炎の名残。
侍は浮かない顔で、宿の囲炉裏の火を見つめている。
炎に照らされて四人の影がゆらめいている。
「鍋の。あの男とはどういう関係なんだ。」
雲海が問いかける。
「昔の上司だ。すごい人だが、俺とは生き方が違う。」
囲炉裏の火がパチリとはじける。
小太朗と桜は、じっと俯いている。
「クヨクヨ考えても仕方ないな。明日に備えて早く寝るぞ。」
雲海は小太朗と桜を促す。
二人が眠りに落ちた後、侍と雲海は囲炉裏のそばに座っていた。
「…思い出したくないって顔だな。」
雲海が侍の湯呑みに酒を注ぐ。
侍は酒の濁った表面を見つめている。
酒が微かに揺れる。
耳が痛いほどの静けさが2人を包んだ。
激しい戦いの後の静けさ。
血の匂いが混じった、乾いた風を肌で感じる。
体が思うように動かない。
侍は目の前の泣いている子供のために、鍋の準備をする。有り合わせの材料で。
どこかで大きな声が聞こえる、友軍のようだ。
どうやら敵軍の兵がまだ隠れていたようだ。
周りの喧騒は侍の心には届かない。
侍の体は泥のように疲れ果てている。ただ、鍋を作ることに集中する。
気がつけば、あたりは火に包まれている。
木が焼ける匂い。
人々の嘆きの声。
「こんなところで何をしている。」
侍が見上げた先には、十手の男。
「鍋で目の前の子供を救っても、他の者達は救えない…。」
…囲炉裏の火が弾ける音に我に帰る。
雲海がただ静かに侍を見つめている。
侍は湯呑みの酒をひと口飲む。喉が焼ける。
「…強いな。」
雲海は無言で酒を注ぎ出す。
侍は酒の表面に映る炎を見つめる。
侍は湯呑みの酒を一息で飲み干した。
侍は薄明かりの中で目を覚ました。
外からは仕事熱心な棒手振りの声、豆腐やあさりなどを買い求める女衆の声が聞こえる。
侍はじっと掌を見つめている。
「朝か。」
一人呟く。
一瞬、昨晩の炎が頭をよぎる。
小太朗がもぞもぞと起き出す。
大きく伸びをして侍を見て微笑む。
「お師匠さん、おはようございます。」
侍は、視線をあげ小太朗に目を合わせる。
小太朗の気配に釣られて桜も目が覚めたようだ。
「おっさん、おはよう。」
侍は二人に朝の挨拶をする。
小太朗と桜は、慌ただしく朝の準備を始める。
侍は急かされるように、腰を上げた。




