表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フォーギブミー・ノット  作者: 香坂茉音
小学3,4年生
PR
32/33

小4


  小学4年生になると幼馴染たちはみんな同じクラスになった。4人が同じクラスになるのは後にも先にもこのときだけ。クラスには田村もいた。そして転校生もいた。それが野口だった。


 野口はこの頃から問題児のように見られていたが、大きな問題を起こしたことはなく、親の都合で引っ越してきた子供であった。彼はすぐに田村と仲良くなり、段々と‘`遊び相手‘‘を探すようになった。


 やんちゃ坊主であった一樹には目もくれず、真面目で頭のいい将次郎にも近づかなかった。彼が標的にしたのは実弦だった。実弦はこのときも吃音の症状が出ていたが、1年生や2年生の時ほど酷くはなかった。病院や通級にも通って改善している最中で、周りの子も実弦に慣れていた。それに幼馴染たちと遊んでいたこともあり、イジメが起きたことはなかった。


 だがそれは野口には無関係だった。野口は田村と一緒に実弦をイジメるようになった。実弦の口調を真似するところから始まり、エスカレートして手を出すところまでいった。教科書やノートに落書きをしたり、机やイスを倒したり、髪を引っ張って突き飛ばし、鉛筆を投げつけ、給食の時間には自分たちの嫌いな食べ物を押し付ける。大きな怪我をさせるのではなく、陰湿な程度のいじめを繰り返していた。


 実弦がイジメられているといち早く気付いたのは一樹であった。野口と田村にやめろよと注意し、実弦を守ってやった。志乃と将次郎もそれに気付いて、実弦に付き添うようになった。そのおかげでイジメは無くなったが、それはほんの一時のことだった。


 ある日、運動場で体育の授業をしていると、野口と田村が実弦を捕まえた。実弦の運動能力のなさをバカにする。狭い教室内とは違い、広い運動場には児童が散らばっていたため、端の方にいた3人が何をしているのか担任の先生は気付かなかった。


将次郎と一樹もペアを組んで体育に取り組んでおり気付かなかった。しかし志乃は気付いた。野口が実弦の胸ぐらを掴むところを見ると、急いで3人の元へ駆け寄り、そのままの勢いで野口に飛び蹴りを食らわせた。野口は倒れ、手足や顔に怪我を負った。


 「みっちゃんをイジメるなって言ってるだろ!」志乃は実弦を後ろに隠した。


 「いってーな!」野口はサッと立ち上がると志乃を突き飛ばした。


 志乃と実弦は尻餅をつく。


 「おとこ女は邪魔すんなよ!」田村が口を出す。


 「うるせー!」志乃は負けじと立ち上がり、野口に掴みかかる。


 野口は当時クラスで背が高い方だった。なので簡単に倒されることはなく、志乃の服を掴み返した。2人がもみ合っている間に田村も加勢して、志乃の短い髪を引っ張る。志乃の手が離れると、野口はその隙に彼女の顔や頭を殴った。

 

 「お前、柏木と付き合ってんだろ!うえ~。キモ!」と言いながら2人は志乃に手をあげる。


 実弦は声が出せずに怖がっていたが、なんとかしなければと必死に立ち上がって、泣きながら走り出した。向かった先は一樹と将次郎のところで、息を切らしながら、説明もできないまま2人を志乃の方へ引っ張った。


 一樹と将次郎は殴られている志乃を見つけるなり走り出した。揉め事の中に飛び込むと、将次郎は野口に殴りかかり、一樹が田村に蹴りを食らわせる。そのまま男子4人はお互いにボコボコと殴る蹴るの争いを続けた。


 ここでようやく担任が事に気付いて止めに入った。


 なんとかケンカを収めた担任はその後、当事者全員の親に連絡を入れたため、この日の放課後に親たちが学校に集まった。それぞれの子供の母親と、担任、校長、子供たちが会議室に集まって話し合いが始まる。実弦だけ親はいなかった。


 子供たちは怪我を負ってたので保健室で手当てを受けてから、全員にヒアリングが行われた。その結果を担任が親たちに説明すると、野口と田村の母は「うちの子がイジメをするわけがない。イジメられる側に問題があった」と反論し、一向に自分の子に非があると認めなかった。


