雨の旅籠で。
生憎の天候だ。空はどんよりと曇り、今にも雨が落ちてきそうな重たい色をしている。
三人はようやく、大きな街道の宿場町へと辿り着いた。どうやら、降り出す前に滑り込めたらしい。
街は思いのほか賑やかだった。行き交う旅人、荷を引く馬、軒先で声を張り上げる商人。屋台からは味噌の匂いや、煮込んだ野菜の匂いが漂っている。
雨の気配など意に介さぬように、宿場町は活気に満ちている。
三人は街道の外れにある小ぶりな旅籠へ入った。
「三人だが、泊まれるか?」
帳場にいた中年の番頭が顔を上げ、気安く頷く。
「へい、大丈夫ですよ。」
三人は土間でそれぞれ草鞋を脱いだ。
番頭はその様子を見ながら座り直す。
「三名様だ。ご案内してくれ」
声をかけると、奥から女中が出てきた。女中は慣れた様子で一礼し、三人を奥へと案内する。
廊下を歩くたび、床が軋む音がする。どうやら、年季の入った旅籠らしい。
六畳ほどの個室へ通される。家具などは何もなく、ただ寝るだけの質素な部屋だ。
「畳があるのは有難いな。」
「最近野宿ばっかりだったからね。」
「三人で相部屋だから、足を伸ばしては眠れないわね。」
三人は荷を解き、しばしリラックスする。
桜は脚絆を外し、纏めていた髪を解く。
「晩御飯の準備ができました。」
先程の女中の声がした。
女中に連れられて、食堂へ。
たくさんの人たちが狭い食堂にひしめき合っている。
人々の話し声と、椀や箸の触れ合う音が食堂に満ちている。
「お師匠さん、ここが空いてるよ。」
小太朗が、空いてる席を見つけ、三人は滑り込むように座る。
女中が三人の食事を運んで来る。
麦飯と沢庵に味噌汁の質素な晩飯。
三人は旅の疲れもあり、黙々と食べる。
外は雨が降り始めたようだ。
雨の降り始めの匂いがする。
小太朗は無心にご飯を食べる。
桜も負けずに、大盛りの麦飯を食べている。
侍は、ふとこちらを見ている視線に気づいた。
視線の先には、大柄な坊主がいた。
爪楊枝をくわえ、じっとこちらを見ている。
「三人で旅か。どこに向かっているんだ。」
大柄な坊主が声をかけてくる。
「東の方に。人を訪ねていく旅だ。」
侍が答える。
「東といえば、技王か?」
侍は頷く。
「かなりの長旅になるな。」
坊主は顎をさすりながら言う。
「大人でも三週間はかかる距離だ。」
小太朗は驚いた。そんな長旅になるとは思ってはいなかった。
「そうなると路銀が心配ね。おっさん大丈夫なの?」
「ちと、厳しいな。」
侍は腕を組む。
「路銀ねぇ。何か金を稼ぐ特技とかはないのか?」
「お師匠さんの鍋は滅茶苦茶美味しいんだよ。」
「そうか。屋台でも出すか?」
「屋台を出そうにも、先立つものがないからな。」
しばし、沈黙が流れる。
食堂のざわめきの向こうで、屋根を叩く雨の音だけが聞こえていた。
「わしはこの辺じゃ、顔がきく。」
坊主は三人の顔を順番に眺める。
「だから、わしが屋台を用意してやろう。ただし売り上げの四割……」
坊主は少し考え、笑った。
「いや、三割でいい。」
侍は腕を組み、考え込む。
「その前に料理の腕を見せろ。美味いもんが作れるんだったら、屋台を用意してやろう。」
小太朗と桜は、先ほどの女中に声をかけた。
事情を話すと、女中は少し驚いた顔をしたが、
「少しだけなら構いませんよ。」
と台所を貸してくれることになった。




