Lv5 ▼ゲームより朝ごはん!
今まで手付かずで放置されていたと思われる日記帳(メモ帳代わり)とペンを用意し、ゲームの内容を書き出す。
念のために日本語で書くことにしよう。
まずはゲームそのものについて。
若者を中心に絶大な人気を誇ったスマートフォンRPG『勇者伝説』とはその名のとおり、勇者とその仲間たちが冒険に出て魔王を倒すというもの。プレイヤーは勇者と聖女の二つから選ぶことができ、どちらも伝説の力なるものが使える設定となっている。ゲームタイトルだけ聞くと、良く言えば古風、悪く言えば古臭いと思われがち。
にも関わらず多くのファンを獲得できたのは、ビジュアルクオリティが控えめに言って神であったからだろう。
壮大な世界観、とにかく美しいキャラや背景によってたくさんの若者たちが膨大な容量を許容してまでゲームの世界に引きずりこまれたとかなんとか。また、熱狂的なファンの中にはキャラクター推しの人たちもいたそうな。
ちなみに!! 私は言わずもがな聖女様推し!
魔法陣の展開シーンなんてとっても素敵なんだ!
おっと! ついついテンションが上がって、日記帳もといメモ帳に書き殴ってしまった。
ふう、気を取り直して。
次にゲームのストーリー!
多分、ゲームの始まりは、主人公が勇者として認められて魔王討伐の旅に出発するところからだったはず。時代の表記はなかったから、私がいるこの世界と同じ時間軸とは限らないよね。
あっ。さっきは興奮して全然考えられなかったけれど、王太子殿下はゲームの王子様のご先祖様だったり子孫だったりする可能性もあるんだ。もし彼が子孫なら、勇者たちのことが英雄として伝えられているだろうから、あとでアンさんに聞いてみよう。
ゲームの主な流れは、勇者たちが仲間とともに敵を倒しつつ魔王城を目指す感じだったかな。仲間は勇者と聖女の他に魔法使いと戦士もいた気がする。
オールマイティな勇者と回復にも強い聖女、攻撃魔法特化の魔法使いに武闘派の戦士。うん、結構均衡のとれたパーティーだね。
敵は……ええと、べちょべちょしたスライムとかなんか強そうな魔物とか、いっぱいいた気がする。私は勇者たちのHPをギリギリまで削らせて聖女の治癒シーンを増やそうとしてばっかりだったから、敵の種類とかもう覚えてないな!
うーん。覚えている範囲ではこんなものかなあ。絶対他にもあると思うんだけれど。まあ、今世の記憶すら思い出せていないのだから仕方ないか。他に思い出したことがあったら随時このノートに記すことにしようっと。
「お嬢様、お茶をお持ちしました」
あっ! アンさんが戻ってきた! やっとご飯が食べられる!!
「ありがとうございます!」
コトリと置かれたティーカップからは、ほっと落ち着く香り。三段重ねのケーキスタンドには小さなサンドイッチやスコーンに、クッキーやマカロン、フルーツタルト等の焼き菓子たちが可愛らしく並んでいる。
「お嬢様がお好きな、ハーブティーと軽食のセットでございます」
わあーい!! なにこれ、すごくおいしそう!
ルーナはいつもこんなの食べているんだ。いいなあ。では、いただきます!
「…………! おいしーです!」
味も見た目も、さすが公爵家としか言いようのないくらいに一流。サンドイッチは小さいけれどしっかりと野菜の味が楽しめるし、苺のジャムとクロテッドクリームを塗ったスコーンはしっとりしていて絶品。クッキーもタルト生地もさっくさくで、上品な香りのハーブティーとよく合う!
これはフィーブル家の料理人たちとお茶を淹れてくれたアンさんをスタンディングオベーションをして褒め讃えたいくらいのおいしさ!! ありがとう料理人さんたち! ありがとうアンさん!!
ふぅ。ひととおり食べ終えて、満足満足。
――と。ふと思い出し、お茶のおかわりを淹れてくれているアンさんに声をかけた。
「アン、あなたに訊きたいことがあるのですけれど」
「なんでしょうお嬢様?」
不思議そうに首を傾げるアンさん。そんなところも可愛いなあと思いながらも私は本題を口にする。
「この屋敷に、復活した魔王を倒した勇者様方についてのご本はあるのでしょうか?」
どきどき。
「復活した魔王、ですか? 『建国の王』が魔王を倒した以降の勇者様はまだいらっしゃらないと思うのですが」
建国の王? あっ! 建国の王! ルーナ脳内辞典に建国の王もあったみたいだね。
でも、それもそのはず。建国の王といえば、リルザント王国に生まれたものなら知らない人はいないというほど有名なお方なのだから。齢三十にして若人にも劣らない強靱な肉体と知能をもち、聖女とともに魔王を倒し、このリルザント王国を築いたお人。とにかくすごい人なのだ。彼の英雄譚は、子供向けの絵本や、数々の書物によって貴族・庶民関係なく多くの国民に伝えられているそう。
そっか。建国の王以来まだ勇者が出ていないということは、まだゲームは始まってないということだね? だってゲームの主人公は十代の精悍な若者っていう設定だったもん。
ちょっと残念だけれど、ざっくりとした時系列がわかってよかった!
「あ! ですがお嬢様!!」
少ししょんぼりしていたのがばれてしまったのか、アンさんはフォローを入れてくれた。驚愕のひとこととともに。
「あと十年後の話にはなりますが、『聖女天授の儀』が行われますよ! 今の聖女様が引退を決められましたので、神に愛されし乙女から次の聖女様を選ぶのです」
「え!?」
なんですかそれ! 聖女様を選ぶ儀式!?
「あの! そ、そのお話、詳しく教えて下さい、アン!!」
「は、はい! もちろんです!!」
なんということでしょう。一日の情報量多すぎませんか、神様!?