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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
二十二章 冥精
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 プルートがアンデルク城にきてどこに置くか。それに関しては事前に公也の方で決めていた。というよりほかにおける場所がないというか、プルートの性質上アンデッドでなければ対応が難しいという点と、彼女があまり表に出れない立場である、などということもあり、立場的にいえば呪いの力と死の力という忌避感の強い力、危険な力であるという点で同じということもあり、またその場所が地下で表舞台に出ないという点でも悪くなく、冥界のイメージとしては根強い地下世界という点でも冥精、冥界の神の名を冠するプルートにはふさわしく、同時に墓地という死に関する場所であるということもあってある意味では最も彼女にとってふさわしい、正しく過ごすべき場所なのではないだろうか。と、そんな感じの考えもあったかもしれない。

 まあ、プルート自身は精霊であるとはいえ、普通に女性であるということもあってずっと地下暮らしというのは気に入らないしあまり望ましいものではない。カシスはずっと地下暮らしだが彼女は公也に頼まれたとか、公也のためとかそういう理由であるし、彼女の場合はもともと地下というか、ずっと暗い場所で呪いに飲み込まれて過ごしていたということもあって地下だろうとも開放的で明るい現在のアンデルク城の地下墓地でも特に問題ないというか、今までよりも全然ましといった感じだ。墓地であるという点も彼女は厳密には死者であるしそれが仕事であるならと別段気にもならない。たまに公也が見に来てくれるだけで十分なほどだ。


「初めまして。あなたが精霊、死の精霊のプルートですか」

「………………ねえ、なにこれ? こいつなに? 明らかに普通じゃないっていうか、アンデッド……でもアンデッドでも、ちょっと特殊、変、おかしい、ありえない、わけわかんない!」

「いきなり失礼な方ですね…………」

「まあ、プルートはここにいてもらうつもりだからよろしく頼む……頼めるか?」

「はい。公也様の頼みであればもちろん」


 基本的にカシスはメルシーネやヴィローサに近い公也を肯定する側の立場だ。いや、許容、受け入れる立場というべきだろうか。公也に助けられた彼女は公也のためであれば可能な限り、自分ができる限り、全力で公也の助けとなる。たとえ多少難易度の高いことでも、苦労を要することでも、それが自分にできるのであれば自分の務めと受け入れる。何より忍耐、耐久という点ではカシスはずっと苦しみに耐え抜けるだけの根性持ちである。よほど相性が悪ければその限りではないかもだが。


「ちょっと? 私はこんなところにいないといけないわけ? まだ明るいけど、ここって狭いし解放感薄いし、大体あまり人もいないし寂しいじゃないの」

「……死の精霊なんだからそのあたりは仕方ないと思うが」

「まあ、そうだけど。私の力の関係上近くにいたら間違って殺しかねないというのはあるかもしれないけど。それでもずーっとここにいないといけないわけ?」

「時々外に出るくらいなら問題はないと思う」

「何よそれ? 閉じ込める気? 言っておくけど私は」

「大人しくなさい」

「……え、なに、これ?」


 カシスが真顔でプルートに対して己の呪いの力を放つ。呪いはその性質上死者の力であることもある。感情の力であることもある。この世界の摂理に沿わないという点で、魔物やアンデッドなどありえない性質に近い。プルートの死の力がアンデッドに通用しにくいのはアンデッドの生死の情報がこの世界の摂理に沿わないというのが大きい理由になる。精霊の持つ力は自然、世界の側。世界の摂理に則った力。そういった力でない力は殺しきれるものではない。カシスの持つ呪いの力はもともとはカシス自身の力とは言い難いものであり、不死となった人物の使っていた力、それによってカシスを縛り付けていた力。それがカシスに馴染み、カシスに打ち込まれカシスが受け入れ取り込み、自身の力として、呪いを操る、扱う、呪いそのものの力となっている。その力はカシスにも寄り、つまりはアンデッドの性質に馴染んだ力ともいえる。もともと呪い自体力としては異質なところがある力、特殊能力としても異常な部分があり、それゆえに死の力による防御でも防ぎづらい、殺し消し去るのが難しい力だといえる。まあそもそもこの場で彼女が自身に対して攻撃してくることを考慮しておらず、それゆえに防御していなかったのも要因であるとはいえるだろう。ともかく彼女は呪いの力を受け、呪いによる束縛、悪影響によって大きく力をそがれた。


「あなたのことは私はよく聞いています」

「そ、そうなの、ところでこれは」

「メルシーネさんやヴィローサさんから。あなたは公也様を殺したのだと」

「…………え、ええ。でも」

「幸いにも公也様は今生きておられます。それは別にあなたが手加減をしたとか、公也様を死なせないようにしたとか、与えた詩を取り払ったとかそういうものではなく、公也様が持たれているお力によるものであると。つまり何もなければ、公也様が普通のお方、あるいはそれに等しい生き死にをするお方であったならば、公也様は死んでいました。あなたは公也様を殺すおつもりでした」

「…………………………そ、その時は、敵、だったし」

「戦いのさなか殺し殺されはあるかもしれません。ええ、それは仕方のないことかもしれません。ですが、仕方がないから許す、今生きているから殺した事実をなかったことにする、実際に殺したことは大丈夫だったから許す、なんてそんなことはありません。私は絶対に許しません。私の意見はどちらかといえばヴィローサさんに近いでしょう。本心で言えば、公也様を害したあなたを殺したいくらいです」

「…………………………」

「ですが公也様はあなたを殺されるおつもりはない様子です。私の気持ちなど公也様がどうするかお決めになったことに比べれば些細なもの。ゆえにあなたがここで生きることを私は許しましょう。ですが、それとあなたが自由に好き勝手出来るようにすることは話は別です。あなたは公也様を殺し、公也様はあなたを殺さず生かすことを選択しました。あなたは公也様を殺すという罪を犯し、その罪があるうえで公也様はそれでもあなたを殺さないことにした。あなたは公也様に助けられたわけです。背負った罪に、助けられたという救い、その二つをあなたは背負っている。であればあなたはそれに報いるべきでしょう。公也様に感謝し、自分のしたことを詫びて、己の身を捧げ公也様に仕える。私のように心の底から公也様を慕い従えとは言いませんが、公也様の言われたことを聞き、それに伴った行動をすることくらいはしてもらいたいくらいです。いえ、しなさい。ここであなたがするべきことは公也様に従い過ごすことです。わかりましたか」

「………………そ、それは」

「わかりましたか?」

「………………わかりました」


 精霊も形無し、といった感じのカシスの圧力である。まあカシスの呪いを受けたうえでの、しかもちょっと狂気を感じるような表情で迫られたこともあって仕方がないことであるかもしれない。と、まあ、そういった感じの出来事かカシスとプルートの出会いの時にあったわけである。それから呪いに関する束縛はプルートにかけられている。プルートに悪影響は及ぼしていないものの、枷として纏わりついており、仮にプルートが好き勝手しようとしたり、彼女がやってもいいこと以外のことをやろうとしたり、白の外に出ようとすれば呪いによってプルートは一気に弱体化する、そんな感じのものだ。一応外に出ること自体は時折自由な時間が許されていることもあって許容されているが、その力に関しては場合によってはカシスによって簡単に束縛される。精霊すらそのようにできる存在がいるというのはある意味ではやはり恐ろしい話。カシスの存在もまたやはりアンデルク城における外に漏らしてはいけない類の情報、爆弾に近いもの、といった感じであった。



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