手作業で切っていく。
「おっさん、あっちの方が早いわよ。」
桜は慌てているのか、少し早口だ。
「小太朗、こんにゃくを手で千切れ。」
鍋蔵の言葉に小太朗は首を傾げる。
「手で千切ったら、不揃いでカッコ悪いですよ。」
小太朗は不満そうにこんにゃくを千切る。
まずは、技王の料理長の鍋を食べる。
技王は満足そうに頷く。
「これだよこれ。いつ食べても同じ美味しさだ。」
「確かに美味しいわね。」
桜は悔しそう。
次は、鍋蔵達の鍋。
蓋を開けた瞬間、ふわっと立ちのぼる味噌の香り。
甘みとコクが混ざり合った湯気が、顔にまとわりつくように迫ってくる。
「こっちも美味しそうだな。」
技王は一口啜る。
ぐつぐつと煮える土鍋の中では、
味噌を吸いきったこんにゃくが、ぷるんと揺れている。
箸でつまめば、じゅわっと染み出す出汁。
噛んだ瞬間、弾力の奥から味噌の旨味がじわりと広がる。
「だが、俺たちの鍋と大して変わらないな。」
豚肉は程よく脂を落とし、味噌と絡んでコクの塊に変わる。
大根はとろとろに崩れ、甘さを溶かし込む。
ごぼうは土の香りを残しながら、出汁に深みを足す。
にんじんはほくりと柔らかく、ほんのり甘い。
「見た目は、技王の方が綺麗です。」
小太朗は悔しそう。
主役のこんにゃく。
他の具材の旨味をすべて引き受けている。
先程の鍋より、味が染みている…。
技王は首を傾げる。
椀によそえば、表面には味噌の薄い膜。
それを崩すと、中から湯気が一気に解放される。
小太朗は一口啜る。
熱い。だが止まらない。
「こっちの方が美味しいですよ。」
「食べるたびに微妙に味が変わっていくわね。」
二人とも箸が止まらない。
「…妙だな。」
技王はもう一口啜る。
「さっきと同じ味のはずなのに、違う。」
鍋蔵は小さく笑う。
「同じじゃないからな。」
小太朗は鍋蔵に尋ねる。
「何でですか?」
「こんにゃくは、汁が染み込みにくい。綺麗に切ってあれば尚更だ。」
桜は頷く。
「だから手で千切ったのね。」
「そして、飯はみんなで食べるから美味しいんだ。」
技王はキョトンとした表情。
「お前、面白いな。」
鍋蔵はニヤリと笑った。
「この国の技術を他の国の人にも教えたら、皆んなが豊かになるんじゃないんですか?」
小太朗の言葉に、技王は腕組みをして考え込んでしまった。
「この国の技術を周りの国に教えるのか?」
技王の言葉に小太朗が頷く。
「この国にしかない技術だから、みんなが欲しがるってことでしょ。」
鍋蔵は頷く。
「皆が知っていれば、羨ましがられることはない。」
「そうか。…そうだなそれも一理ある。」
技王は何かを思いついたようだ。




