Lv6 ▼聖女になりたいですっ!
今回は説明多めのお話です。お付き合いくださいませ!!
今日一番であろう鼓動の音を静めながら、アンさんの一挙一動に注目する。はああ、期待と興奮が止まらないよ。
「こほん。では、最初に聖女天授の儀について説明させていただきますね。聖女天授の儀とは、魔力・作法・知性において最も優れた『神に愛されし乙女』を次代の聖女様とする儀式なのです。そして、同じときに現職の聖女様が引退される『返戻の儀』が行われます。聖女天授の儀にて聖女となった女性は、先代の聖女様から『聖女の秘術』の魔法陣が組みこまれたシルク製のヴェールと、リンカーナの花を模したガラスの耳飾り、そして聖女の証である名が贈られるのです。噂では、神からのご加護も受けられるのだとか」
お、おおお!! すごいっ! ファンタジーだ!! わくわくするよね!!
ちなみにリンカーナの花とは日本でいう白百合に似た花のこと。光にかざすと神々しく透きとおって見えることから神に捧げる花『神花』にもなっているとか。すごく綺麗なんだって。見たことはないけれど。
「そうなのですね!! 初めて聞きました!」
聖女についてはルーナ脳内辞書にもなかった内容だったんだ。まあ、もし知っていたとしたら最初に思い出しただろうね!
「お嬢様がお勉強なさるのはもう少しあとの予定でしたから。ここまでのお話でご質問などはございますか?」
アンさんの問いかけに、私は手をピンと上に伸ばして答えた。
「聖女様に年齢制限はあるのですか?」
「年齢制限というほど明確なものではありませんが、毎回候補に挙がる女性たちは成人の十六歳~二十歳くらいだったと思われます。お嬢様は十年後には十七歳になられますのでちょうど……はっ! 出過ぎた真似を! 失礼いたしました!!」
あれ、私にもチャンスがあると? いやいや、そんな恐れ多い! やっぱり私なんかが聖女なんて無理だよねえ! あはは!
で、でも、今から勉強すれば聖女になれるチャンスがあるかもしれないのかなあ。
って、アンさん、また顔が真っ青になっちゃっている。そんなに萎縮しなくていいんだよ。
あああ、震えないでぇ! 今までの可愛いアンさんを知っているだけ悲しくなっちゃうから!
「ええと、アン?」
「は、はい! 申し訳……」
「謝らないで下さい。あなたの言葉は、とても嬉しいものなのですから!」
慌ててフォローを入れる。だってアンさんには嫌われたくないんだもん。
「お、お嬢様!!」
あれ、アンさんの中で私の株がちょっと上がった? 心なしかアンさんの目がキラキラ輝いている気がするもん。わーい嬉しい!
と、喜びに打ち震えていたいところだけれど、話を逸らしまくってしまったのでいったん本題に戻ろう。
「あの、一番気になっていたことがあるのですが」
「なんでしょう?」
すうっと息を吸って、覚悟を決めてから思いきって声を上げる。
「私にも、聖女様になれるチャンスがあるのでしょうか!」
聖女様に憧れてはいたけれど、もし自分にもチャンスがあるのなら、と考えてしまうのはおこがましいことなのかな。でもこの世界でなにか目標をもてたらもっと楽しいと思うんだ。せっかく勇者伝説の世界に転生できたんだし! ルーナは美少女だし!
「もちろんですとも!」
アンさん即答。え、ほんとに? そんなに断言しちゃって大丈夫? 私、すぐうぬぼれちゃうよ?
「本当ですか?」
「お嬢様は私どもにも気を遣って下さるほどお優しい方ですし、フィーブル公爵家は魔力の強いお子が生まれやすい家系ですので問題はないかと思われます! それに、公爵令嬢でいらっしゃるお嬢様が聖女を目指すと知ったら、多くの貴族が支援すると思いますよ」
なんと! それはまずいですよ。
「アン。聖女になりたいというのは、お父様たちには内緒にしてくれませんか?」
「…………? かしこまりました。しかしなぜ旦那様方には内緒にされるのですか?」
「だって私の意思として今このことを公言してしまったら、貴族の後ろ盾がついてしまうのでしょう? 他の候補たちが実力で登りつめようとしているというのに、私だけが権力を振りかざして候補に入る可能性もあるということですよね。
そう。今までなにも考えずに聖女聖女と言っていたけれど、私は公爵家の一人娘。
本当は権力抗争やらなんやらに関わらなくてはいけない。聖女ともなればなにかしらの権力もあるだろうからよけいに。私が読んでいたおとぎ話やゲームの中とは違うんだ。
それに――、
「それに、私に後ろ盾がついてしまったら、他の貴族令嬢の味方をして、フィーブル公爵家を潰そうとする勢力が生まれてしまうかもしれないでしょう。平和の象徴たる聖女様を巡ってそんな私利私欲にまみれた争いが起こるなんて、まっぴらごめんです」
みんなの幸せを祈って戦い、生きたゲームの中の聖女様。だから私は『勇者伝説』が大好きだったんだ。国民にちやほやされ愛されるだけのポジションではない。その国民の気持ちを受けとめて、護れるほどに強くて優しい女性なのだ。
言いたいことを全部まくし立てて、はっと顔を上げる。そこには、ポカンと口を開けて立つアンさんがいた。
そうだった! 今の私は七歳だったんだ。つい前世の調子で話しちゃったよ。変だったよね。ワガママお嬢様が急に使用人と仲良くしたいと言っただけでも違和感なのに、なんか権力抗争とかなんとか難しい話をペラペラと語るなんて。
これは、言い訳しなければ!
「こ、これはご本で読んだもので、」
「お嬢様! このお歳でそこまで考えていらっしゃったなんて!! 私、感激いたしましたっ! このアン、お嬢様との秘密は墓場にまでもっていきますっ!」
「そ、そう? ありがとう」
えっと、アンさん? なんだかあなたが心配になってきたよ……もっと疑う気持ちをもとう? 主人を疑うことは使用人としてはアウトなんだろうけれど!! でもアンさん、こんなに私にも優しいなんて、いつか大きなことでだまされちゃいそうで怖いよ!?
「お嬢様はやっぱりお優しいのですね」
今までで一番の笑顔で、アンさんが言った。
もういっか。アンさんと仲良くなれているし。笑顔が可愛いし。
「ふわぁ」
とても、とっても可愛いアンさんの笑顔を眺めていると、眠気が襲ってきた。そういえば今日はすごく色々あったもんね。それにおいしいご飯もたらふく食べたし。もう今日は寝ちゃおうかな。まだお日様は昇っているけれど、そうしよう。
「アン。今日は疲れたので、もう寝たいです」
「はい! 寝具の用意をしてまいりますね!」
可愛いフリルの寝間着に身を包み、ふかふかのベッドに思いっきり飛びこんで。
私は、深い眠りについた。
ルーナの転生一日目、やっと終わりました...。
次回は番外編が入りますが、ちょっとだけ動き出したこの物語を、これからもよろしくお願いします!!




