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「とりあえず追い返さないと……っていうか、人間だけじゃないな? そこに飛んでいるのとか、そっちのは獣人か?」
「まあ、妖精とかもいるけどね? しかし追い返すって穏やかじゃないね」
「お前が原因だろ。人間を連れてきたのは問題だぞ問題?」
「確かにエルフにとっては色々都合が悪いというか、良くないということは理解しているつもりだけど……」
アルディーノも人を連れてくることの問題は理解している。しかし、理解しているからと言って行わないわけでもない。というより、重要なのは人間を連れてくることの問題があることよりも現行のエルフの村で起きてる問題の解決の方である。それがエルフだけでできるだろうことであればアルディーノも特に手を出すつもりはなかった。しかし恐らくはそうではないということ、またアルディーノにとっても今回の件、精霊の存在は興味があるということもあって問題解決のついでに調査もできるようにと外部の存在を頼ったわけである。
「でも、エルフだけで精霊はどうにかできたかい?」
「…………できてはない。ただあいつらも気まぐれだろう? そのうち出ていくさ」
「そうかもしれない。そうじゃないかもしれない。そうだとしても無事にいられるとも限らない。彼女の危険性はわかっているのかい?」
「………………」
精霊だからエルフには何もしない、なんてことはない。精霊だろうとエルフだろうと人間だろうとそういう部分は彼らの意思次第。今回エルフの村に居ついた精霊の意思次第であればエルフに死亡者が出てもおかしくはないし、しかし逆に何も起きずに穏便に済む可能性だってある。しかしその精霊はいつまでエルフの村にいることだろう。それすらわからず、エルフも徐々に困った、困窮していく様子、といった感じとなればどうにかしなければいけないだろうとは感じている。
だがエルフでも精霊相手ではかなり大変である。いや、大変というよりは精霊相手ではまず勝ち目が薄いというか。エルフは経験的に長く生き様々なことに対処できるが、経験していない事柄への対処はかなり能力が落ち、そもそも精霊という存在が強力で普通にエルフがどうにかするには向かないというか。エルフとて決して弱いわけではないが、特別強い存在もいないことの方が多い。そういう点では数に任せた人間の方が強い存在は生まれやすい。母数の問題で。
「でも人間を連れてきて大丈夫かよ? こいつらがどっかの人間の組織で村が襲われるとか」
「そういうのは問題ないよ。一応僕が連れてきたわけでもあるんだしそこは信用してほしいなあ」
「そもそもお前が信用できるかはまた別だしな」
「それ酷い」
このあたりはアルディーノに対する信頼の問題である。普段戻らず村の外に出ていることもあってアルディーノに対するエルフ側の信頼としては微妙なところだ。まあ同じエルフというだけである程度は信頼してもらえるが。
「まあ、事前色々話って取り決めはあるし、ことが終わってから話し合ってもいい。それくらいの用意じゃしてあるし、事前に話し合ってもいるさ」
「そうか。だからって信用できるかどうかは別だけどな……でも人間だけじゃねーんだよなあ。だからどう考えればいいか余計にわからないし……」
公也に限らずメルシーネもヴィローサも扱いに困る。そもそも人間がいる時点でどうしたものか、といった感じだ。というよりそこまで細かいことを決める権限は彼にはないというか、好き勝手していいわけでもない。アルディーノはあれだがアルディーノが連れてきたからという理由で受け入れることも拒むこともできない。
「……本当なら村長に話したりしてどうするか決めるんだが」
「精霊がいる状態だと難しい、かな?」
「ああ。まあ、商人が一度来たこともあるからさらに人間が来たことくらいは気にしないかもしれないが、それでも話し合っていたら気にして寄ってくるかもしれない。その内容を聞かれれば……」
「面倒なことになるか。まあ、そうだろうね」
件の精霊自身がその精霊をどうにかしようとしている話し合いについて聞き取ってしまえば……まあ、どうなるかと言えばあまりいいことにはならないと思われる。いきなり暴れだす、あるいは何か攻撃的な行動をとる、そういう可能性が出てきてもおかしくないだろう。
「しかし、だったらどうする?」
「どうするって言われても、俺が決めるわけにもいかないしな……長が外に出たり、あるいは俺以外の誰かを連れてきてどうにか決めるしかねえよ。老人たちを連れてきて決めてもらうしかないかもしれないな」
エルフの中でも老齢の人物であれば長のような物事を決める立場でなくともある程度は決定権がある。というよりは判断ができるといった方がいいだろう。重要人物でなければ少しは連れてくること自体は難しくはない。
「じゃあ何とかしてもらえるかな? 僕らは近くで待っててもいいし」
「ああ、そうするか……」
「人間が……しかも人間以外も。何という面倒な……」
「それは思うけど、俺だけじゃ決められないことでして」
「わかっている。しかしアルディーノ、現状ただでさえ面倒なことになっているのにさらに面倒なことを引き込みおって……」
エルフからすれば精霊が居ついたことも問題であれば人間が問題が起きているところに訪れることも問題である。その問題に大差はない。エルフにとっては面倒なこと、都合が悪いことであるということには変わらないだろう。
「いやあ、精霊をどうにかしてもらいたくてね。別に村のためじゃなくて僕が精霊に興味があるからというのもあるんだけど」
「ふん。人間に何ができる。精霊に興味? うかつなことをして精霊の怒りを買ったらどうする。大人しくしておるのだから無意味に手を出さないほうがいいのだ。ただでさえあれはまともな精霊と違って恐ろしい力を有しているのだから」
「……精霊の力について何かわかったのかな?」
「あれは……っ」
「人のことを言うのはどうなのかしら? 女の子のことよ。秘密にしたいことの一つや二つ、隠し事の一つや二つはあるでしょう? それに自分のことを勝手に話されたら困るじゃないの」
「っ!」
「…………これが」
「………………」
「んー……?」
既に精霊は身近に迫っていたらしい。公也たちが反応する前に、それは姿を見せた。うっすらと実体が微かに存在していないように見える、しかし確かにそこに存在している女性の姿。実体があるかどうかが微妙な境目である。見た目自体は基本的に全体的に黒色のイメージを抱くもので、どこか陰気な、忌避するような要素のあるような空気、気配、雰囲気があるように感じられる。ただ女性自身はその雰囲気や気配を振り払うような意思を見せているためか、その印象は若干薄まっている。
「お前が精霊、プルートか」
「ええ、そうよ。精霊……そうね、冥精プルート、と呼んでちょうだい」
精霊と冥精になにか違いがあるのだろうか。死の力を操る精霊だから冥精なのだろうか、死の精霊ではだめだったのだろうか。まあ、そんな彼女の事象を受け入れるかどうかはともかく。精霊であるという事実はもちろん、その力が死に関わるものであるのも名前、冥精の冥の部分で予測できる。ともかくいきなり今回の事件の元凶、問題の大本、そして何かやばい相手であることが確定している存在が出てきたわけである。確実に敵対行動になる可能性が高い。




