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鍋侍と、弟子たち〜戦う前に、飯を食え〜  作者: now here man
第二部 旅の始まり

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19/23

頬を濡らすもの。

街の喧騒、漂う味噌の香り。

屋台は営業を始めた。

「やっと開店か。」

「待たせるんじゃねえよ。」

客達の声。皆一様に笑顔である。


桜の呼び込みの声が街に響き、小太朗は早くも額の汗を拭う。

侍の心には、何かが引っかかったまま。


昼過ぎには行列がひと段落し、交代で休憩を取る。

少しだけ気が緩む。


「まだやってたのか。」

十手の男の声がする。


小太朗が視線を上げた先には、十手の男とその部下達。

部下達が、屋台に手を掛け壊し始める。

抵抗する桜。


だが、大の男に敵うはずもない。

気がついた侍が慌ててやってくる。

迷いなく、十手の男の前に立ちはだかる。

男達は手を止め、二人を見守る。


「無許可の商いだ。見逃すわけにはいかん。」

侍は身じろぎもせず、十手の男の目を見つめる。

「許可を取れと言ったはずだ。」

場に緊張が走る。


桜が駆け寄り口を開き掛けたのを侍が制する。

「秩序を守るのが俺の仕事だ。勝手に商いをすれば、秩序が乱れる。」

十手の男は侍を睨みつける。

「人が集まれば揉め事が起こる。それを見逃すわけにはいかん。」


男は腰の十手に手を伸ばす。

「昔みたいに戦うか?この中村佐之助、受けて立つぞ。」

腰の小太刀に手を伸ばす桜の手を侍が抑える。

「お前が敵う相手ではない。」


二人の周りに人の輪ができる。

侍は、腰の木刀をゆっくりと構えた。

「お前と向き合うのは何度目だ?」

佐之助はジリジリと間合いを詰める。


「俺は昔から、お前には敵わなかったな。」

「緊張すると口数が多くなるのは、相変わらずだな。」

周りが見守る中、二人の間に緊張が走る。


「お前のやり方では多くは救えない。」

「俺は目の前の誰かを見捨てるつもりはない。」

張り詰める緊張。


佐之助はふっと力を抜く。

「お前に剣で勝てる気はしないな。」

周りを見渡しながら佐之助は呟く。

「周りを巻き込むわけにもいかんしな。今日は見逃してやる。」


佐之助はくるりと後ろを向き、歩き始める。

「次は許可を取れよ。」

部下達も後に続く。


ただ一人を除いて。

実直そうな若い男は、顔を紅潮させて肩で大きく息をしている。


「中村さん!このまま見逃すわけにはいきません!」

抜いていた刀を大きく振りかぶり、力一杯振り下ろす。

大きく弧を描く刀の先には、小太朗。

目をつぶり、体をギュッと強張らせた小太朗に刃が届くその瞬間。

黒い影が覆い被さる。

布が切り裂かれる音だけが聞こえる。

暖かいものが小太朗の頬を濡らす。


滲む血が、ゆっくりと広がっていく。

…静寂。

「…無事か。」

時が止まったかのような刹那ののち、小太朗は覆い被さってきたのが侍だったことに気づいた。


侍の掠れる視界の隅で、佐之助が若い男を蹴倒すのが見える。

「…そんなことしたら、かわいそうだろ。」

薄れる意識の中で、侍は呟いた。

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