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鍋侍と、弟子たち〜戦う前に、飯を食え〜  作者: now here man
第五章 技王

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五里霧中。

馬に乗った綺麗な鎧の男が侍に声をかけた。

「一騎当千とはこのことだ。」

男は馬を降り、鍋蔵の目を見据える。

「…誰だ。」

小太朗が声を振り絞る。

その拳は、白くなるほど握りしめられている。


「俺は技王様の軍の指揮官だ。実に見事だった。」

男は鍋蔵の隣に腰を下ろす。

殺気がないのをわかっているのか、鍋蔵は自然体で座っている。


男は髭を触りながら侍に話しかける。

「お前、名はなんと言う?」

「鍋野鍋蔵だ。」

男は首を傾げる。

「…聞いたことないな。」

鍋蔵は、肩をすくめる。

「言いたくないならそれもいいさ。お前、技王様に会ってくれないか?」

鍋蔵の眉間に皺が入る。


「なに、悪いようにはしないよ。」

男は鍋を覗き込みながら続ける。

「俺たちには、お前みたいな男が必要なんだ。」


男は鍋を分けてもらい、舌鼓を打つ。

「これはうまいな。粗末な材料だが火加減と味噌の具合がいいな。」


食べ終わった男は、鍋蔵に声をかける。

「明日、日が出る頃に迎えにくる、荷物はまとめておけよ。」

男が馬に乗って去っていくのを三人は見送る。


「大丈夫?怪しくない?」

桜が口を開く。

「お師匠さん、逃げるなら今のうちですよ。」

小太朗は不安そうな表情。

「どのみち、技王には会いにいくんだ。連れて行ってくれるなら僥倖だ。」

鍋蔵はその場に大の字に寝そべる。


周りを見渡せば、兵士達も村人達も関係なく肩を叩き合って笑い合ったり、寝転がったりしている。


「小太朗、腹を括るしかないみたい。」

桜の言葉に小太朗は渋々頷いた。


翌朝、辺りは霧に包まれていた。

小太朗が起きた時、鍋蔵も桜も起きていた。

桜は一晩眠れなかったようだ。ひどい顔をしている。


「小太朗、荷物は大体まとめてある。あとは昨日の男を待つだけだ。」

小太朗は大きくため息をつき、自分の荷物をまとめる。


霧の中から馬の蹄の音が聞こえてくる。

三頭ほどの蹄の音。

小太朗と桜の体が緊張で強張る。


「起きてるか。鍋野、馬に乗れ。」

昨晩の男だ。今日も鎧や髭は綺麗だ。

「俺だけじゃなくて連れがいるんだが。」

鍋蔵は小太朗と桜を指し示す。


「…そうか。ちょっと待ってろ。」

男は懐から小さな笛を取り出し、短く吹く。

笛の音に反応して、遠くから別の蹄の音がする。


「これだけ馬がいれば、みんな乗れるだろ。」

男の周りには六頭の馬にそれぞれ兵士が乗っている。


小太朗と桜は、それぞれ兵士の後ろに乗せてもらう。鍋蔵は馬を一頭与えられヒラリと背に乗る。


「さて行こうか。」

男が馬に鞭を打つと、それを合図に馬達はまとまって走り出した。


本隊に合流した後、男は部下達にあれやこれやと指示を出す。

しばらく後には、二頭の馬に引かせた馬車が用意された。

「お前達、これに乗れ。慣れない馬は疲れるだろ。」

鍋蔵達は、荷物を馬車に積み込む。

「ここから二日ほどで技王様の城だ。しばらく馬車の旅を楽しんでくれ。」

小太朗は不安に押しつぶされそうになりながら、馬車へと乗り込んだ。

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