Lv3 ▼7歳で縁談なんて聞いてないですよ!?
また誰か使用人さんらしき人が来たよ!?
いつもこのぐらいの人が訪れるのかな。
だとしたら、私も大変だ。ついつい自分に同情しちゃう。
「ロル、お嬢様はお食事中よ。時間をおいて下さいと旦那様にお伝えして」
ナイスです、アンさん!! と思ったのも束の間。
「いえ、なにがなんでもお嬢様を連れてくるようにとのことですので……時間がありません。急いでご準備を!」
ええー。そんなに急ぐ用事ってなんですかー。
そもそもお父様のことを覚えている自信がないのですが? 使用人の方々はごまかせても、実の父親にはバレちゃうと思うんだけれど。
「お嬢様、お食事中失礼します。旦那様がお呼びですので、ドレスに着替えさせていただきますね」
アンさんとロルさんがどんどん話を進めていく。
「は、はい」
はっ! ついうなずいてしまったけれど、これってつまり朝ご飯を食べる時間を逃しちゃうのでは!?
「ではお嬢様、ただ今よりドレスを選ばせていただきますね。少々お待ち下さい」
そう言うとアンさんはあれこれとドレスを選び始めてしまった。
もう逃げられそうにない。
うう、マイブレックファスト―!!
*****
「お嬢様! 大変お可愛らしいですよ!!」
朝ご飯を食べそこねて拗ねている私をどうにかおだてながら、アンさんたちはお父様――つまり公爵様の書斎まで案内してくれた。
「旦那様、お嬢様をお連れしました」
「ああ、入りなさい」
扉の向こうから低く威厳のある声が聞こえてくる。それは初めて聞く声のはずなのに、『間違いなくお父様だ』とわかる声。
「し、失礼いたします」
恐る恐る中に入ると、その声に似つかわしくない、柔和な笑みを浮かべたイケメンさんがいらっしゃいました。
うわぁ……さすがルーナの父親。超絶美形だよね。
アンさんもそうだけれど、この世界には美形が多いのかな?
ということはルーナの『お母様』も美人なのかなあ。
……あ、でも、そっか。今思い出した。ルーナの母親は、彼女を産んですぐに亡くなっているんだった。
自分のことながら他人事のように思いつつ、とりあえずお父様に挨拶をする。
今は目の前のことに集中しよう!
「お父様、おはようございます」
「おはよう。朝から呼び出してしまって、すまないね」
「いえ、大丈夫です」
本当はお腹がすいて倒れそうですが。
というか、お父様は私の丁寧な対応を見て驚かないんだね。さすがに親の前では少し猫かぶってたのかな、ルーナ。
「君たち、ルーナと私を二人きりにしてくれないか?」
お父様に命じられ、アンさんとロルさんは頭を下げて部屋を出ていく。
え、ということは二人きり!? すごく不安!
パタンと扉が閉じられてしまい、深い沈黙がその場を支配する。
最初にその沈黙を破ったのは、お父様だった。
「実はな、これはまだ公表していない話なのだが……先日、王家からお前と王太子殿下との縁談の申しこみがあった」
「縁談、ですか」
えええ縁談って! 七歳児で縁談するのが普通なの!?
それとも、王太子殿下がロリコン野郎さんなのだろうか。
「貴族の者であり、同時に王太子殿下と年齢が近い娘がお前だけだったようだ。殿下は、お前より一つご年長でいらっしゃる」
よ……よかったあ! そうだよね、そんなに歳の離れた相手との縁談はないもんね。
でも、縁談か。この世界のこともまだよくわかってないのに、王太子殿下の伴侶としてふさわしい振る舞いなんてできるのかな?
「そして、本題はここからだ」
「はぁ」
縁談だけでもいきなりでビックリなのに、まだあるの……? 怖いんですが。
「王太子殿下がな、お前をひと目見たいとおっしゃっているんだ」
うわぁ、すごく心臓に悪い本題ですね?
元庶民には、王族の方に謁見するなんて緊張どころの話じゃないよ。
「そうなのですか。それで、殿下はいついらっしゃる予定なのですか?
」
「それが……お忍びですでにいらっしゃっているんだよ」
「は?」
ええええええ!? すでにいらっしゃっているって、なに!? 王太子殿下好奇心旺盛すぎるよ!! これで大至急呼ばれた謎が解けたよ、もう!
「というわけで、今すぐ応接間に行こう。殿下をこれ以上お待たせするわけにはいかないからね」
お父様はひきつった笑みを浮かべ、私を応問答無用で応接間まで連行していった。
連行の様子を心配そうに見つめる、アンさんたちメイドさん一同。私になすすべなどなく、アンさんたちにヘラリと笑いかけることしかできなかった。
「お待たせしました」
引き締まった表情をしたお父様に続いて、応接間へ入る。
本当にお忍びなのだろう、護衛の騎士も最低限しかいない。
「失礼いたします。遅くなってしまい申し訳ありません」
「いえ、大丈夫ですよ。こちらが押しかけてしまったようなものなので」
そう、子供らしからぬ受け答えをして微笑んだのは――。
「え、まさか……嘘でしょう?」