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「あれは……?」
「なんだあいつら……」
「人……いや、人じゃない?」
街を守る防壁。この世界において街の多くは魔物の存在もあってある程度防御策、防壁や柵みたいな守りがある。もちろんないところもある。小さな村であれば防壁のようなものがないということも珍しくない。それに関して言えばその場所の資産次第。街を守る防壁も作り上げるのに必要な労力や資材、維持するの必要な費用など、いろいろ必要なものがある。一般的には大きな街ならまず存在する、と言っていい防壁。まあとりあえずこの場所はそこそこ大きな街である。
別に防壁に限らず見張りの類は割とどこの場所でも存在する。壁を作り街を守る、人々を守る、そういうことはできなくとも敵の侵入を防ぐことは必要になる。魔物に限らず獣や場合によっては盗賊など人の敵もいる。そういった相手を発見し連絡する、それが見張りの役割。防壁などがあればその防壁が一時的に敵を抑えたり、発見しやすいなどの利点があるが決して必須であるというわけでもない……が、あった方がいい。まあここにはあるわけだが、その防壁の上から遠くを見て見張りをしている彼らは街へ向かう人の集団を発見した。
いや、それは人とは少し言い難いものだ。人の形をしているが、それは人間ではない。人間に近いように見えるが人間ではない。遠めでも初見は人間に見えてもしばらく見ていればそれが違うことがわかる。
それらは少しも乱れず動き、町へ向かってきている。集団と一人、そんな感じにまとまった何者か。
「……とりあえず様子を見よう」
「そうだな。しかし、あれは人間か?」
「わからん。だが……奥にいるあれは人間じゃないか?」
「………………あれ? あいつどっかで見たことあるような」
「見たことあるのか?」
「なんか覚えがあるんだが……思いだせん」
「まあ、なんにしても近くまで来たら話を聞かないとな。街に入るつもりならいろいろ確認しなければいけない」
「人間じゃない以上簡単には入れられるかは……」
「獣人……とは思えないが、他人種は別に敵じゃない。魔物とかそういうのじゃなければ受け入れられるだろう」
「うーん、まあそうか」
この世界人の姿に近い存在、人の形をした種族は珍しくない。人扱いされるエルフや獣人、人として扱われない魔物ではあるがまだ人に近いとして見られる妖精、特殊な例だが精霊だっている。人の姿に近ければ基本的に多くの場合は人間にとっては他の人種族である可能性が高い。仮にそれが本当に危険な存在であるのなら、追い出すあるいは討伐する必要があるが、今回そうである可能性は低いように感じられる。
後ろにいる一人が彼らをまとめているように見えた。それが彼らをとりあえず信用し受け入れる、そういう考えになる。
「今の卑しき王に従いし民たちよ! 然らば聞くがいい!」
「なんだ……?」
「今の卑しき王って……王に対してひどい言い草だ」
「大丈夫かあいつ?」
いきなり街の入り口前で大声で語りだす人物に街の見張りはどうにも面食らった様子である。まあその内容がいきなり王に対する罵声というか、ひどい言葉から始まっていれば仕方がないだろう。
「我はカウルゼンツ・ラグフレア・ニネフォス! この国の王である!」
「カウルゼンツ?」
「この国の王って……」
「大丈夫かあいつ?」
「まて、たしか……カウルゼンツって前王じゃなかったか?」
「……そういえばそんな名前だったような」
「今のこの国の王となりし簒奪者は卑劣にも我を追いやり、王位から引きずり降ろそうとした! 我はその企みから逃れ逃げざるを得なかった! そして彼の者は我がついているべき王位を奪いこの国の王として君臨した!」
「確か指名手配されているんじゃなかったか?」
「え? 以前の国王だよな?」
「……テイスピースとの敗戦の原因とか、今国が貧窮している原因だとか言われてる」
「あー、それはしかたないな」
「ほんとだよ」
「しかし、我もただ逃げるにあらず! かつての王が持ち、強大な力を秘める剣を、我が国の王家に伝わりし、始祖たる王が振るいし神の剣を探し国を取り戻すために行動した!」
「……あれって噂じゃないのか?」
「さあ。でも噂だって根拠もない噂なんてでてこないんじゃねーの?」
「でもそれを探すってよっぽどの暇人なのか?」
「それで国取り返すって現実的じゃないよな」
「だいたい取り返す、取り戻すっつっても、自分のせいだろ?」
「そして我はその剣を得た! 今こそこの国をわが手に取り戻す時である! しかし、卑しくも今の王に付き従うものもいる! 我はその者に命ずる! 我に従え! 我がもとに戻ってくるがいい! 今の王に従うんだとという愚行を続けるでない! 考える時間は与えよう! もし逆らうのであれば、我は心苦しくもお前たちを滅ぼそう! 民は生かすがな。民は我が国のもの、であれば我の物と言って過言ではない。無為に失うべきものではないのだからな! 従うのであれば大人しく我を受け入れよ! そうでなければ…………我に仕えし我が部下に討ち果たされることを覚悟せよ!!」
「……どうする?」
「いや、どうするって言っても、従う道理がないし……」
「そうだよな。っていうか、これ報告しないと」
「あいつが何をするか知らないが、このままだと確実に戦うことになるよな……あそこにいる人間……人? あれは人なのか? なんなんだろう」
「知るかよ。でも戦いたくはねえな。死ぬ危険はあるだろうし」
「そうだな。でもやんなきゃ街は守れねえだろ」
「はー……大人しく死んでおけよって話だわ。指名手配までされているくらいなんだろ」
散々な言われようであるが、彼らニネフォスの民にとってはテイスピースと争いを起こし結果負けた、さらに言えばニネフォスの財源を大きく損耗させた。もっと言えばホムンクルスを作り出したという後々まで響くような問題ごとを起こした原因でもある前の王は相応に許しがたい対象である。ただ、それを細かく知っている人間ばかりでもない。ただ、やはり指名手配され逃げだした王として、王としては認めがたいような相手であるという事実はあった。
ゆえに彼らは前の王であるカウルゼンツとそのカウルゼンツの率いる部下たちと戦うことになる。もっとも、それが彼らにとってどのような結果になるのかといえば……凄惨たる未来、残酷な終わりを迎える結果となるだろう。




