刻まれた情報
戦いが終わり、静寂に包まれた夜。
ゼロは距離を保ったまま、少女を見ていた。
それが、これまでの位置。
だが――少女の身体が、わずかに傾く。
支えを失ったように、力が抜ける。
その瞬間、ゼロは動き出していた。
次の一歩で、距離が消える。
巨大な体が、少女のすぐそばで止まる。
ただ、そこに在る。
少女の体が、そっと触れる。
倒れ込むように、ゼロの体へ預けられた重さは、霧のように軽い。
少女と接触したのは、それが初めてだった。
生き物としての境界が、曖昧になる。
触れた場所から広がる、静かな変化。
止める力を持つ彼女の存在は、細胞レベルでゼロに干渉し、その性質に変化をもたらしていく。
言葉でも、戦いでもない。
互いの存在を受け入れ、心を通わせたその過程そのものが、“情報”としてa型0細胞に刻まれていった。
そして――
変化した細胞は、やがてある性質へと転じていく。
それは、静止とも、侵食とも言えない。まだ、名を持たない細胞。
この出来事がもたらした変化は、ゼロの内側だけではとどまらなかった。
それは、同時に――少女の内側にも、大きな存在を残した。
確かにそこに在るとわかる、異質な気配だった。
そして、朝が来る。
静かな朝だった。
それでも、空気の奥には、わずかなざわめきが混じっている。
通りを行き交う人々の足取りが、どこか落ち着かない。
視線が交差し、すぐに逸らされる。
同じ話が、形を変えながら広がっていた。
その中心にいるのは、ひとりの老人だった。
長くこの町に住み、多くの者に知られている存在。
その言葉は、人々に不安の種を植え付けた。
やがてそれは、警戒へと変わる。
距離を取る者。
関わらないように目を伏せる者。
子どもを引き寄せる手。
老人の周りには、同じような不安を抱いた者たちが自然と集まっていく。
そして、小さな輪は、ゆっくりと意思を持ち始めていた。
排除という形で――。
彼女は、その変化を敏感に感じ取っていた。
向けられる視線。
わずかに広がる距離。
ここに留まるべきではないと、本能が静かに告げている。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
この作品は、実際に見た夢を元にしてます。
そのため、現実的な理屈よりも、雰囲気や感覚を大切に描いていきます。
よければ、また次話も読んでいただけると嬉しいです!




