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「また来たか」
「命令を。我々が殲滅します」
ニネフォスから派遣されてくる兵士たち。今回は前回よりも数が多い。カウルゼンツの部下である彼らも完璧、無敵、最強というわけではない。敵兵に逃亡を許すこともあれば、彼らも数に押され傷つき最悪打倒されることもあるだろう。前回はまだ数がそこまででもなかったということもあり彼らの中に犠牲を出さず倒せたものの、今回は前回の数倍以上の数。数をそろえれば問題ないかと言われればそういうわけでもないが、なんだかんだで数は強い。損耗、消耗の問題はどこまでも付きまとうだろう。
「待て。さすがにお前たちが相手をするにも数が多すぎよう」
「……私たちの中に犠牲を出す可能性は考慮しています。ですが、カウルゼンツ様の敵である以上彼らを倒さなければいけません」
「それは当然だ。我が敵となった以上滅ぼし殲滅する、それ以外の道は用意されん。しかし、それを行うのがお前たちである必要もない。いや、我も無駄に動きたいわけではないがな。無駄な犠牲を、無駄な消耗を、せっかく得た我が財産が消えうせるのは我慢ならん」
「……財産ですか」
「お前たち、我に仕えし忠を尽くす部下は我の財産。我のための道具だ。せっかく得たお前たちを補充するのもまた結構面倒なものだ。ゆえに損耗は避けたい」
「しかし、彼らを放っておくわけにもいきません」
「わかっておる」
カウルゼンツとしても自分の部下が損害を受けることはあまり望ましくない。いや、厳密にいえば、カウルゼンツの所有物である部下が損耗することは望ましくない。それはつまりカウルゼンツの財産に損害を受けることとなるのだから。しかしそうなるとカウルゼンツは敵前逃亡するしかないだろう。味方に損害を受けることが気に入らないなら戦わない道を選ぶしかない。しかし友好は望めない。そもそも友好などカウルゼンツの方から蹴って拒絶したことである。ならば回避するかといえば、カウルゼンツは自分を王であると自負している以上、そんなことをするつもりは一切ない。逃げれば王としての誇りを失う。真っ向から立ち向かうにきまっている。
だがカウルゼンツは部下を損失するような戦いをするつもりはない。ではどうするというのだろうか。
「お前たちにはまだ我の力を見せてはいないかったな」
「……カウルゼンツ様のお力ですか?」
「うむ。神の剣を得た我はお前たちを今の姿にした。我に仕えしものたちにした。あとはその際に逃げぬようにしたくらいか? しかし、神の剣の力はその程度ではない。神の剣は絶大な力を有する。それこそ、国の軍を相手にしても問題ないくらいにな」
「なあ、どこにいると思う?」
「わからん。だが以前の話を聞く限り、軍勢を見ればすぐに向かってくるんじゃないかって話だ」
「まじか……前の兵は全員やられたんだろ?」
「一応逃げてきたやつもいるが……戻ってこれなかった奴がほとんどだな」
「勝てっかなあ」
「勝つしかないだろう。死にたくなければ買って倒す、それだけだ」
「……何人死ぬんだろうな」
「わからん。だが……俺たちも国に仕える兵士だ。命の限り戦いつくすしかない」
「でもよお、今回の前の王様が相手なんだろ? 今の王様との争いだろ。なんで俺らが……」
「そういわれても困る。俺たちのせいじゃないし、今の王様のせいでもない。前の王様が悪いんだろう」
「だとは思うんだけどよ……はあ、なんで俺たちがその煽りを受けなきゃいけないんだか」
兵たちもこの戦いに関して疑問に思うところや不満に思うところがある。この争いは基本的に他国を相手にしてのものではなく自国内の内ゲバである。それも原因は前の王、王族。それに対抗するのも今の王である。結局のところ一般的な民、兵士、そういった人物にとっては自分たちのあずかり知らぬところで起きたことに対しての対価を支払わされているように感じるわけである。さらに言えば、前回兵士を送りほぼ帰ってこなかった事実があることから今回もそれに等しい損害が出てもおかしくないと考えられる。いや、前回の兵士が頑張り相手を損耗させていれば、そのおかげで今回は勝てる可能性もある。そう考えれば今回は犠牲が少なくいけるかもしれない。前回の犠牲の上に成り立つとはいえ、それはかなり大きい。
「ん……?」
「どうした?」
「いや、空が」
