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鍋侍と、弟子たち〜戦う前に、飯を食え〜  作者: now here man
第二部 旅の始まり

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12/23

雨の旅籠で。

生憎の天候だ。空はどんよりと曇り、今にも雨が落ちてきそうな重たい色をしている。


三人はようやく、大きな街道の宿場町へと辿り着いた。どうやら、降り出す前に滑り込めたらしい。


街は思いのほか賑やかだった。行き交う旅人、荷を引く馬、軒先で声を張り上げる商人。屋台からは味噌の匂いや、煮込んだ野菜の匂いが漂っている。

雨の気配など意に介さぬように、宿場町は活気に満ちている。


三人は街道の外れにある小ぶりな旅籠へ入った。


「三人だが、泊まれるか?」

帳場にいた中年の番頭が顔を上げ、気安く頷く。

「へい、大丈夫ですよ。」

三人は土間でそれぞれ草鞋を脱いだ。

番頭はその様子を見ながら座り直す。

「三名様だ。ご案内してくれ」


声をかけると、奥から女中が出てきた。女中は慣れた様子で一礼し、三人を奥へと案内する。


廊下を歩くたび、床が軋む音がする。どうやら、年季の入った旅籠らしい。


六畳ほどの個室へ通される。家具などは何もなく、ただ寝るだけの質素な部屋だ。

「畳があるのは有難いな。」

「最近野宿ばっかりだったからね。」

「三人で相部屋だから、足を伸ばしては眠れないわね。」

三人は荷を解き、しばしリラックスする。

桜は脚絆を外し、纏めていた髪を解く。


「晩御飯の準備ができました。」

先程の女中の声がした。


女中に連れられて、食堂へ。

たくさんの人たちが狭い食堂にひしめき合っている。

人々の話し声と、椀や箸の触れ合う音が食堂に満ちている。

「お師匠さん、ここが空いてるよ。」

小太朗が、空いてる席を見つけ、三人は滑り込むように座る。

女中が三人の食事を運んで来る。

麦飯と沢庵に味噌汁の質素な晩飯。


三人は旅の疲れもあり、黙々と食べる。

外は雨が降り始めたようだ。

雨の降り始めの匂いがする。


小太朗は無心にご飯を食べる。

桜も負けずに、大盛りの麦飯を食べている。


侍は、ふとこちらを見ている視線に気づいた。


視線の先には、大柄な坊主がいた。

爪楊枝をくわえ、じっとこちらを見ている。


「三人で旅か。どこに向かっているんだ。」

大柄な坊主が声をかけてくる。

「東の方に。人を訪ねていく旅だ。」

侍が答える。

「東といえば、技王か?」

侍は頷く。

「かなりの長旅になるな。」

坊主は顎をさすりながら言う。

「大人でも三週間はかかる距離だ。」

小太朗は驚いた。そんな長旅になるとは思ってはいなかった。


「そうなると路銀が心配ね。おっさん大丈夫なの?」

「ちと、厳しいな。」

侍は腕を組む。


「路銀ねぇ。何か金を稼ぐ特技とかはないのか?」

「お師匠さんの鍋は滅茶苦茶美味しいんだよ。」

「そうか。屋台でも出すか?」

「屋台を出そうにも、先立つものがないからな。」


しばし、沈黙が流れる。

食堂のざわめきの向こうで、屋根を叩く雨の音だけが聞こえていた。


「わしはこの辺じゃ、顔がきく。」

坊主は三人の顔を順番に眺める。

「だから、わしが屋台を用意してやろう。ただし売り上げの四割……」

坊主は少し考え、笑った。

「いや、三割でいい。」

侍は腕を組み、考え込む。


「その前に料理の腕を見せろ。美味いもんが作れるんだったら、屋台を用意してやろう。」


小太朗と桜は、先ほどの女中に声をかけた。

事情を話すと、女中は少し驚いた顔をしたが、

「少しだけなら構いませんよ。」

と台所を貸してくれることになった。

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