静かな村、戦の気配。
「久しぶりの村だね。」
小太朗は声を弾ませる。
平原の真ん中。田んぼに囲まれた集落が見える。
どこにでもある、ありふれた集落。
入道雲がゆっくりと流れていく。
鳶の鳴き声が彼方から聞こえてくる。
なんの変哲もない、そんな一日のはずだった。
「何か、おかしくない?」
鍋蔵は頷く。
「どこが?」
小太朗の言葉に桜が答える。
「人のいる気配がしない。お昼時なのに、ご飯の支度をしている感じもしない。」
確かに、煙の一つも上がっていない。
三人は、あたりに警戒しながら集落へと近づいていく。
静寂が集落を包んでいる。
一軒一軒中を覗いて見るが、人っ子1人見当たらない。
集落の中で一際大きな家に入った時、やっと村人がいた。
「こんにちは。」
桜の声に村人は反応しない。
よく見るとやつれた表情。
生気のない目をしている。
鍋蔵が駆け寄り村人の肩を揺らす。
「しっかりしろ。何があったのか教えてくれ。」
村人が掠れた声で喋る。
「…水を。」
小太朗が慌てて竹筒を差し出す。
村人は、貪るように竹筒の水を飲む。
そして、大声をあげて泣き出した。
桜は村人の肩を優しくさする。
しばらくして、村人は少し落ち着いたようだ。
「この村ももう終わりだ。」
擦り切れた着物の袖で目元を拭う。
「都で戦争だってんで、この村の若者やら米やら何もかも持っていかれちまった…。」
村人は顔を突っ伏して再び泣き始めた。
「それでこの村には誰もいないんだね。」
「とりあえず、飯を食おう。」
鍋蔵は背中の鍋を下ろし、囲炉裏に焚べる。
小太朗と桜も手際よく準備を手伝う。
残り僅かな米を入れ、お粥にする。
ゆっくりと湯気が立ち昇る。
小太朗はお粥を入れたお椀を村人に差し出す。
村人は震える手で受け取り、お椀の中を見つめる。
「暖かいうちに食え。」
言いながら、鍋蔵は小太朗と桜にもお粥を注ぐ。
小太朗達が食べ始めたのを見て、村人も食べ始める。
初めはゆっくり一口。そのあとは手が止まらなくなる。
「…ありがとう。」
村人は呟く。
4人のお椀と箸の音だけが、静寂の中に響く。
「煙が上がっていると思ってきてみたら、まだ人がいたのか。」
野太い声と共に、大柄な男が顔を出す。
日に焼けた顔が髭に覆われている。
「この村はもうダメだ。俺と一緒に逃げるぞ。」
男は村人を背負う。
「何があったの?」
桜が男に問いかける。
「この村は戦場になるって話だ。もうすぐ実りの季節だったのにな。」
男は天を仰ぐ。
「夕方には戦が始まる。お前達も早く逃げろよ。」
男の姿を見送る三人。
「どうしよう。」
小太朗が、鍋蔵を見上げる。
「一旦この場を離れよう、そして様子を見る。」
小太朗と桜は頷き、それぞれの荷物を背負い、歩き始めた。
集落の外れまで来たところで、小太朗が2人を呼び止める。
「…何か聞こえない?」
耳を澄ます三人。
かすかに聞こえる赤子の泣き声。
三人は声の方へと駆け出す。
集落の外れの小屋の中には、泣いている赤子と放心状態の女。
「こんなところで何をしているの?早く逃げなきゃ。」
桜の声に女は答えない。
小太朗が呟く。
「この音ってもしかして…。」
「馬の蹄だな。」
鍋蔵が耳を澄まして答える。
「小太朗、桜。2人を連れて逃げろ。北の方だ。」
二人は頷き、動き始める。
鍋蔵は一人立ち上がり小屋の外へ出る。
「ここは俺が引き受けた。」
鍋蔵の言葉を背に、小太朗達は北へ向かって歩き始めた。




