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「冬の魔物……僕は見たことないけどそういうものもいるんだね。夏の魔物とかはいるのかい?」
「さあ? 私は知りません。そもそも冬にしか存在できない私たちが夏に生まれる魔物を知っているはずもないと思いますけど?」
「ああ、うん、確かにそうか……」
冬姫、冬将軍、冬騎士、そんな冬の魔物たちがいる城の裏の冷温棟ともいえる場所、氷の城までアルディーノは訪れ冬姫から話を聞いている。話を聞くのに冬姫以外は適当ではないというか、冬将軍や冬騎士とはまともに会話ができないのでそうならざるを得ない。エルフである彼にとっては氷でできた城、常に冬と同じ冷温低温化にある寒い場所のさらに寒い室内ということもあってなかなかまともに話すのも大変そうである。
「形は人の形をしているのは他の人型魔物と大差はないんだけどなあ……肌の色とか、雰囲気の違いとかはっきりわかりやすくはあるけど。なんで人の形になるんだろうね」
「別に好んで人の形になっているというわけでもないんじゃないかしら? 多くの動物に似た魔物もいるのでしょう? であれば私や雪奈みたいに人の形を模しているのは単純に見た目が近しい形になっただけ、とも考えられるのではありません?」
「ふむ……確かにそういう可能性はあるか。人に干渉するなら人に近しい形を、妖精や精霊、ペティエット君やメルシーネ君はそちらの方が可能性が高いかな。冬の魔物……はどうなんだろう? 人に関わることとかはあったかい?」
「いいえ。もともと私たちは冬に生まれ冬に行き、冬を過ごす。人との関わりは積極的に行われるものではなく。特別そういったことが必要になることも、そうなるということもあありませんでした。冬以外では冬に近い環境にある場所を事前に探しそこで隠れ過ごさなければならず。人との関わりなどとても……」
「……冬でなくなっても冷温、低温の状況であれば生きていられるというのも妙なものだね。本当に季節柄生まれる魔物かと疑問に思うくらいだよ」
「そんなことを言われても困ります。生きるために必死になって生きる手段を探した結果生き延びられたからそれで生き残ることができるとわかっているのですが。大人しく死んでいればよかったと?」
「いや、そういうわけじゃないよ。ああ、別に悪く言うつもりはないんだ。ただ、やっぱり魔物っていうものは不思議だなあ、と思ってね」
ある意味では冬姫たちも精霊という存在に近い代物だ。いや、冬の魔物と本人は言っているが、厳密には彼女らは冬の精霊といってもいいのかもしれない。ただ、精霊とはやはり違う様子である。また冬の魔物は冬姫だけでなく冬将軍、冬騎士といるのだから精霊とも少し種、質が違う。いや、精霊もその性質を分割し複数存在できるわけであるのだが。
「僕としてはこうして君たちと邂逅できたわけだし、君たちが生きてくれたことはとてもありがたいことだよ」
「そうですか。出会いは素晴らしいものですからね」
「はは……僕の場合は研究者としての性、魔物という存在に対する興味からだからねえ。君たちはどうかな?」
「こうして、ゆっくり恐れることなく、いつまでも過ごせる場所を用意してもらえました。素晴らしい出会いというのはいついかなる時でもあるものでしょう。いつまで過ごしていられるかの不安はないわけではありませんけどね」
彼女あは彼女らで色々と大変だった。今はゆっくりのんびり過ごしていられるが、冬以外は外に出られないゆえにやはり大変、退屈というのもあるだろう。そういう意味では今回のアルディーノとの話はそれはそれで彼女にとっても楽しめる出来事だったのかもしれない。普段はせいぜい冬将軍と公也やフーマル達の修行風景を見るくらい、である。
「なんで君は宿を経営しているんだい?」
「私の生きがいですのでー」
「……ええと、なんで生きがいに?」
「知りませんー。なんとなくじゃないですかー?」
「…………よくわからないな、君は」
雪奈との会話はアルディーノにとってはうまくいかないというか、アルディーノでも宿を経営することを自身の生きがいにする魔物と言うのは意味が分からない感じである。別に雪奈は宿がなければ生きていられないということはなく、宿を経営するのは本当に彼女の趣味というか、彼女の生きがいというか。それが必須ではないのになぜそれを必要としているのか。理解できず困っている。
「ええっと、君は種としてはどういうものなのかな?」
「そうですねー。私はなんでしょうねー、見た目だけなら獣人に近い人型の魔物ですけどー、でも変化とかもできますしー?」
「変化。ということは……妖系統かな? 狐とか狸とか、一部の獣系の魔物は変化で姿を変える能力を持っていたりするけど」
「ああ、そうですそうです。狸だったと思いますよー?」
「……まあ、頭の耳を見れば大体は推定できるしね」
化生狸、といってもそれっぽくは見えないが。一応雪奈はそういう種ではあるが、一般的な化生狸とはまた少し違うのではないかと思われる存在である。
「でも、そうだとしても強さ的に君はちょっと違うかもしれないね」
「そうでしょうかー? まあ、私にはどうでもいい話ですー」
「それで、調査なんだけど……」
「宿の経営に影響しないレベルなら構いませんが、それ以上は受け付けません。あ、宿に泊まってくれるならサービス代わりに調査とかやってもいいですよ?」
「うん……泊めてもらうね」
宿の経営をしている雪奈にとって何よりも宿に泊まってもらいその世話をすることが価値がある。調査をするというのなら構わないが、その代わり自分の欲求、やりたいことを満たすこともしてほしい、そんな感じである。




