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重なる鼓動

戦いの後の静寂。


生き残った少女は、不安を抱えながらも、その現実を受け入れていた。


その夜、ゼロとの距離はわずかに縮まり、言葉のないまま、確かな繋がりが生まれたーー。





次の日、町はいつも通りの静けさを取り戻していた。


だが、彼女の身体の奥には、昨夜からの変化がわずかに残っている。


微かな疼き。筋肉や神経に伝わる、新しい感覚。


その奥で、もうひとつ――自分のものとは違うリズムが、かすかに脈打っている気がした。


力を使った後の疲労はあったが、それ以上に、自分の中で何かが確かに変わったことを彼女は感じていた。


人目を避けるように、彼女は細い路地裏へと入る。


足元、ひび割れた地面の上を、小さな蟻たちが列をなして歩いていた。


彼女はその動きを見つめ、静かに意識を集中させる。



――止める。



次の瞬間、数匹の蟻がぴたりと動きを止めた。


わずかに眉が動く。



もう一度。


今度はひとつに絞る。



一匹だけが止まり、他はそのまま動き続けた。


息を整える。



感覚をなぞるように、何度も繰り返す。


止める。


離す。


選ぶ。


その中で、少しずつ輪郭がはっきりしていく。



――できる。



止める範囲も、対象も、自分で選べる。



そして、再び手を見下ろしたとき、ふと視線を感じた。



彼女はその先を見つめた。


しかし、そこにはただ、風が吹いているだけだったーー。




それから、彼女はいつも通り町の中を歩き、食べ物を分けてもらう。


差し出された手は一瞬だけ迷い、わずかに距離を取ったあとで、ようやく器を渡された。



すれ違った人と、挨拶を交わした。


ある女性は、少し引きつったような笑い方をしていた。


ある男は、わずかに口を開きかけたが、何も言わずに目を逸らした。



そのとき、違和感に気づいた。



町の人々の目が、どこか落ち着かない。


視線が合うと途切れる。


だが、次の瞬間には別の場所から視線を向けられている。


話し声はいつもと変わらないはずなのに、どこか上滑りしているように聞こえた。



人の流れも、わずかに歪む。


近づきすぎないようにする、無意識の距離。


理由も分からないまま、その違和感だけが残っていた。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


今回は大きな出来事はないものの、彼女の内側の変化と、町に広がる違和感を描いた回でした。


次回は、この違和感の裏側に触れていきます。


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