第一九話
寝るまでにはまだ時間があった。
なんとなく魔法受像機をつける。
——今年もやって参りましたッ!来週開催ッ!ルーキー冒険者集う大会がッ!
司会の男が拳を握り、熱弁していた。
——現在出場予定の注目新人リストですッ!
ずらりと新人冒険者たちが映し出された。
中でも注目されている冒険者の顔がピックアップされていく。
知らない顔が流れてゆく中。
ある人を見つけると、冷や汗が出てきた。
それは僕の友だちだったキリの姿だった。
——本日は、今大会最も注目されている選手、キリにお越しいただいております!
「どうしたの、アルズ?」
「……なんでも、ないよ」
キリが映像越しに僕たちを見ていた。
息苦しくなるだけなのに、画面から目を離せなかった。
キリがマイクを口元に近づけた時だった。
ぷつん。
映像が真っ黒になった。
「やっとこっち見たね」
エリスの尻尾が目の前で左右に揺れていた。
「あ……ごめん」
「いいよ。私疲れてるから寝るよ?」
「う……うん」
「ま、なんかあったら話しなよ?」
「……ありがとう」
真っ暗になった部屋。
目を閉じるとキリの姿が映像で見た時よりも鮮明に浮かんできてしまった。
忘れようとすればするほど、記憶はそれを拒むように勝手に遡っていった。
***
キリは僕の唯一の友だちだった。
よく二人で公園へ行って遊んでいた。
僕がいじめられている時は庇ってくれた。
だが、歳を重ねるにつれキリは僕を避けるようになった。
ある日のことだった。
「もう、お前とは縁を切る」
突然、そう告げられた。
理由は怖くて聞けなかった。
今でもよく覚えている。
その時の心が冷たくなったあの感覚。
聞きたくても聞けない自分の情けなさ。
孤独で真っ暗になる視界。
***
昨晩はあまり寝付けず、翌朝はエリスに起こされた。
「珍しいね。アルズが寝坊するの」
「うん。ちょっとだけ昔のこと、思い出してた」
「そっか。私にはよくわからないけど二度寝する?」
「いや。いいよ。ありがとう」
夢の中では嫌なことを思い出すだけだ。
それにキリと話すこともできない。
今日は新人戦の参加費を振り込みに行く予定だった。
僕は夢を振り払うようにして思いっきり身体を起こした。
「うん。行こう。エリス」
「はいはい」
新人戦の参加費を振り込んだ僕たちは、帰るついでに大会へ備えた装備の調達をしていた。
「じゃあさ、あれはどう?」
エリスが防具を物色していた。
「それは……」
物理ダメージ軽減。
魔法ダメージ軽減。
身体能力向上機能付き。
なんか色々てんこ盛りだった。
「高っ」
「足りないの?じゃあ、もっと貢いでもらってくる?」
「だからそれは駄目だって」
「じゃあ、ルーチェからもらったさしみーとか売る?」
「それはもっと駄目だよ。もらったものだし」
手軽な装備なら買えると思っていたが、本当に手軽な装備しか買えない。
「これなんてどう?」
「ちょっと見せて」
「いいよ!」
エリスが選んだ装備のタグを確認した。
『冷却ファン搭載モデル』
「安いけどちょっと違うかな」
「じゃあこれは?」
『重労働向け作業服』
……これも違う。
「……ここ、現場仕事用のコーナーじゃない?」
「あ。ほんとだ。でも、他は買えそうにないよ」
「まあ、それはそうだけど……」
「じゃあ、この作業服にしようよ。冷却機能も付いてるし」
エリスと話し合った末、冷却機能ありの防具を買った。
その後は武器屋にも行ったが、やっぱり高かった。
「そこのおじさん。この武器、安くならない?」
エリスが値切っていた。
「いや、十万のを一万は流石に……」
「一も十もそんな変わらないじゃん」
「これだから、魔族は……」
「あ?」
「やばっ」
出禁にされただけだった。
武器屋を追い出された僕たちはエリスの提案で、近くの森へ来た。
木漏れ日の中、エリスは落ちている木の枝を拾っては捨てていた。
そこには僕とエリスしかいなかった。
「……ねえ、エリス」
「なに?」
「……」
話したいことはあるのに、どう話せばいいのかわからなかった。
「ほら、これとかいい感じじゃない?」
エリスは僕の目の前に木の枝を差し出した。
「……これは?」
「剣っぽくない?」
「たしかに、雰囲気は剣っぽいね」
エリスは拾った木の枝を爪で研いで渡してくれた。
「まあ、とりあえずさ。この枝でキリでもぶん殴ってきたらいいんじゃない?」
「でも、どうやって?」
「あるでしょ。捕まらずに殴れる場所が」
光と影がまだらに揺れていた。
「まあさ。とりあえず買ってきた装備、全部試着してみようよ」
エリスはそう言うと、無理やり僕を着替えさせた。
冷却機能付き作業服。
エリスが勝手にカゴに入れていた保護メガネ付き安全ヘルメット。
研いだ木の枝。
「……」




