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フォーギブミー・ノット  作者: 香坂茉音
高校1年生
9/15

1-9


  「え?軽音辞めんの?」一樹は驚いた。


 「うん」志乃はお弁当をつつきながら答える。


 幼馴染4人は昼休みに一緒に昼食を摂っていた。場所は校舎の階段上にある踊り場で、そこには屋上へ出られる扉がある。本当は屋上で昼食を摂りたかったのだが、扉は常に施錠されているため4人はこうして踊り場でたむろしていた。


 「なんで?」一樹はコンビニで買ってきたパンを齧る。


 「なんか…。居辛くなって」志乃は母が作ってくれたお弁当を見つめた。

 

 「何があったんだ?」将次郎が尋ねる。彼も母親が作ったお弁当を手にしていた。


 志乃はここ数日ずっと岸本たちに無視されていることと、先輩たちとのバンド結成について説明した。


 「だから見学のとき言ったじゃん。やめとけって」一樹はほら見ろと言った。


 「あぁ…」だったらもっとちゃんと説明しろよと志乃は苦い顔をした。


 一樹はその表情に気付いて志乃から目を逸らす。


 「なんの話だ」将次郎と実弦が首を傾げたので、一樹は見学のときの話をした。


 「ふーん…」将次郎は一樹と志乃を交互に見る。


 「岸本って岸本優也だろ?」一樹が聞く。


 「うん」志乃は頷いた。「同じクラスだったよな?」


 「そう。しかも発表課題で俺らと同じグループ」一樹は自分と将次郎を指した。


 「へぇ。そうなんだ」


 「俺らが締めとくか?」一樹はパンを握る。


 「おい」将次郎が止めた。「このあとのホームルームで発表だろ。いざこざ起こすなよ」


 「でもあいつが志乃のこと無視してんだぜ?」苛立たしげに将次郎に反抗する。


 「やめとけ」将次郎も岸本に腹が立ったが、一樹が岸本にヘタクソだと言ったあの日のことをうっすらと思い返していた。いらないことばっかり起こしやがって。


 「いいよ。別に」志乃も止める。「あたしにも原因あったし。それに、そんなことしてあんたらが問題になって欲しくないし」


 一樹は不満顔で潰れたパンを齧った。


 コイツはあの日のことを覚えていなさそうだな、と思いながら将次郎は志乃を見る。「顧問には相談したのか?」


 「いいや。相談すんのも面倒くさくて」志乃は卵焼きを口に放り込む。


 「してみろよ。なんとかなるかもしれないだろ」生徒同士の争いには教師を挟むべきだ。


 「でもさ~。相談したところであいつらと仲良しこよしになるわけじゃないし。一度こうなったらもう終わりだよ」


 「そ、そうだよね」不安げに実弦が言う。彼は自分で作ったお弁当を食べていた。「人間関係が拗れちゃうと居辛くなるよね」


 「そうそう」志乃はため息をつく。「ベースは好きなんだけどなぁ」


 「辞めてどうするんだ?」将次郎は早々にお弁当を食べ終えた。


 「どうって?」


 「他の部活に入るのか?」


 「う~ん…」志乃は首を捻る。


 「び、美術部に来る?」実弦が言った。「みんな優しい人ばっかりだし、志乃ちゃんなら美術部でベース弾いてても怒られなさそう」


 志乃はふふっと笑った。「いや。もういいかな。バイトでも始めるよ」


 「俺もそろそろバイト探そっかな」一樹はパンを食べ終えて包装ビニールをクシャっと丸めた。「学校にも慣れてきたし、暇だし。って言っても俺は平日ムリそうだけど」


 「あたしは学校終わりで行けるから、17時から21時くらいまでのとこがいいな」志乃はモグモグしながら言う。


 「そんなに遅く?」将次郎は驚いた。「やめとけって。危ないぞ」

 

 志乃はケケっと笑う。「なに言ってんだよ。高校生なんてそのくらいの時間でも出歩いてるだろ。ジョージだって塾で22時とかに帰るじゃん」


 「俺はいいんだよ」


 「なんでだよ。一緒だろ?」志乃は不満を示した。


 「違うだろ」女の子なんだから、という言葉を将次郎は飲み込んだ。


 「21時くらいならだ、大丈夫じゃないかな?」実弦が言う。


 「そうだそうだ。誰がこんなやつ襲うって言うんだよ」一樹は将次郎の意図していることを汲んでいた。


 「あ?」志乃は一樹を睨む。


 「そうじゃなくて、」将次郎は誤魔化すために否定した。「親父さんが許してくれると思ってるのか?」


 「あ」志乃は固まる。


 「確かに。志乃のとーちゃんは許さないだろうな」そっちかよと一樹は笑いながら思った。


 「凉くんと快くんもね」実弦は志乃の兄たちの名前を出した。


 「ったくもう!」志乃は自棄になりながら言う。「関係ないね!あたしはもう高校生だよ?自分でなんでもできるっての。いつまで赤ちゃん扱いするんだか」この際、父さんとの約束も破って髪を切ってしまおうか。バイトを始めるんだからベースは自分で買えばいい。


 「そんだけ頼りないってことだろ」一樹が揶揄からかう。


 「うるせー!」


 昼休み終了の予鈴が鳴った。


 「あ、ヤバ」志乃は急いでお弁当を片付ける。「実弦、早く行って発表の練習しよ」


 「う、うん!」緊張した面持ちで実弦もお弁当を片付けた。


 「お前も間違えるなよ」将次郎は一樹に言う。


 「分かってるって」一樹は余裕の表情。「あんま緊張しすぎんなよ実弦。適当にやればいいんだから」と励ます。


 「頑張れよ実弦」将次郎も実弦の背を叩いた。


 「うん!」実弦はぎこちないながらも目はやる気に燃えていた。


  4人はそれぞれのクラスに戻る。ホームルームで発表が始まった。


2組の志乃たちのグループは一度実弦が詰まりかけたものの、北島がフォローに入ってくれたので、大きな失敗にはならず発表を終えることができた。


担任からは「議題は標準的だったものの、団結して発表ができていてとてもよかった」と評価を貰えた。


 一方4組では将次郎と橘が中心となって発表し、他のメンバーは発言が少なかった。そのためこちらは「内容には富んでいるものの、もう少し平等に発表できるようにしましょう」との評価だった。


志乃と実弦は満足していたが、将次郎は一樹と岸本がギスギスしていたせいもあって、あまり納得がいかなかった。


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