消えない熱。
桜が目を真っ赤にしている。
侍はそれをぼんやりと見つめる。
…そんなに悲しむようなことだったか。
侍が目を開いたのに気がついた桜は、思わず駆け寄る。
一瞬ためらい、そして侍に抱きつく。
侍の背中に激痛が走る。
「痛い。勘弁してくれ。」
桜は答えず、抱きついたままぐずっている。
その様子を見ていた女中が口を開く。
「あんたが運び込まれてきた時は大変だったんだよ。坊主のおっさんに担がれてきてね。もう一人の子はずっと泣き通し。この子と二人で付きっきりで看病してくれてたんだよ。」
桜は、やっと侍から離れる。
まだ鼻をぐずぐずいわせている。
「男の子は疲れてさっき寝てしまったけど、この子はその後も看病してくれてたんだよ。」
桜は大きな音を立てて鼻を噛む。
「男の子の手前、気が張ってたんだろ。ちゃんとしなきゃって。」
女中が優しく桜の頭を撫でる。
「後は私が見ておくから、ゆっくり眠っておいで。」
桜は頷く。
「…ばか。」
侍に向かって呟く。
そして、ぐずりながら名残惜しそうに何度も振り返り、部屋を離れる。
侍は閉まった襖を見つめていた。
…小太朗は目を覚ました。
ぼんやりとあたりの様子を理解していく。
障子越しに差し込む光。通りから聞こえる喧騒。
体の痛みと共に、記憶がはっきりしてくる。
焦る気持ちで部屋を見渡し、侍を見つける。
小太朗の目に涙が溢れる。
「お師匠さん、それ…。」
小太朗の顔が強張る。
絞り出すように声を出す。
「ごめんなさい…。」
小太朗は手が白くなるほど拳を握りしめる。
「僕のせいだ…。」
侍は目を細める。
「違う。」
小太朗はぐずりながら口を開く。
「僕がいたから…。」
侍は首を振る。
「お前はそこにいていいんだ。」
小太朗は一瞬躊躇し、それでも思わず侍に抱きつく。
やれやれと肩をすくめる女中。
泣きじゃくる小太朗が落ち着いた頃を見計らって、女中が声をかける。
「坊ちゃん、傷に触るから。」
小太朗の頭を優しく撫でながら続ける。
「このお侍さんも早く傷を治すためには、しっかりと休まないといけないんだよ。」
小太朗は頷く。
「坊ちゃんも疲れてるだろ。お姉ちゃんと一緒にしばらく寝ておいで。私が見といてあげるから。」
小太朗も、後ろ髪を引かれるように何度も振り返り部屋を出る。
「安心しな。子供達はお坊さんが見といてくれるってよ。」
侍は頷き、横になり目を閉じる。
背中の傷が、熱を帯びていた。