そう兵士が言うとそれにつられるように上を見上げる。空にはバリバリと稲光のような光が走っている。しかしそれはおかしな話だ。空は雲がかかっているわけでもない晴天。晴れた空に雷が、というのはあり得ないとは言わないものの、これほどはっきりと、しかも続けて稲光がは死し続けるというのも変な話だ。そしてそれは最初は少し変に発生している、と思う程度であったというのに。時間が経てばたつほど、その稲光は強くなり、増えて空を満たしていく。
「な、なんだあれ!?」
「わからん!」
そのまま空を走る稲光はまるで玉のようになる。稲光の玉、それが空に浮かび上がる。何が何だかわからない兵士たちは何が起こるかわからないそれに視線を向けつつ様子を見る。彼らの行動次第ではそれがどういった行動をとるかわからない。そもそも生き物かどうかも不明だ。生き物であれば彼らとしては刺激したくないだろう。ただ一番可能性があるのは、それが何者かによって起こされている現象でること。そうなった場合その何者かは何のためにその現象を起こしているのか。
そして兵たちの動きが止まりしばらくして……稲光の玉から、大地に向けて雷が走る。
「来るぞ!」
「くそっ、もしかしたらと思ったが敵の攻撃か!」
「防ぐ……のは無理か!?」
「逃げろ逃げろっ! 雷が降ってくるのは防げないだろ!」
稲光の玉から無数の雷が兵士に対して降り注ぐ。稲光の玉は雷が離れ無数に降り注ぐ中、大きさを変えることなく稲光を携えている。そして兵士たちは逃げ惑う。雷とい形のない物、空に存在するという事実ゆえに手を出しようがなく、それを行う術者も不明だ。いや、一部ニネフォスの兵士には似たようなことをした存在に覚えがある………………ものもいるかもしれないが、それともまた違う。その時の術者、その争いは別のもの。そもそも今回のこれは前王を相手にしているもの。前の王がその人物を雇う可能性も、仲間に引き入れる可能性もないだろう。単に似ているだけと考えられる。
いや、重要なのはそこではない。雷は人に防げるものではない。魔法使いが扱う魔法による防御であれば不可能ではないだろう。しかし兵士たちの中にそれだけの強さ、魔法を使える人物はいない。そもそも使えるにしてもずっと降り注ぐ雷のすべてを防ぎきれるものではない。
「なんだ!? おい、あれ」
「逃げ……られない……のか……?」
降り注ぐ雷は徐々に増え、いや、増えるというよりもそれはまるで壁のように、兵士たちすべてを覆いつくすように、落ちてすべてをすりつぶす板のように空に並んでいた。そしてそれは一斉に大地へと降り注ぐ。隙間はない。兵士たちが逃げるのも間に合わない。そもそも雷が大地に落ちる速度よりも早く動ける者は普通はいない。つまりそれは、確実に兵士たちを殺す雷が降り注ぎ彼らを襲う、その事実につながる。
そして死の雷は落とされた。
「こんなものか」
「…………流石はカウルゼンツ様です」
「当然である。あの程度ならばそこまでの力を使わなくともよい。まあ、面倒ではあるがな」
兵士たちを殺戮した雷を起こしたのは当然カウルゼンツである。神の剣は魔法のような力を扱うこともできる……それは魔法とはまた別の力。神の力といっても差し支えのないものである。まあ、本当の意味での神の力とはまた違うが、強大で膨大で、簡単には防げない力。また魔法などではできないようなこともできる力である。かつて公也が行ったことのある魔法、それに近い現象であるが……カウルゼンツのそれは効率がいい、攻撃が早い、また常にカウルゼンツの意思によって支配されている現象、好き勝手先々までその力をふるい続けることのできるもの。その代わり使う力はカウルゼンツの持つ神の剣に宿る力であり、そのエネルギーは補充が面倒くさいものだ。効率がよくとも魔力のように時間で回復し毎日使える、というものではない。そういう意味では損失は大きいともいえるかもしれない。
「さあ、行くぞ。卑劣な王を討ち、我が王へ返り咲く。ここまですれば彼の者に従うものもいなくなろう」
「はっ」
今回送り込んだ兵士たち、前回も含めその総数はなかなかだが、それでも全員というわけではない。まだ戦うことはできる……しかし、流石にこれだけ犠牲を出して戦い続けようとはしないだろう。王が戦うことを決めても、兵が従うかはわからない。そのまま兵たちの反乱でも起こればカウルゼンツが楽に王座を取り戻せるだろう。それはそれでありがたい話である。まあ、そうはならないと思われるが。




