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第十八話


「では、また明日はルーチェ様が見てくださいます。本日はごゆっくりお休みください」


 今日の鍛錬は夕陽が沈むと同時に終わった。

「しんどかった……」

「アルズ。お疲れさま」


 汗だく。

 疲労困憊。

 エリスにおぶられて、ルーチェさんが新しく手配してくれた宿に向かう。


「ごめん。エリス。汗とか嫌じゃない?」

「嫌に決まってるでしょ」

「……ごめん」

「ねえ、アルズ。わかってると思うけど、私はアルズが強いとか関係ないからね」


 エリスは僕をおぶったまま振り向かなかった。

 その背中はふわふわとしていて、温かった。


「うん。ありがとう」

「ほんと。こんなことまでしてあげてるんだから今日はご馳走してよ!」

「それは考えとく……」


 翼をバタつかせるエリスにしがみつきながら、指定された宿に到着した。

 そこは前とは違って普通の落ち着いた宿だった。


 チェックインと同時に、フロントスタッフからルーチェさんの見舞金を手渡された。

 ちょうど、その額は冒険者居酒屋で僕たちがお腹いっぱいになるくらいだった。


 僕たちは部屋で休み、遅めの夕食を食べに行った。

 

 その翌日はルーチェさんと実戦を交えた演習。

 その次の日はハンドルドさんと理論を交えた魔法の特訓。


 日を重ねるごとにアメシズクも少しずつ形を変えていった。


 最初は空中で弾けてしまった。

 やがて、形を保ったまま木の幹を濡らした。

 最後は樹皮をえぐるようになった。


 さらに、アメシズクを二回放った後でも、水道の蛇口を軽く捻る程度の水魔法なら一回は扱えるようになった。


 王族の剣技も日を重ねるごとに身体のブレが減り、薙ぎ払う剣捌きから無駄な力が抜けていった。


 毎日倒れてエリスに運ばれた。

 その度にエリスの背中も汗で濡れていた。

 それでも、僕を下ろそうとはしなかった。

 明日も頑張ろうと思えた。


 週に一回の休みには、簡単な冒険者業をこなし、生活費もなんとかやりくりできた。


 そんな生活を一カ月続けた。


 今日が最終日だった。


「ここまでよく頑張ったな。これならもう、ブロンズの冒険者と比べても遜色ないよ」

 ルーチェさんは自分のことのように微笑んだ。

「はい!僕の方こそ、本当にありがとうございました!」


 こんなにも成長が遅い僕に呆れもせずにずっと付き合ってくれたことに、感謝してもしきれない。


「ちなみにだがアルズ。君もこれに出てみないか?」

 ルーチェさんは一枚の紙を見せた。


『ブライトライト新人戦』


 そう書かれていた。


「これはね、毎年行われる大会なんだ。特に、ルーキーは実技の経験も少ない。アルズ。君にとってもいい経験になると思うんだ」

 ルーチェさんはパンフレットの見開きに大きく書かれていた賞金額を人差し指で示した。

「もちろん、優勝者には賞金も出る。ここまで美味しい話はないだろう」


 たしかに僕には実戦経験がほとんどない。 

 戦った相手といえば、ルーチェさんとハンドルドさん、それに森で出会った子分くらいだ。

 この機会にどれだけ成長できたのかを知りたくもあった。

 僕にとってすごくいい経験になりそうだ。

 しかも、ほぼ不可能だろうけれど勝てば賞金も出る。


「ありがとうございます。僕、出ます」

「うん。そう言うと思っていたよ」


 こうして、僕は新人戦に出ることになった。


——「ちなみに、出場料金は……」


 宿に戻っても、ルーチェさんのその言葉が反復していた。

 料金はおおよそ宿代一泊分。

 大会の締め切りは来週。


 決して払えないことはないが、払うと痛い絶妙な金額だった。

 エリスはベッドに寝そべりながら、爪を研いでいた。


「はあ……」

「どうしたの?浮かない顔して」

「いや、お金がね……」

「あるよ。お金」


 エリスはそう告げた。


「ほら、そこに」


 それは、ちょうど宿代に換算して三泊分。

 今の僕たちにしてみれば大金だ。


「ど、どこで手に入れたの?」


 誰かに聞かれるのが怖くて、小さな声で聞いた。


「貢がれたんだよ。龍だと崇め奉られてね。いやあ、困ったねえ」

「誰に?」

「えっと、たしか……スキンヘッドの冒険者って周りに呼ばれてる人」

「……エリス?」


 それが誰なのか、すぐにピンときた。

 冒険者ギルドで出会った、禿てしまったルーキー冒険者。


「なに?」

「どんな風にもらったの?」

「いや、普通にお金ないから欲しいって。そうしたら、地面に頭をこすりつけてお金を置いて行ってくれるんだ」

 

 それはカツアゲじゃないか。

 エリスは時折、ふらっと姿を消していたから何をしてるのかと思ったら……。


「このお金は、大事に使おう」


 それが、あの気の毒な冒険者にできる敬意だ。

 決して僕がお金に切羽詰まったとかエリスのカツアゲを認めた訳じゃない。

 断じて、エリスが馬鹿にされたことへの恨み晴らしとかじゃない。


「おっ!アルズも少しは人っぽくなってきたね。まあ、またなくなれば、あの親切な信者を探しに行くから大丈夫だよ」

「それだけはやめようか」

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