剣で何を救える。
皆が寝静まった頃、鍋蔵と指揮官の男は少し離れた場所で話していた。
「素晴らしい国だ。皆が飯の心配をせずに暮らせる国なんだな。」
指揮官の男は首を振る。
「確かに、技王様のお陰で豊かな国になった。だが戦さは止まぬ。」
男は、空の月を見上げる。
「国が豊かになれば、それを狙う奴らがいる。」
雲ひとつなく、澄み渡った空。
綺麗な満月が二人を照らしている。
「俺は雲長。技王様の国、俺たちの国を守りたいと思っている。」
鍋蔵は頷く。
「俺は鍋蔵だ。」
雲長は座り直し、鍋蔵の目を正面から見る。
「この国には、お前のような強さを持ったものはおらん。技王様のもとで剣術師範になってくれないか?」
雲長の顔は少し紅潮している。
「この国には、守るための強さが必要だ。」
鍋蔵は空を見上げる。
「…俺は、剣を捨てた。」
優しい風が、二人の頬を撫でた。
「剣で救えなかった人もいる。」
「それでも…。」
雲長の言葉は夜の闇に吸い込まれていく。
遮るものがない満月が、二人を照らしていた。
翌日、雲長率いる部隊は技王の城下町へ。
本来なら何日か待たされるのであろうが、雲長の口利きで、その日のうちに技王と面会することになった。
質素だがしっかりとした造り、良い素材を使っていることが一目でわかる家具が過不足なく並べられた王の居室。部屋の片隅には、ガラクタが積み上げられている。
部屋の中には微かな香の香りが漂う。
その中央の長椅子に、天女のような美しい人が横たわっている。
肩まで伸びる艶やかな黒髪、透き通るような白い肌。
「技王様って女の人だったの?」
小太朗の言葉に、長椅子の人物が笑い声で答える。
心地よい笑い声。
「残念ながら俺は男だ。」
技王は、椅子の上に座り直す。
「君たちが、雲長のおすすめの方達かい?」
雲長が頷く。
「技王様、まだ夕刻です。酒を飲みすぎです。」
言われてみれば、技王の顔は微かに赤い。
「俺はこの程度では酔わん。」
技王は五月蝿そうに、手をひらひらと振る。
雲長は肩をすくめる。
「こんな人だが、気分が乗ったらぶっ倒れるまで徹夜で発明にのめり込むんだ。お陰でこの国は豊かになった。」
「…こんな人で悪かったな。」
技王は笑いながら答える。
技王は三人に向かいの椅子に座るように、手で合図をする。
「はるばる遠くから来たのだろう。」
「私達は力王の里から来ました。」
桜が答える。
「力王か、懐かしいな。」
技王は嬉しそうに微笑む。
「共に、都で学んだ仲だ。」
「俺はこの国に住む民だけを幸せにすれば、それで良いと思っている。だが、都の将軍が放っておいてくれない。」
技王は頭を掻く。
「この国の豊かさを妬んでいるんだろう。」
雲長が口を開く。
「この国を守るためには、力が必要なんだ。だから鍋蔵を連れてきた。もう一度言う。鍋蔵、この国の師範代になって剣の指導をしてくれ。」
鍋蔵は首を振る。
「言ったはずだ。人を切るための剣を俺は振らん。」
技王は頷く。
「わかった。しばらくこの国にいるが良い。見えてくるものもあるだろう。」
雲長に連れられ、三人は退室する。
「明日、この国を案内しよう。今日はゆっくり休んでくれ。」
通された部屋で三人は荷物を下ろす。
「国が豊かになったら、それを狙われちゃうのね…。」
桜は髪をほどきながら言う。
「この国は、戦争さえなければいい国なのに。」
小太朗は残念そうに口を開く。
「豊かになる技術があるのなら、この国だけでなく、他の国にも伝えてあげれば、争いは起こらないのではないか?」
鍋蔵は、独り言のように呟いた。




