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鍋侍と、弟子たち〜戦う前に、飯を食え〜  作者: now here man
第四章 天下無双

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岩之助、恋の季節。

武虎と別れてから数日。

旅は順調だ。


桜が仕留めた兎を焚き火で炙る。

「塩振っただけでも美味しいね。」

桜は兎に齧り付く。

口の中に脂と旨みが染み渡る。


小太朗は、手に持った兎をじっと見つめる。

「食べんのか?」

鍋蔵の言葉に小太朗は首を振る。

「血抜きとかにまだ慣れなくて。」

「食わんと旅を続けられんぞ。」

小太朗は目を瞑って齧り付く。


ここは見渡す限りの平原。

遮るものはない。

優しい風が三人を包む。

三人は思い思いに寝転がる。


空には入道雲。

夏の訪れを告げる。


ゆったりとした時が流れる。

このまま、この時が続けばいいのにと小太朗は願う。


静寂を破るように遥か彼方から奇声が聞こえてくる。

徐々に近づいてくる声。

小太朗は頭をあげてそちらを見る。

どこかで見た顔だ。

「あっ、岩三郎だ!」

「違う!岩之助だ!」

気がつけば、風は止んでいる。


「鍋の!いざ尋常に勝負だ!」

鍋蔵は仕方なく立ち上がる。

大きく伸びをする鍋蔵。


岩之助は剣を抜いて構える。

奇声を発して鍋蔵に飛び掛かる岩之助。

空を切る剣。

小太朗はまたか、と思いその様子を頬杖をついて見守る。


暫くのち、予想通り肩で息をし地面に座り込む岩之助。

鍋蔵は肩をすくめる。


すっかり昼寝をしていた桜が目を覚ます。

「何?賑やかね。」

辺りを見渡す桜。


岩之助と目が合う。

岩之助が手にしていた剣が地面に転がる。

時が止まったようだ、岩之助だけ。

岩之助の顔がみるみる赤くなる。


「…。お義父さん!」

岩之助が、侍の手を握る。

ビクッとする鍋蔵。

「お嬢さんを私にください!」

「…は?」

桜は呆れ顔。

「お嬢さんの流れるような美しい髪、涼しげな目元。雪のように白い肌に、ひょっとこのように突き出した唇。これは運命の出合いなんです!」

あっけに取られる小太朗。


鍋蔵は苦笑いしながら口を開く。

「コイツは俺の娘じゃない。ただ預かっている身としては、どうしたもんかな…。」

「ちょっと、ひょっとこって馬鹿にしてるでしょ!」

それはそうだ。小太朗は激しく頷く。


「私はこんなどこの馬の骨ともしれないヤツ、嫌よ!」

鍋蔵は苦笑いする。

「この子は、強い男がいいそうだ。」

小太朗も口を挟む。

「言葉遣いも勉強した方がいいと思う。」

桜、大いに頷く。

「だいたい、このおっさんに勝てない程度じゃ話にならないわよ。」

桜の言葉に『それは無理でしょ』と小太朗は内心思う。


岩之助は、ガバッと起き上がり

「畜生!もっと強くなってまた会いにくるからな。」

言いながら走り去っていった。


徐々に遠くなるその姿を三人は見送りながら、苦笑い。


鍋蔵は肩をすくめる。

「賑やかな旅になりそうだな。」

三人の旅はまだまだこれからだ。


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