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零に触れた獣

これは、まだ誰も知らない頃の話。


“ゼロ”と呼ばれる存在が、生まれる前の記録ーー。




壁に囲まれたその町には、人々が“神”と呼ぶ存在がいた。


その姿は、山のように巨大なライオン。


しなやかで圧倒的な筋肉、風をはらむような毛並み、そしてすべてを見透かすような瞳。


ただの獣とは明らかに異なるその存在は、人の言葉を理解し、時にそれを発することで、町の秩序を保ち続けていた。



人々は恐れ、同時に(すが)るようにその姿を見上げる。


その巨体は、侵食体が迫るたび、圧倒的な力で脅威を退けた。


守られるという確かな事実が、やがて信仰へと変わっていった。



いつしか人々は、彼を“ゼロ”と呼ぶようになった。


だが、その正体を知る者は、誰一人としていない。




彼は――かつて、実験体だった。



遠い過去。


研究の過程で、それは見つかった。


既存のどの生命とも一致しない反応。


切り離してもなお増え続ける、異質な細胞。



――記録。未知の細胞を確認。

――自己増殖に高い適応性。



その細胞は、“0(ゼロ)細胞”と呼ばれた。



研究は続き、それは改変を重ねる。


そして、その変異は未知の領域へと踏み出していく。



同じはずの細胞が、わずかに異なる挙動を見せはじめた。


増殖の条件、反応の仕方。


それぞれに差が生まれていく。


研究員たちは、それらを区別するため、最初に確認されたものをa型と呼んだ。


それから、異なる性質を持つものが見つかるたび、b型、c型と名付けられていった。



だが、決定的な進展はないまま、型だけが増えていく。


停滞――そんな空気が研究室を覆いはじめた、そのとき。


ある研究員が、ひとつの異常に気づく。



その0細胞は、異常な増殖力と、周囲の遺伝子情報を書き換える性質を持っていた。



それが――f型。



f型0細胞は宿主に寄生し、内側から変質させる。


投与された実験体は、自我を失い、形を崩し、ただ生き物を襲う存在へと変わった。



制御は不可能だった。



――内部封鎖試みるも、失敗。

――外部への流出を確認。



記録はそこで途絶えた。




世界は静かに、確実に蝕まれていく。


そんな中でも、一部の研究所支部は生き残った。


しかし、それでは侵食の波を止めることはできなかった――。




すべての始まりは、a型0細胞の発見。


それは不安定で、外部から与えられる“情報”によって変化する特性を持っている。


だがその変化は予測不能で、制御が難しく、結果の再現性にも欠けていた。



そのため、研究の初期段階でa型は実用性が低いと判断されたーー。



そして、その見切られたa型を、彼はその身に宿している。





ここまで読んでいただきありがとうございます!


今回は、ゼロの過去に触れる回でした。


そして次は、彼を変える“出会い”の物語ーー。


次回もぜひ、お楽しみください!

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