守るための剣。
雲長に連れられて、三人は宮殿の前の広場へ。
無駄な装飾はないが、よく手入れされている垣根が取り囲んでいる。
「ここは、儀式の時に使う広場だ。」
小太朗は、もの珍しい光景に目を奪われる。
「こんな広場が作れるなんて、私たちの国より進んでるみたいね。」
雲長は、鍋蔵に問いかける。
「もう一度聞く。」
「剣術師範になってくれ。」
桜は驚く。
「おっさん、そんな話をしてたの?」
鍋蔵と雲長は頷く。
「お師匠さん、剣術師範になるんですか?」
「いや、そのつもりはない。俺は目の前の一人に飯を食わせる。それだけだ。」
「そんなぬるい生き方、俺は認めない。」
ふらりと、長身の男が姿を現す。
「雲長さん、俺はこの男より強い。」
「子龍。」
「こんな男に頭を下げなくても、俺がこの国を強くする。」
長身の男は、腰の剣を抜き鍋蔵の前に立つ。
「俺と戦え。俺の方が強いと証明する。」
鍋蔵は首を振る。
「俺は、強さを証明するために剣を振るつもりはない。」
「これならどうだ。」
子龍の合図で小太朗と桜の後ろに、若い兵士が二人現れる。
二人を拘束し、首元に刃を突きつける。
「守るための剣なら抜けるんだろ。」
「こんな、見え透いた挑発にならないでよね。」
桜が叫ぶ声が響く。
「お師匠さん、助けて。」
小太朗は、絞り出すように声を出す。
桜は痛みを堪え、目で「こっちに来るな!」と鍋蔵に訴える。
「これで、抜けるだろ。」
子龍の言葉に、鍋蔵の目が一瞬暗く光る。
桜は見逃さなかった。
「こんなのハッタリよ。」
桜は掠れた声を振り絞る。
…桜の言葉は鍋蔵には届かない。
鍋蔵は、腰の木刀を構える。
「かなり出来るな。」
子龍が呟く。
「お前こそ。」
小太朗は、固唾を飲んで成り行きを見守る。
互いの間合いを図るように、摺り足で距離を詰める子龍。
桜は唇を噛み締める。
一陣の風が吹いた時、二人の均衡が破れる。
目にも止まらぬ速さで、二人の剣が交わる。
金属と木の塊がぶつかる鈍い音。
鍋蔵の木刀は綺麗な円を描く。
体勢を崩す子龍。
子龍は剣を構え直す。
腹の底から溢れ出すような気勢を発し、鍋蔵に向かって突進する。
鍋蔵の木刀は小さな円を描き、子龍の剣を逸らす。
体勢を立て直し睨み合う二人は、まるで野生の獣。
見守るもの達は呼吸をすることすら忘れ、あたりは静寂に包まれる。
「おっさんの勝ちね。」
小太朗は桜の言葉に振り返る。
「おっさん、一歩も動いてないわよ。」
「なるほど、大した腕前だ。」
子龍は悔しそうに、顔を歪める。
「だが、お前を剣術師範としては認めん。どんな手を使ってもだ。」
子龍の合図で、若い兵士達は小太朗を羽交締めにしていた手に力を込める。
小太朗の口から呻き声が漏れる。
もう一人の男は、桜を突き飛ばし、剣を構える。
陽の光に煌めく刃。
桜はヒラリと身を躱す。
小太朗は、兵士の手を振り解き距離を取ろうとするが、足がもつれてよろめく。
「小太朗!」
鍋蔵の声が広場に響く。
鍋蔵の表情が変わる。
桜が怯むほどに。
木刀を握り直した鍋蔵が、一歩を踏み出した時。
「待て、子龍の負けだ。」
技王の声が響く。
小太朗は、体を起こす。
「あんた大丈夫なの?」
「コケただけだよ。」
「なかなか面白い見せ物だったな。」
いつから見ていたのか技王の声。
「子龍引け。お前が叶う相手ではない。」
技王の言葉に子龍は唇を噛み締める。
「しかし…。」
剣を構え直す子龍の手元を雲長が抑える。
うなだれた子龍に対し、技王は続ける。
「安心しろ。鍋蔵を剣術師範にするつもりはない。」
技王は、鍋蔵の方に向き直る。
「どうだ、気分直しに飯でも食べんか?」
「おっさんの料理の方が美味しいわよ。この国の料理にはない、何かがあるもの。」
桜の言葉に技王が、ニヤリと笑う。
「ウチの料理人と比べてみるか?」




