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翌日からは授業が始まった。4時間の授業のあと昼休み、その後2時間の授業と清掃をして部活動という時間割。将次郎と実弦と志乃は1週間の仮入部を経て本入部届を提出し、それぞれ部活にいそしんだ。
将次郎は中学の頃から大会などで良い成績を残している剣士だった。高校の剣道部でも既に名が知られていて、期待の新人として歓迎された。
実弦は初めこそ緊張していたが、美術部には女子が多く、穏やかな性格の子ばかりだったので、安心して入部をすることができた。
軽音部では7人いた見学者は仮入部中に徐々に減って行き、最終的に4人になった。男子が3人。女子は志乃1人。中学のときは軽音部の同級生に女子が2人いたが、男子の方が多かった。なので高校で女子1人になっても志乃はあまり気にしなかった。
志乃はその男子3人となんとなく仲良くなった。志乃にとって男女という括りは存在しない。全員1人の人間として接しているため、性別で友達を分けることはなかった。
しかし幼馴染の男子3人とつるむ時間が多いため、女友達がいるにはいるが少ない。周りも彼女には男友達しかいないと思いがちだった。
一樹は運動部の先輩から「うちの部に入らないか」と何度か勧誘を受けていた。だが彼はどこの部にも入らなかったので、授業が終わると1人寂しく家に帰っていた。
新入生が学校に慣れ、クラスの顔ぶれも覚え始めた5月の初め。ホームルームの時間を使って発表課題が行われることになった。
6,7人のグループで時事問題をひとつ選び、議論した結果を5月末にクラスで発表するという内容だった。グループは好きに作っていいことになっている。
「将次郎く~ん。仲間に入れて~」4組では一樹が真っ先に将次郎にすり寄った。
「来ると思った」将次郎は呆れた。こういう時は必ず一樹が寄ってくる。楽をしていいところだけ預かろうとしているのが見え見えだった。
「頼む!なんでもするからさ~」一樹は手を合わせて頼んだ。
「お前にできる事なんてないだろ」ほくそ笑みながら机に肘をついて、一樹を見上げる。嫌がってはみるがこういう時は優位に立てるので、将次郎も楽しんでいる節はあった。
「そんなことねーよ。俺けっこうまとめるのとか得意よ?」小首を傾げる。「お願い!お願いします!」と再び頼み込んだ。
「分かった分かった」諦めのため息をつく。「入れてやるけど喋るなよ」
「やりぃ!サンキュー」一樹は明るく笑ってガッツポーズを作った。「やっぱ持つべきものは友達だよなぁ」
「そうだな」コイツのこの笑顔。どうも憎めないよな、と将次郎は微かに口元を緩めた。
将次郎と一樹のグループはあっという間に出来上がった。将次郎の隣に座る女子と、一樹目当てで寄ってきた女子2人。そして軽音部に所属している男子の計6人。生徒たちはグループごとに集まり、机を向かい合わせにして座った。
時事問題を何にするか話し合う中、一樹は女子2人と関係ない話ばかりしていた。一樹は背が高く、イケメンと呼ばれるほど見た目がいいので早くも女子たちの中で人気が高まっていた。
入学してから1か月。クラスでは早くもカーストのようなものが出来上がっている。一樹に積極的に話しかけるのは、一軍と呼ばれる自分に自信のある女子たちで、将次郎たちのグループにいる女子2人もその一軍にいた。
「一樹」将次郎は隣に座る一樹を注意する。「喋るなって言っただろ。外すぞ」
一樹をグループに入れると、そうした女子も付いてくるだろうと予想していたので、将次郎は喋るなと最初に釘を刺していた。
「悪い悪い」一樹は素直に謝る。
「一応、全員が発表するってルールだから、しっかり聞いておいてね」将次郎の向かいに座る橘 ひかりが横に座っている女子2人に言った。橘はこのクラスで書記を務めており、控えめだが真面目で面倒見の良い性格をしていた。
注意された女子2人は不機嫌な顔をしただけで何も言い返さなかった。
「じゃあどうしようか?」静かになったグループに橘が問う。
「ありきたりな時事問題だと他と被りやすいから、海外の問題を取り入れるのはどう?」将次郎が提案した。
「私はそれでもいいけど、」橘は女子2人を気にした。「ちょっと難しくならない?海外だと英語の資料とか新聞に目を通すことになりそうだし…。みんなはどう?」とグループを見回す。
「簡単なやつにしようぜ」一樹が面倒くさそうに言う。
「国内ものでいいんじゃない?」軽音部に所属している男子、岸本 優也が発言した。彼は一樹の向こう側に座っている。「それか国内問題だけど、世界的にも問題になってるやつとか」
将次郎はグループを見回した。6人中3人はやる気がなさそうだ。難しい問題に取り組めるタイプじゃない。
「あぁ。そうだな。そうしよう」もう少しメンバーを考えるべきだったかと小さなため息をついた。
そのため息が聞こえたのか、将次郎の蔑みに似た表情が気に入らなかったのか、一樹の向かいに座る持田という子が前のめりになった。
「あのさ、グループでやらなきゃいけないんだったら、もっと分かりやすいやつにしてくんない?」と将次郎に噛みつく。
「え?」将次郎は眉をひそめて持田を見た。
「そっちばっかりがやり易いように進めないでくれる?あたしたちもメンバーなんですけど」あんた委員長なんでしょ?もっと周り見たらどう?という意味が込められていた。
「ならちゃんと参加して」将次郎はきつめに言い返す。「意見も出さず、意欲もないのはどうかと思う」こっちはボランティアでそっちの面倒を見てるんだぞ。参加もしてないのに自己主張だけは一丁前にするな、というのは腹の中に収めておいた。
「は?」持田は低い声で怒る。
「中尾くん。持田さんも。落ち着いて」橘がなだめた。
持田は橘を睨むと、本人に聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で「なにコイツ、キモ」と囁いた。
その悪意ある言葉は橘の耳に容易く届いた。彼女は瞳を潤ませて唇をギュッと結ぶ。
将次郎はまずいと焦った。ここで仲間割れを起こすと発表は上手くいかない。どうする。
「もっちー。俺らみたいなアホは将次郎に着いていくしかないのよ」一樹が軽い口調で言った。「アホはアホ同士、大人しくしてようぜ」
「はぁ?アホじゃないし」持田は恥ずかしさを滲ませて一樹を見た。「てか、もっちーってなに?」
「持田だからもっちーでしょ?」一樹は微笑みながら首を傾げる。
「やめてよ。それ小学校のときからずっと言われてんの」持田はニヤけた。「みずきって呼んでって言ってるじゃん」
「はいはい。みずきちゃんね」一樹は橘を見る。「ごめんね橘さん。邪魔しちゃって。続けてくれる?」と優しく促した。
「う、うん」橘はハッとなって気を取り直した。
将次郎は助かったと一樹を見る。コイツは昔からそうだ。ふざけているように見えて、上手くその場をまとめる。周りをよく見ていて、誰も取りこぼさず、不真面目なのに人から好かれやすい。
リーダーの役目を担うのはいつも将次郎だったが、人間関係や場の空気を優先するのは苦手だった。それはグループワークの中で嫌われる要因にもなる。しかし一樹がいてくれればそれが解消された。将次郎が彼をグループに入れたのはそうした理由もあった。
将次郎の視線に気付いた一樹はバチッと一回ウィンクを送っておいた。グループワークで良い点が取れるのはコイツのおかげ。場が悪くなると進め辛くなるだろうから、お荷物はお荷物の役目を果たすだけだ。
そうして将次郎たちのグループは大荒れにはならず、国内の問題に目を向ける方向で決まった。




