観測者
昨日と同じはずの朝。
けれど、ほんのわずかに何かが違う。
それは、すぐそばにあるような気がした――。
数刻前ーー。
通りの一角で、ひとりの子どもが忙しなく動き回っている。
両手を振り回し、何かを伝えようとするその仕草。
だが受け取る側は、曖昧に笑い、深く取り合おうとはしない。
その様子を、ただ一人、足を止めて見ている老人がいた。
他の誰もが流す中で、その視線だけが動かなかった。
老人はわずかに目を細め、繰り返される動きを静かに追っている。
ーー手を伸ばし、握る。
繰り返されるその仕草。
大げさな仕草の中に、奇妙な正確さが混じっていることに気づいていた。
やがて、その視線はゆっくりと外れる。
次に細い目が捉えたのは、人の流れに紛れるように歩く、ひとりの少女。
老人は、その背中をひそかに追った。
少女は路地裏へと入り、人気のない場所で足を止める。
その場にしゃがみ込み、手を見下ろした。
そしてーー
握っては開く。
握っては開く。
同じ動き。
同じ間隔。
老人の視線が鋭くなる。
先ほどの子どもと、寸分違わぬ反復。
偶然ではない。
老人は、静かに息を吐く。
そして、次の瞬間には、もう踵を返していた。
人混みへと紛れ込みながら、その足取りだけがわずかに速い。
何かが起きている。
そう確信していたーー。
彼女は未だ、違和感の原因が分からずにいた。
人々の視線の中で、彼女は身を低くして歩く。
知られてはいないはず。
それでも、このままここにいていいのかと、本能が告げていた。
身体の変化は否応なく彼女を成長させている。
力の範囲、感覚、反応。
どれも鋭くなり、この場所でひそやかに暮らすだけでは収まらないものになっていく。
ゼロは遠くから、変わらず彼女を見守っていた。
だが、その視線は彼女自身ではなく――その内側に向けられているようにも見えた。
静かな町の片隅。
人々の視線と、身体の変化――
それらはやがて、彼女一人では抱えきれないものへと変わっていく。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
すべての違和感は、力の変化だけではありません。
彼女の内側には、まだ言葉にならない“何か”が残っています。
それが何なのか、彼女自身もまだ知らないまま――。
次回もぜひ、お楽しみください!




