帰ってきた者たち。
小太朗と桜は女と赤子を連れて、北を目指す。
背後では馬の蹄の音、鬨の声が聞こえてくる。
小太朗はその声がすぐ背後に迫っている気がして、何度も振り返る。
集落を離れた場所、雑木林の中に村人達が隠れていた。
避難した村人達と合流した小太朗達は、女と赤子を預ける。
「娘と孫をありがとう。」
腰が曲がった老人に縋りつかれて、桜は困惑する。
ホッと一息つく二人。
遥か遠くから戦さ場を見つめる。
東と西から馬に乗った軍勢が姿を現し、ぶつかる。
土煙の間から見える、村の周りの畑は踏み荒らされている。
飛び交う矢が遠くからも見える。
「お師匠さん、大丈夫かな。」
「…当たり前でしょ。天下無双なんだから。」
桜の肩が微かに震えている。
土煙に包まれた畑から、怒号が聞こえてくる。
そこが戦の中心になっているようだ。
黒い塊が蠢いている。
小太朗は唇をかみしめて、見つめている。
一瞬、戦さ場が静寂に包まれた。
ふと、空気が変わった気がした。
両軍入り乱れて混戦状態になっている筈のそこが、異様な雰囲気に包まれている。
人また人の黒い塊が、徐々に二つに割れる。
割れた後には倒れた兵士達の黒い影が見える。
そして、倒れていないものは、蜘蛛の子を散らすように逃げ散っていく。
最後に残ったのは呻き声を上げる兵士達と、何事もなかったかのように木刀を持って立っている鍋蔵。
小太朗と桜は、息を切らしながら駆け寄る。
「お師匠様、本気で天下無双なんですね!」
鍋蔵は、背中から血を流しているようだ。
「おっさん、無理すんじやないわよ!」
言いながら、鍋蔵の肩を叩く。
「今のが一番応えるな。」
鍋蔵は苦笑い。
「この前の傷が少し開いただけだ。」
小太朗は、荷を解き薬草を取り出し応急処置をする。
周りからは、兵士達の呻き声が聞こえる。
「さて、鍋にするか。」
鍋蔵は呟いた。
小太朗と桜は鍋の準備を始める。
逃げていた村人達は、遠巻きに様子を見ている。
焚き火が煙を上げるのを見て、危険がないとわかったようだ。
村人達が戻ってくる。
村人達は倒れた兵士から、鎧や刀を剥ぎ取ろうとしている。
「畑をこんなにされたんじゃ、俺たちは生きていけねえ。戦さ場泥棒でもしなきゃ割に合わねえよ。」
ぼやきながら、村人が鍋の横を通り過ぎる。
「よし坊じゃねえか!」
村人の声に小太朗は振り向く。
「こんなに痩せちまってるけど、隣村のよし坊じゃ。」
他のところからは、
「コイツはうちの倅だ。」
「もう会えないかと思ってたよ。」
村人達が声を上げる。
「戦で戦っているのは、普通の村人だ。」
鍋蔵は、鍋の火加減を見ながら言う。
「戦う必要なんてないのに。」
桜が呟く。
小太朗はたくさん落ちている矢を集めてきて、焚き火に焚べる。
村人達も協力して、鍋を作る。
あり合わせの材料で作る、粗末な鍋。
足を引き摺りながらやってきた兵士が、兵糧を差し出す。
「これも使ってくれ。」
村人達もどこからか持ってきた食材を出す。
「コイツも使え。」
敵も味方も関係ない。
夕闇の中、皆で鍋を囲んだ。
湯気が夜の闇に吸い込まれていく。
静かな時が流れていく。
静けさを破るように男の声が聞こえた。
「お前、化け物みたいに強いな。」
鍋蔵は、ゆっくりと振り向いた。




