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鍋侍と、弟子たち〜戦う前に、飯を食え〜  作者: now here man
第四章 天下無双

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帰ってきた者たち。

小太朗と桜は女と赤子を連れて、北を目指す。

背後では馬の蹄の音、鬨の声が聞こえてくる。

小太朗はその声がすぐ背後に迫っている気がして、何度も振り返る。


集落を離れた場所、雑木林の中に村人達が隠れていた。

避難した村人達と合流した小太朗達は、女と赤子を預ける。

「娘と孫をありがとう。」

腰が曲がった老人に縋りつかれて、桜は困惑する。


ホッと一息つく二人。

遥か遠くから戦さ場を見つめる。


東と西から馬に乗った軍勢が姿を現し、ぶつかる。

土煙の間から見える、村の周りの畑は踏み荒らされている。

飛び交う矢が遠くからも見える。


「お師匠さん、大丈夫かな。」

「…当たり前でしょ。天下無双なんだから。」

桜の肩が微かに震えている。


土煙に包まれた畑から、怒号が聞こえてくる。

そこが戦の中心になっているようだ。

黒い塊が蠢いている。

小太朗は唇をかみしめて、見つめている。


一瞬、戦さ場が静寂に包まれた。

ふと、空気が変わった気がした。

両軍入り乱れて混戦状態になっている筈のそこが、異様な雰囲気に包まれている。


人また人の黒い塊が、徐々に二つに割れる。

割れた後には倒れた兵士達の黒い影が見える。

そして、倒れていないものは、蜘蛛の子を散らすように逃げ散っていく。


最後に残ったのは呻き声を上げる兵士達と、何事もなかったかのように木刀を持って立っている鍋蔵。


小太朗と桜は、息を切らしながら駆け寄る。

「お師匠様、本気で天下無双なんですね!」


鍋蔵は、背中から血を流しているようだ。

「おっさん、無理すんじやないわよ!」

言いながら、鍋蔵の肩を叩く。

「今のが一番応えるな。」

鍋蔵は苦笑い。

「この前の傷が少し開いただけだ。」

小太朗は、荷を解き薬草を取り出し応急処置をする。


周りからは、兵士達の呻き声が聞こえる。

「さて、鍋にするか。」

鍋蔵は呟いた。


小太朗と桜は鍋の準備を始める。

逃げていた村人達は、遠巻きに様子を見ている。


焚き火が煙を上げるのを見て、危険がないとわかったようだ。

村人達が戻ってくる。

村人達は倒れた兵士から、鎧や刀を剥ぎ取ろうとしている。

「畑をこんなにされたんじゃ、俺たちは生きていけねえ。戦さ場泥棒でもしなきゃ割に合わねえよ。」

ぼやきながら、村人が鍋の横を通り過ぎる。


「よし坊じゃねえか!」

村人の声に小太朗は振り向く。

「こんなに痩せちまってるけど、隣村のよし坊じゃ。」

他のところからは、

「コイツはうちの倅だ。」

「もう会えないかと思ってたよ。」

村人達が声を上げる。


「戦で戦っているのは、普通の村人だ。」

鍋蔵は、鍋の火加減を見ながら言う。

「戦う必要なんてないのに。」

桜が呟く。


小太朗はたくさん落ちている矢を集めてきて、焚き火に焚べる。

村人達も協力して、鍋を作る。

あり合わせの材料で作る、粗末な鍋。

足を引き摺りながらやってきた兵士が、兵糧を差し出す。

「これも使ってくれ。」

村人達もどこからか持ってきた食材を出す。

「コイツも使え。」


敵も味方も関係ない。

夕闇の中、皆で鍋を囲んだ。


湯気が夜の闇に吸い込まれていく。

静かな時が流れていく。



静けさを破るように男の声が聞こえた。

「お前、化け物みたいに強いな。」

鍋蔵は、ゆっくりと振り向いた。

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