第十五話
翌朝。
宿を出ると、王城まで冒険者が付き添ってくれることになった。
すごいな。
高級宿というのは。
「アルズ……多分、思ってることと違うよ」
「うん。わかってる」
「ほら、容疑者!何話してるッ!さっさと歩け!」
僕たちは護衛ではなく、連行されながら王城に向かうと、ルーチェさんが頭に手を当てて待っていた。
「アルズ……君の言い分、聞いておこうか」
「誤解です」
何度目だろうか。
周りの冷ややかな目に少し慣れてきてしまった。
今回はエリスの証言もあり、スムーズに誤解は解消された。
問題が解決すると、ルーチェさんの執務室へ向かった。
「どんな訓練をつけてくれるのでしょうか?」
「その前にこれだ……」
ルーチェさんは白い花を手から出した。
「ホワイトピースフラワーですか?」
「その通りだ。これを」
ルーチェさんは花を両手で包み込んだ。
再び、手を開けると、その花は黄色く発光していた。
「色が……変わった?」
「そうだ。人には得意な魔法がある。水なら青と言った具合にな」
それを見定めるのが、この白いホワイトピースフラワーらしい。
「因みにだが、花は一色だけとは限らない。特殊な例だと、斑点模様が浮かんだりもする」
ルーチェさんはそう言うと白い花をエリスに手渡す。
「まずはエリスからだな」
「私はいいよ。花が燃えて、王城が焼けちゃうからね」
「?」
「気にしないでください。やりたくないだけです」
「わかった。ならアルズ、君からやってみるといい」
エリスの抗議をよそに、僕は手元に真っ白なホワイトピースフラワーを持った。
首だけの花を見ていると、なんとなくかわいそうだと思った。
「わかりました。やってみます」
その花を両手で包み込んだ。
両手で包んでいるとわかる。
この花は少しだけ温かい。
「もういいよ。手を開けてごらん」
一体、僕はどんな魔法が得意なんだろうか。
もし、斑模様だったり、特殊な色だったとしたら……
期待と緊張が入り混じり、胸が高鳴る。
手を開く。
——それは白い花だった。
「ん?白い?」
ルーチェさんは驚いたように見ていた。
「白というのは初めて見たよ……」
つまり、僕は特別な何かを持っているということだろうか。
「理論上でいけば、どの魔法にも適性が無いということになるぞ……」
そんな気はしてた。
「その、アルズ。とても言いにくいのだが……」
「大丈夫だよ。そんなのでアルズはへこむほど、弱くないから」
エリスは僕の肩を叩いた。
そうだ。
僕はもう慣れている。
期待がただ無くなっただけで、何も変わらない。
むしろ、出来ないからこそ、余計に人よりも頑張ろうと思えた。
じっと花を見つめていると少し違和感があった。
別に陽射しを受けているわけでもない。
——ただ、花そのものが白い光を放っていた。
「あれ?」
不思議に思って見つめていると、ルーチェさんが花を覗き込んだ。
「アルズ、君は王の血に認められたみたいだな。それが継承の証だ」
僕の包み込んでいたホワイトピースフラワーをルーチェさんは優しい目で見ていた。
「間違いないよ。アルズ、君は姉と同じく、強い冒険者だ」
僕の心が希望で熱くなる。
それはまだ、十歳にもならなかった時。
まだ夢を抱いていた時のような感覚だった。
「さあ、アルズ。鍛えに行こうか」
「はいっ!」
魔法に適性がないなら、他の人よりも何倍も鍛えればいい。
そうすれば、いつか人並みに魔法は扱えるだろう。
人より出来ないなら、人よりもやればいいだけだ。
「さ、二人とも、私の手を握ってくれ」
ルーチェさんの差し出す手を取った。
——緑の大地には陽光が照り付けていた。
あたりは狭い執務室から、広大な草原になっていた。
「ここは?」
「ブライトライトから少し離れたところだ」
本当だ。
ブライトライトの王城が遠くに見えた。
「ここでなら、剣技を教えられる」
ルーチェさんは軽く腕を鳴らすと、木刀を手に取った。
草木が小さく揺れる。
空気が変わった。
「これからは、私と執事のハンドルドで鍛える。生憎だが、私は教えるのが得意ではないから実践で覚えてもらう。ハンドルドからは説明を聞きながら訓練してくれ」
「わ、わかりました」
まさか、初日から実技だとは。
昨日、走っておいてよかった。
ルーチェさんは僕の分の木刀を手渡す。
木刀を手に取った瞬間。
「重っ……」
鉄の塊みたいだ。
木刀が手元から滑り落ち、砂利が飛び散る。
必死に持ち上げようとするが、なかなか上がらない。
「さて、準備はいいね?」
「え?」
「さあ、行くぞッ!」
「ちょ、ちょっと!僕まだッ!」
エリスは欠伸をすると尻尾を巻いて眠ってしまった。
「うわっ!」
身をよじった。
間一髪で避けられた。
薙ぎ払っただけの風圧で体勢が崩れる。
「ほお。軽く振ってみたのだがな……」
今ので軽く!?
「なら、次は少しだけ力を入れようか」
ルーチェさんが渡した木刀は駄目だ。
僕はあたりを見渡す。
何もない。
ルーチェさんが迫りくる。
こういう時、どうやって殴られてきた?
これまで培った防衛本能を呼び起こそうとしたが、だめだ。
既にルーチェさんの振り下ろす木刀が頭上で影を作っていた。




