第二十二話
開幕と同時に、スキンヘッドの冒険者が手を前に出す。
「サンダー!」
手のひらサイズの雷の玉だ。
パチパチと弾けながら光を放つ。
僕は身を伏せて避け、すぐさま相手に接近する。
「おまえらだけはッ……許さないッ!」
涙目だった。
歯茎をむき出しにしていた。
エリスは一体、彼からどれだけむしってきたのだろう。
本気で僕に怒っている人を初めて見た気がする。
だが、この際好都合だ。
相手の動きが単調で回避しやすい。
蹴りが飛んでくるのを腕で受け流し、木の枝を腹部に突き当てた。
「ぐっ……!」
相手はよろめきながら後ろに引き下がると両手を合わせる。
「サンダースネークッ」
両手に雷を纏うと僕の髪が逆立った。
すかさず半歩下がると、雷はジグザグを描きながら蛇のように追尾してくる。
「アメシズク」
雷に対する壁を作るように放つ。
相殺すると水飛沫が舞う。
霧となった水が僕に触れる。
「ふう……」
雷の追尾が止まった。
雷の跡が地面を抉っていた。
「な、なんで水魔法の癖に、感電してないんだ……」
スキンヘッドの冒険者は困惑している。
どうやら、この知識はないみたいだ。
学校で習った。
電気を通しやすくしているのは、水に混じった不純物だ。
「そりゃあ、純水だからね」
相手が動揺しているところに迫り、木の枝で腹部をもう一度叩く。
「あと、エリスを馬鹿にしたぶん」
木の枝を振り抜く。
今度は体重を乗せた。
枝を振った僕の手がピリつく。
かなり手応えがあった。
「っぐ……」
よろり、と相手は体勢を崩した。
それと同時に客席のあちこちから歓声が巻き起こる。
だが、まだだ。
いくらルーチェさんたちに鍛えられてるとはいえ、木の枝だけでは決め手にはならない。
スキンヘッドの冒険者は腹を抱えながら起き上がる。
「こ、コイツッ……!」
相手がギロリと睨む。
目は充血し、こめかみには血管が浮き出ていた。
「……ッ!」
たまらず引き下がってしまった。
それほどに恨みのこもった目をしていた。
「さ……サンダーブラックッ!」
喉を震わせながら唱える。
足元には黄色の魔法陣が無数に現れる。
槍のような黒い雷が足元から突き出した。
それをギリギリで避けた。
だが、避けた先に相手はいた。
蹴りを腹に入れられると、息が詰まり視界が揺らぐ。
「残念だったなぁッ!」
スキンヘッドの冒険者は両手に雷を纏っている。
バチバチとほとばしる雷が頬を掠め、皮膚が黒く焦げる。
溢れる雷が触れる直前。
「アメシズク!」
咄嗟に、相手と僕の間を遮るようにアメシズクを放つ。
それは薄く、殴ればすぐに貫通するだろう。
「往生際が悪いんだよっ!魔族を連れたガキのくせにッ!」
相手は腕に雷を纏っていた。
その手を振り下ろす瞬間。
「……雷、引っ込めた方がいいですよ」
僕は提案した。
ぴくり。
僕の声を聞くと動きを止めた。
みるみる顔を紅潮させてゆく。
「ビビってんのかッ!?殺すッ!」
怒りのあまり、振り上げた手が震えていた。
——バチャンッ……。
相手の振り下ろす手によって、アメシズクの壁はあっけなく崩れる。
誰もが僕の負けだと思うだろう。
僕以外は。
ぴとぴとと水の雫が相手に付着する。
次の瞬間。
——バチバチバチッ!
電撃音が鳴り響く。
——プシュー……。
焼けたにおいが周囲を漂う。
衣服のあちこちを黒く焦がした男が立ち尽くしていた。
それはスキンヘッドの冒険者だった。
「あ……ああっ、な、なん……で?」
「アメシズクの水の純度を変えたからだよ」
ばたり。
地面に倒れ込んだ衝撃で、乾いた土煙がゆっくりと舞い上がった。
「第一回戦ッ!勝者、アルズッ!」
拡大音声魔法によって、音割れするほどの声が響くと、後を追うようにして盛大な歓声が巻き起こった。
「……勝った」
自分でも信じられず、木の枝を握ったまま立ち尽くした。
この歓声が僕に向けられていることが信じられなかった。
盛り上がる観客席の中で、一人だけ違った。
高い観客席から、キリが静かにこちらを見つめていた。
キリだけは、試合の熱気から切り離されていた。




