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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
二十三章 神の剣
687/1638

7






「うっ………………ぐ……」


 戦場。多くの兵が倒れ伏し大地を赤く染めている。何が起きているかといえば、一方的な蹂躙、殲滅。大量の屍が転がる光景がその結果である。しかし、この光景は少々見ているものがいればなぜこうなったのか、と疑問に思うものでもあるだろう。大地に大量に倒れ伏す屍は一国のもの、一方のもの。いや、より厳密にいえばその一方のみ。もう一方の側の屍は一つも転がっていない。そもそもの前提として、屍が残っていないもう一方は絶対数がそもそも少ない。つまりはこの光景は圧倒的に数が少ない集団を数の多い集団が押しつぶそうとしたが、数の少ない集団が強かったゆえに逆に倒されて敗北した、そういう形になる。


「………………」

「くそ…………化け物め……」


 自分を見下ろす人に似た何か、それに向けて罵る兵士。それは人間によく似ている。肉体的なつくりなど、見かけも結構人間似ているところがある。しかしそれ人間ではないというのは確かにわかっている。人種族、獣人やエルフみたいな人間に近い種族なのか、あるいは魔物の一種なのか。そのあたりのことは不明だが、それは人間をはるかに超えた肉体能力を有している、それだけはわかる。そしてそれは一切の容赦も慈悲もない。ただ機械のように、非生物的な効率的な動き、行動によって兵士たちを殲滅した。

 今もまたその人に似た何者かは兵を見下ろすだけだ。そこに感情の揺らぎ、心の動きがあるようには見えない。そしてその人に似た何か、敵は兵に向けて足を振り下ろす。ぐしゃりと頭がつぶれ、生き残っていた彼もまた他の屍の仲間入りをする。


「………………」


 兵を踏み殺したそれは周囲を見やる。ほかに敵がいないか、あるいは何か脅威になる物はないか、現在の状況の確認のためだ。それの他にも兵の蹂躙を行った、生き残った兵士の始末をしている仲間はいて、だいたい全体を見る限りではもうこれ以上殺す必要のあるなにかはいないそんな様子に思える。


「終わったか?」

「カウルゼンツ様。今はまだ確認の途中ですが……恐らくはもうほぼ殲滅したと」

「うむ。もっと早く終わる物かと思ったのだがな」

「申し訳ありません」

「よい。お前たちならこの程度なのだろう」


 人に似た何かが敬意を表し現状報告を行っている相手は偉そうな人物、それも彼らとは違う、この場にいる兵士と同じおそらく人間と思われる人物。偉そうとはいうが、見た目も豪奢というか、明らかに戦場に立つには似合わない華美で動きにくい服を着ている。自己顕示欲が強いと思うべきだろうか。呼ばれた名はカウルゼンツ。カウルゼンツ・ラグフレア・ニネフォス、ニネフォスの前の王。

 今ここで起きた戦いはニネフォスの兵を動員してのカウルゼンツの討伐。兵の数が多く、前の王とそれに従う小勢力を殲滅するために動かすにはちょっと人数が多いのでは、と思うくらいだったが、現実はこの結果。前の王であるカウルゼンツ側の勝利となった。それほどまでにカウルゼンツが率いる勢力は強い。いや、カウルゼンツの部下、カウルゼンツが生まれ変わらせた部下が強いというべきだろう。人間ではない何かに神の剣の力を使い生まれ変わった彼らは命令に忠実であり、その個で複数の……人間の兵で数十人以上の実力を優に擁しているらしい。十数人しかいない彼らでも一人の死者を出すことなく兵の軍勢に勝利した。これはカウルゼンツの援護などがなしで、彼らだけでの強さである。それだけ生まれ変わらせることによる種の変質は大きかったらしい。


「しかし、我を討たんと襲おうとしてくるとは。今の王位を奪った者もそれなりにはできるということか」

「カウルゼンツ様に比べれば大したことはないでしょう」

「当り前だ。だが、その程度の者に従う程度の者も多いというのはな……」

「我らと同じようにすればよろしいのではないでしょうか。使える者を増やすくらい」

「戯け者!」

「っ」

「我とてその程度のこと考えぬわけでもない。お前が考えることくらい容易に考えておる。お前たちのように生まれ変わらせれば確かに簡単に強力な存在を作ることはできる。しかしそれとて楽にできることではない。神の剣に宿る力は大きなものであるが、お前たちを変えた力は蓄積されて残っていた者がほとんどだ。人を作り替えるというのはなかなか大きな力がいる。お前たちのように作り変えればその他のことに使えなくなってしまう。今お前たちだけで問題なく戦えているのだろう。であれば無為にお前たちのようなものを作る意味はない。そもそも民などにそこまでの力を与える意味もない。必要なものが必要な分強ければそれでよい」

「………………はっ」


 カウルゼンツの使う力はそもそも何をエネルギー源とする力であるのか、今のところわかっていない。なんとなく理解している限りでは、それは命、魂、存在、そういった一般的ではない、あるいは一般的には嫌悪や拒否したい類のエネルギー源が必要なものである、ということはわかっている。必要ならばその力を集め振るうのは構わないが、無駄に消費するのは得策ではない。現在のカウルゼンツに従う者たちを作り上げる際に結構なエネルギーを消費したため、今後何かあった時のためにエネルギーを消費せず残して起きたい、そういった考えがカウルゼンツにはある。まあ、カウルゼンツからすれば無駄に民を彼らと同じようにする意味がないというのはある。彼らの数が増えればそれだけ強大な力にはなるが、力を持つものが増えるというのはそれはそれで気に入らないし、一般的な民にそのような力を与えるのはカウルゼンツとしては気に入らない。そういった力は自分のような高貴なものが持つべき力であると考えている。有象無象に渡す必要はない。

 そんな諸々の考えもあり、欠員もない彼らの補充をする必要はないと考え、現状維持をカウルゼンツは考えている。下手に部下を作るよりカウルゼンツが力を使う方が安上がりなこともある……そういう考えは贅を凝らした生活を行う王族らしくないような気もするが。まあ、いろいろ理由はあるのだろう。彼は神の剣の力を理解しその危険、それに伴う問題も理解している。それを理解したうえで自分のために犠牲を強いるか、それとも自分のために将来残すべきものを考え節約するか。結局のところ彼のそれは他を思いあってのものでなく自分のためのものである。




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