第二三話
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「少しはあの頃らしくなったじゃねえか」
「何よ、キリ。あんな雑魚、眼中にないでしょ?」
「……」
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試合を終えた僕は観客席に戻った。
あたりを見渡すとエリスが尻尾を振っていた。
「おつかれ~!」
「ただいま」
エリスの隣に座るとすでに、次の試合が始まっていた。
一人は僕と同じ水魔法を使う女冒険者だった。
精度も規模も僕以上で、遠距離から相手を狙撃する。
対する相手は近距離で泥魔法を扱う。
女冒険者は場外スレスレから、水魔法を放ち、相手を寄せ付けない。
だが、泥魔法を扱う冒険者も、水魔法を掻い潜って懐に潜り込む。
女冒険者が体勢を崩した。
泥魔法の冒険者が勝負を決めた。
誰もがそう確信した瞬間だった。
女冒険者の足元に飛び散った水が浮かび上がると、相手の背中に直撃した。
バタンッ。
泥魔法を扱う冒険者は倒れた。
女冒険者は涼しい顔をしてその場に立っていた。結局、試合中一度もその表情を崩すことはなかった。
あの人が、次の対戦相手……。
——だめだ。
どう分析しても、勝てる姿が思い浮かばない。
「……」
「お、アルズ!どうした?深刻そうな顔して。さっきの試合、勝ってなかったか?」
後ろから声がした。
振り向くと、見知った顔の冒険者だった。
「レン!?って、どうしたの。その傷は」
顔が痣だらけで、腫れていた。
「勝つためさ!」
レンは頬をさすりながら隣に座った。
「なあ、アルズ。勝つって、こんなにも痛いんだな!」
「負けるのはもっと痛いよ」
僕は真面目に言ったのに、レンは吹き出した。
「何笑ってるんだよ?」
「あっははッ……ふう。悪い悪い!やっぱりアルズ。お前はなんか違うな!」
「馬鹿にしてる?」
「いやいやいや!そんなわけないだろ!むしろ俺、お前のこと気に入っちまったよ!」
「やっぱり?アルズってなんか放っておけないよね!」
レンの言葉に反応するようにして、エリスが間に入ってきた。
「おお?なんだ嬢ちゃん。アルズの仲間かい?」
「そう!私はエリス。伝説の龍よ!」
「おおっ!龍か。そいつはいいな!」
「でしょでしょ!」
レンは『伝説の龍』という部分には一切触れず、そのままエリスと意気投合してしまった。
隣に座るエリスは羽をぱたぱたとさせ、満面の笑みを浮かべていた。
「ところでよ……アルズ」
レンは闘技場へ顔を向けた。
「どうしたの?」
「俺さ、二回戦の相手がキリなんだよな」
「え?」
「だからといって、負けるつもりはないさ!」
目元には笑みを浮かべていたが、声の端には微かな動揺が滲んでいた。
「負けるのが怖い?」
そう聞くと、レンは目を見開く。
「まあ、な……。人には楽しめって言ったのにな」
無理に笑っているように見えた。
なんとなく、レンの姿は昔の僕と重なって見えた。
「周りなんて気にせずにさ、楽しもうよ。僕は、いや、僕たちはレンを応援してるから」
それは昔の僕自身に言い聞かせているようだった。
レンは口を開けたまま僕を見て黙っている。
その目は陽光を受け、キラキラと輝きを放っていた。
初めてレンの真面目な顔を見た気がする。
「すまんっ!俺、今から少し準備してくる」
レンは急に起き上がると、頭を下げた。
その声には、何か吹っ切れたような清々しさがあった。
僕もこうしている場合じゃない。
悠長に観戦してはいられない。
何かしないと。
「どこに行くの?」
エリスが聞いた。
「ちょっとだけ走り込もうかなって」
「じゃあ、私も付き合うよ」
誰もが闘技場へ視線を注いでいる。
その一方で、人目につかない影を探るようにして虫が蠢いていた。
虫害は日を追うごとに拡大しているように思える。
「虫、最近本当に多いなあ」
エリスが炎を出すと、廊下は青く照らされた。
そのまま、闇の中に湧く虫を一気に焼き払った。
「たしかにそうだね。この大会が終わったら、虫のことも、聖人って呼ばれるネロのこともルーチェさんに聞いてみよう」
「そうだね。それが一番早そうだし!」
薄暗い通路を通って外に出ようとした時だった。
「おや?君はさっきの試合の……?」
突然、薄暗い廊下の奥から声がした。
誰だろうか。
僕は振り向いた。
「えっ……」
見覚えはある。
けれど、一度も会ったことはない。
真っ直ぐで迷いのない瞳。
赤い髪の青年。
背には、龍の紋章が刺繍されたマントが翻っている。
「や!俺はキョウシュウというものだ」
間違いない。
五賢人の一人キョウシュウがそこにいた。




