表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/12

第三話


 ズルズルと地べたを這いつくばる音。

 鳥が羽を散らしながら空へ飛ぶ。


「あ、やばいかも」


——ヒュンッ


 茂みから鋭利なものが飛び出してきた。

 耳元を掠り、脇の樹木に直撃した。

 木の幹がえぐれていた。


 また音が聞こえてきた。

 今度はその断片が見えた。

 それは白い何かの欠片だった。


 茂みの先。

 一瞬だけ見えた。

 カクカクと首を揺らす何か。

 魔族とも、人とも取れない何か。


「狙うならこっちでしょうが!」


 エリスは欠片を尻尾で受け止め、投げ返す。


 肉を潰したような湿った音。

 悲鳴のような声。


「あ、もう一匹は逃げたね」

「匹?」


 僕はえぐれた木の幹へ駆けた。


 白い破片。

 骨のようにも見えるが、妙に滑らかだった。

 近づいた瞬間、嫌な違和感が走る。

——形が、歯に似ている。


「なにこれ……」


 拾い上げると、その裏側に赤黒い糸のようなものがぶら下がっていた。

 神経だ、と理解した瞬間に寒気が遅れてきた。


「あっちの茂みは見ない方がいいよ」

「どうして?」


 ミシミシと崩れていく樹木の音が響く中、エリスは答えた。


「……いやあ、その、魔族か人かわからないよ」

 何かを知っているようだった。

 聞きたいことが増えていく。


「それと謝らないといけないかも……」

 エリスの尖った角がしおれていた。

「何が?」

「ごめん。追手、撒けてなかったかも……」

「追手?」

「アルズのこと、私の護衛か何かと勘違いされたせいで命が狙われるかも」

「は?」

「まあ、でも、私の強さは分かったでしょ?何せ、私は伝説の龍だからね!」


 エリスは胸を張るが、僕はそれどころじゃない。


「待って。色々聞きたいことが増えたんだけど、僕の命が狙われる?」

「そう。あと、目撃者になっちゃったし。どのみち、狙われるよ」

「え……」

「まあ、でも、私がいれば冒険者として心強いでしょ!」


 まだ僕は旅に出てから数分しか経ってない。

 なのにもう冒険終盤のようなイベントが起こってしまった。

 エリスは僕を見ていた。


「というわけで、よろしくね!」


 僕は龍を名乗るエリスを仲間に加えざるを得なくなった。


 終盤のイベントを作り上げる原因が僕の隣を呑気に歩いていた。

「それで、さっきのは何?」

「あれのこと?……多分だけど誰かに作られたやつじゃない?」


 誰かに作られた——

 

