価値を書き換える俺は、正義を名乗れない①
この国では、人間の価値は数字で決まる。
それが、絶対だ。
「神代 恒一。総合価値“4”」
査定官の声は、感情がなかった。
「平均を大きく下回る。資源として非効率だ」
視線が集まる。
興味ではない。
確認だ。
“価値の低い人間”を。
「よって、君は解雇だ」
「……そうですか」
反論はしない。
意味がないからだ。
外に出る。
曇り空。
重たい空気。
「……終わりか」
呟いた瞬間だった。
視界に、数字が浮かぶ。
「……は?」
人の頭上に、数値。
淡く光る。
通り過ぎる男。
――76
女。
――42
子供。
――15
「……なんだ、これ」
自分を見る。
――4
さっきの数値と同じだ。
「……触れる?」
指を伸ばす。
触れた。
確かな感触。
「……動くのか」
なぞると、数字が揺れる。
嫌な予感。
でも。
ほんの少しだけ。
4を削って。
5にする。
その瞬間。
頭が、ぐらりと揺れた。
「……っ」
何かがズレた感覚。
だが、それだけだった。
「……気のせいか?」
違和感は残る。
でも、確証はない。
そのとき。
かすかな音がした。
路地裏。
雨が降り始めている。
「……人?」
近づく。
「……おい」
壁にもたれた女。
血が滲んでいる。
視界に数字。
――8
低い。
助からない側の人間だ。
「……医者は」
思いかけて、やめる。
意味がない。
「……っ」
女が目を開ける。
「来ないで……」
「なんで」
「巻き込まれる……」
意味がわからない。
だが。
「……助ける」
口が勝手に動いた。
理由はなかった。
ただ。
目の前で死ぬのを、見たくなかった。
「……無理だよ」
「いいから」
視線を落とす。
――8
さっきの感触を思い出す。
「……試すだけだ」
自分に言い聞かせる。
8に触れる。
温度がある。
少し迷って。
数字を書き換えた。
――20
瞬間。
また、あの違和感。
だが。
「……っ」
女の呼吸が、わずかに安定する。
「……え?」
本人も驚いている。
血の流れが、止まり始める。
「……なんで」
理由は、わかっている。
「……たぶん、俺だ」
女がこちらを見る。
困惑と警戒。
「何したの」
「わからない」
正直に答える。
わからない。
本当に。
ただ一つ。
“変えられる”ということだけ。
「……名前」
女が言う。
「白峰……澪」
「神代だ」
短いやり取り。
それだけなのに。
妙に現実感がなかった。
そのとき。
遠くで、何かが崩れる音がした。
「……今の」
「……聞こえた?」
二人とも、同時に顔を上げる。
雨音に混ざって。
確かに、何かがおかしかった。
理由はわからない。
でも。
嫌な予感だけは、はっきりしていた。
「……帰れるか」
「……たぶん」
白峰が立ち上がる。
まだ不安定だが、さっきよりは明らかにましだ。
「……助かった」
小さな声。
それを聞いて。
なぜか、胸の奥がざらついた。
助けたはずなのに。
何かを間違えた気がしていた。




