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鍋侍と、弟子たち〜戦う前に、飯を食え〜  作者: now here man
第二部 旅の始まり

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13/23

ドジョウ鍋。

台所には、竈に鍋など一通りのものが揃っている。

食材も好きに使っていいとのこと。

「さて、三人の腕前を見せてもらおうか。」

坊主は土間に座り、三人を眺める。

「何でもいいのか?」

侍の問いに頷く坊主。

「ただし、美味くなかったら、屋台は無しだ。」

坊主はニヤリと笑う。


腕組みをする侍を見ながら、小太朗も腕組みをする。

「食材は、残り物のご飯とちっちゃい魚があるよ。味噌や醤油も使っていいって。」

桜が女中に確認して言う。


「魚はドジョウだな。この地方はドジョウがよく取れるのか?」

侍の問いに、成り行きを見守っていた女中が頷く。

「手に入りやすい食材なら僥倖だ。」

侍は顎をさすりながら呟く。

「ではドジョウ鍋だな。」

侍は懐から包丁を取り出す。


「わしは晩飯を腹一杯食べてるから、よっぽど美味くないと合格にはしてやらんぞ。」

何故か楽しそうな坊主。


「このドジョウは泥抜きはしてあるの?」

桜は女中に尋ねる。

「はい、一日は水に付けてます。」

「泥抜きしなかったらどうなるの?」

首を傾げる小太朗。

「泥が残ったままだったら、ジャリジャリするに決まってるじゃない。」

桜が呆れたように答える。


侍は、ドジョウに塩を振ってぬめり取りを始めた。

小太朗は火おこし、桜は長ネギと豆腐を切り始める。

侍は二人にテキパキと指示を出す。

調理場に活気が満ちる。


侍は、水と酒に、醤油と味醂を加えた出汁を鍋に入れる。

そしてごぼうをさきがけにして投入。

中火で沸々と煮立ってきた鍋に、ドジョウを入れ味噌で味を整える。

その上にドジョウが隠れるほどの長ネギと豆腐。

火加減を調整する小太朗の額に汗が光る。


蓋を開けた瞬間、味噌の香りが立ち上った。

鍋いっぱいのねぎの下で、どじょうが煮えている。

「お好みで山椒をかけても良いな。」

言いながら、侍はお椀にドジョウ鍋をよそう。

小太朗は、一仕事終え、大きく息を吐く。

「意外と大変だったわね。」

桜は額の汗を拭く。


坊主はお椀を覗き込む。

「良い香りだが、果たして。」

ひと口、汁を啜った坊主の表情が変わる。


ふわりと立ち上がる湯気が顔を包む。

味噌の濃い香りに、川魚特有の土の気配が混じり、それが妙に食欲を刺激する。


ごぼうの香りがそこに絡み、酒と味噌、味醂と醤油の出汁が全体を丸くまとめている。


箸を入れると、抵抗なくすっと切れる。

身はもう骨を感じさせないほどに煮崩れ、ほろりと崩れて味噌をまとったまま持ち上がる。


ひと口。


最初に来るのは、味噌の濃厚なコク。

すぐに、その奥からドジョウの旨みがじわりと広がる。

泥臭さは消え、代わりに滋味だけが舌に残る。

ごぼうの土っぽい香りがそれを引き立て、どこか懐かしい深みになる。


坊主は、何も言わずに最後のひと口を啜る。

そしてゆっくりと椀を差し出した。

「……おかわりだ。」


侍は坊主にお替わりを、そして小太朗と桜にそれぞれ一杯ずつお椀を渡す。

「お師匠さん、初めて食べたけど美味しいです!」

「…まあまあね。」

二人ともお替わりを食べ始める。


侍は成り行きを見ていた女中にも勧める。

ひと口食べた女中は、

「こんなに美味しいドジョウ鍋、初めて食べました。」

すっかり笑顔に。


小太朗は、これで屋台ができると思い坊主を見る。

坊主は難しい顔をして腕組みをしている。


しばらく沈黙した後、坊主が口を開いた。

「……美味いのは間違いねえ。だが、それだけで屋台を任せるわけにもいかねえ。」

坊主は侍を見ながら言う。

「もう一品作ってみろ。」


「確かに美味い。だが作るのに時間がかかりすぎる。」

坊主の言葉に侍は頷く。

「見た目も好みが分かれる。」


「それにドジョウ鍋はおっさんじゃなきゃ作れない。」

小太朗は桜の言葉に頷く。

「お師匠さん、どうしたらいいんでしょう。」

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