 僕はさっきのエリスの言葉をなぞった。

 あんなものが誰かに作られたなんて聞いたこともない。

 それに、もしそうだったとしても冒険者たちがとっくに阻止してるはずだ。


「嘘でしょ」

「いや、本当だって……」

「本当に?」

「……う、まあ、推測の域でしかないけど……」

 エリスは僕から目を逸らした。

「……はあ」

 ため息がこぼれた。

「そういえばさ、アルズはどこに向かってるの?」

「ブライトライトだよ」


 ブライトライト。

 世界の中心都市だ。

 王であるルーチェはお姉ちゃんの仲間だったらしい。


 数時間ほど歩いたのち、やがて平坦だった森の奥から王城が見えてきた。

「うわ……思ってたよりも大きいな」

「なんか立派な建物だね」


 あそこが、最初の旅先。

 そう思うと胸が高鳴る。


 王都へ近づくにつれ、街道を行き交う荷馬車が増えていった。

 巨大な城壁が視界いっぱいに広がる。


 僕たちは王都へ到着した。

 露店街は魔族と人間が行き交い、賑わっていた。

 ふと、屋台から漂う香りに、お腹が空いてきた。


「エリス。何か食べよう」

「いいね!私、あの肉が食べたい」

「いいよ。って……たかっ!」

「アルズ、どうしたの?」


 どのお店も値段が想像よりも遥かに高かった。

 慌てて報奨金を確認した。

 報奨金の入った袋の中に手を入れた。


 袋の底を指先が掠め、かさりと寂しい音がした。


「エリス。すぐに冒険者登録をしよう」

「登録?よくわからないけどどこでやるの?」

「あそこの大きなお城だよ」

「わかった!でもさ、アルズ。その前に私、あれ、食べたい」


 エリスに引っ張られるように露店街を歩く。

 子どもたちが両手に菓子を持ち、屋台の間を跳ね歩いていた。

 城へ続く道いっぱいに広がる露店と人や魔族の群衆。

 それは戦後であることを忘れてしまうほど微笑ましくて楽しそうな光景だった。


 とはいえ。


「アルズ!あの肉美味しかったよ」

「それは良かったよ……」


 露店の肉を買っただけなのに、財布は目に見えて軽くなった。

 実際に買い物をしてみると、そんな光景をのんびり眺める余裕なんてなかった。


 露店を辿って道を進んでいるうちに、僕たちは城の前まで来ていた。


「手続きってあそこで済ませるの?」

 エリスは目の前にそびえる城を指さした。

「うん。そうだよ」

「よし、入ろう!」

 肉を食べてすっかり上機嫌なエリスは、真っ先に城の方へ入って行った。

 それに少し遅れて僕も向かう。


 城内は重厚な真紅のカーペットが敷かれた厳かな雰囲気だった。


——「ようこそ、おいでくださいました。冒険者登録に伴う個人情報の件につきましてですね。少々お待ちください」


 僕は今、カウンターの女性に個人情報を見せていた。

 城内の人々もまた、気品に満ちていた。


 女性は書類を確認しながらてきぱきと仕事をこなしていく。

 その手がふと止まる。

「あ、アルズ、ノイエン……ノイエン?」

 僕の名前をなぞるように確認すると、固まってしまった。

「も、もしかしてっ」

 女性は突然、取り乱す。


 学校で何度も経験した。

 僕はこの展開を知っていた。


「あの……」

「少々お待ちください!今、ルーチェ様にお伝えしますからっ!」


 やっぱりそうなるか。

 というか今カウンターの女性はなんて言ってた?


 突如、最奥の巨大な扉が開いた。


「すまない。待たせたね」


 金髪碧眼の凛とした女性。

 ティアラに龍の騎士のマント。

 間違いない。


——ルーチェ王だ。


「君がアルズ君だね。はじめまして。私はルーチェだ」


 名指しされてしまった。

 人々の目は、一斉に僕へ向いた。


「少し話がしたいのだが、構わないか?」

「は、はい……」

「アルズ、大丈夫?」

 エリスが小さな声で聞いてきた。

「う……うん」

 大丈夫。

 そう言えるほどの余裕はなかった。


「よかったよ。ここだとあれだね。奥で話そうか」

 周囲の視線から逃げるようにしてルーチェ王の後を追った。

 

 ルーチェ王の自室。

 用意された椅子に腰かけていた。


「改めて、あの手紙を送ったのは私だ……。かつて君の姉の仲間でありながら、なにも出来なかった。本当にすまない」

 開口一番、一国の王に頭を下げられてしまった。

「い、いえ……その、僕は全然」

「魔王討伐における報奨金も少なくなってしまって、ノイエン家にはなんと言って詫びればよいのやら」


 ルーチェの事務机には、ずらりと書類の山があった。

 所々で山が崩れ、その内容がのぞいて見えた。


——ノイエン・リヴィエラ。魔法使用による器物損壊請求について。


「私がもっとしっかりしておけば……」

「いえ。これは仕方ありません」


 きっぱりと言った。

 そう言えば昔から、お姉ちゃんは頻繁に魔法の制御を間違えて物を爆破させていた。

 そんな記憶が蘇ってしまった。


 報奨金が少なかったのも納得だった。


 エリスは隣で呑気に欠伸をしていた。

 ルーチェが納得せず、まだ何かを話してくれようとしている時だった。


——「た、大変ですっ!また虫害被害の影響による緊急依頼が入りましたッ!今度は森の王ですッ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