元祖と名乗る者。
あれから何日か経った。
侍の傷は、少しずつ回復している。
晴れの日も雨の日も、小太朗と桜は二人で屋台を切り盛りしていた。
「美味しいドジョウの焼きおにぎりだよ!」
桜の元気な声が街に響かない日はない。小太朗の焼くおにぎりの匂いも。
それは、突然やってきた。
屋台の前に昨日まではなかった、新しい屋台。
看板には『元祖!ドジョウの焼きおにぎり』の文字が大きく書かれている。
…小太朗は目を疑った。
その屋台からは、香ばしい味噌の匂い。若い男の威勢のいい呼び込みの声。
桜の声をかき消すほどの大声だ。
道ゆく人々も興味津々で見ている。
「何でパクってんだよ!」
桜が若い男に噛み付く。
「こっちはお上の許可をもらって商売してんだ。文句あるかい?」
若い男はどこ吹く風。
「こっちは先に認められたから『元祖!』を名乗ってるんだ。」
若い男は鼻で嗤った。
小太朗はただハラハラしながら成り行きを見守っているだけだった。
気がつけば、空は今にも雨が降り出しそうな曇り空。あたりも少し暗くなってきた。
たまたま通りかかったのであろう、雲海が割って入る。
「まあまあ落ち着け。」
今にも若い男に飛び掛かりそうな桜を羽交締めにして小太朗の方に引っ張ってくる。
桜の肩は小刻みに震えている。
「お上の許可の件は確かにその通りだ。お前達、まだ許可もらってないだろ。」
うなだれる桜。
「でもあんまりじゃないか!」
桜は人目も気にせず、大声をあげて泣き始めた。
小太朗は、慰めようと背中をさするが、かける言葉を見つけることができない。
雲海は桜が落ち着くまで、道端に腰を下ろし声はかけずに見守る。
この間も新しい屋台からは、おにぎりの焼ける匂いが流れてくる。
頃合いを見計らって、雲海が口を開く。
「落ち着いたかい。」
雲海は桜の方に手を置く。
桜にかける言葉を探しているのだろう、口を閉ざしたまま。
桜は盛大に鼻をかむ。
小太朗は、何とか桜を元気づけようとするが言葉が見つからない。
「…僕にできることはある?」
桜は真っ赤な目で、答えを見つけようと屋台を見廻す。
そして小太朗の目をまっすぐに見つめ、頷いた。