 志乃の母は日頃から学校での様子を娘から聞いていたので、娘が友達を守ったのだと理解していた。正しいことをしたのだと分かってはいたが、相手に手を出し、そしてその顔に負った傷を見ると悲しくなった。大事な娘に怪我を負わせた相手方には怒りが湧いたが、どんどん荒くなっていく娘にも不安感を抱いていた。


志乃は今そういう時期なのだろうと口うるさく注意はしていなかったが、いつかこんなことが起こるんじゃないかと思ってはいたので、「暴力はいけないって言ったよね?女の子なんだから、傷が残ったらどうするの?」と静かに娘を叱った。


 志乃は納得がいかなかった。あたしは実弦を守っただけ。イジメてる奴が絶対に悪いじゃん。あたしたちが怒られるのはおかしい。頭の中でそう反発したが、悲しんでいる母の顔を見ると胸が痛んで、小さくごめんなさいと謝った。


 一樹の母は一方的に息子を叱った。「あんたまた問題起こしたの?ケンカするなって言ったよね?これで何回目?どうして大人しくできないの?お母さん忙しいんだよ。仕事抜けてきたんだよ。菜々ちゃんだって迎えに行けないでしょ」と母は息子を厳しく叱責した。母は後々に息子が正しいことをしたのだと気付くが、この時はそこまで気が回らなかった。


 将次郎の母は息子を褒めた。手を出したことは咎めたが、普段から真面目で素行のいい息子が自ら問題を起こすと思っていなかったので、「お友達を守ったんだね。頑張ったね。偉いね」と声をかけた。将次郎は母が理解を示してくれたことが嬉しく、自分は間違っていなかったんだと自信を持った。


 それを見た一樹はなんで俺は叱られたんだろう。俺だって頑張ったのに。俺だって守ったのに。と悔しく思った。そしてこういう時にお母さんは俺を信じてくれないんだと学んだ。何を頑張っても意味がない。どれだけやってもお母さんは認めてくれない。だったらもういい。なんにも頑張りたくないと諦めた。


 実弦は会議室の隅でひとり静かに自分を責め続けていた。みんなに迷惑をかけてしまった。僕が大人しくしていればこんな事にはならなかったのに。僕が悪いんだ。僕のせいで…。


  そのからは話し合いが長引いたので、将次郎、志乃、実弦の父が仕事終わりに学校に駆け付けた。事情を聞いた父親たちの反応は三者三様だった。


 実弦の父は息子がイジメられるかもしれないと前々から懸念していた。そのため色々と手はつくしていたが、妻を亡くしてから息子の吃音は酷くなり、心を閉ざすようになっていたため困り果てていた。しかし3年生になってから徐々に改善してきて、もう心配はなさそうだと思った矢先、今回のことが起きた。それでも息子のことは責めず、不甲斐ないお父さんでごめんなと謝った。実弦はそれを受けて父に感謝したが、さらに自分を責めた。


 志乃の父は親たちの中で一番怒りを露わにした。愛娘を庇い、「うちの娘は悪くありませんよね?そちらが謝罪をするべきでしょう。こんなに怪我をして、痕が残ったらどうしてくれるんです?先に手を出したのはそっちでしょう。責任とってください。出るとこ出ましょうよ」と野口と田村の母に詰め寄った。


そして学校側にも叱責した。「あなたたち把握していたんですか?こうなるまで放っておいたんですか?どうしてすぐに気付かなかったんですか?どう責任を取るつもりですか?」


 志乃は声を荒げる父を見て恥ずかしい気持ちが湧いたが、それでもちゃんと味方してくれる父には感謝の気持ちが湧いた。


 将次郎の父は息子が自ら問題を起こしたと思ってはいなかったが、暴行を働いたことで問題を大きくしたことは気に食わなかった。「ケンカするなよ。先生を真っ先に呼ぶべきだっただろう。もっと冷静になれ」と注意し、その注意は妻にも及んだ。


そして将次郎の父は元々一樹のことが好きではなく、あんな子と遊ぶなと息子に警告していた。それなのに今日、会議室に入って一樹の姿を目にするなりやはりこうなったと呆れ果てた。


 将次郎はその呆れを感じていた。母は褒めてくれたが、父は認めてくれなかった。自分が悪いとは思っていない。でも父さんは認めてくれない。どうしたらよかったんだよ。父さんの言う通り先生を呼んでくるべきだった。でも志乃や実弦を守ったことは間違ってなかったはずだと悩んだ。


 長く続いた話し合いは結局うやむやになったまま終わった。野口と田村は最後まで非を認めることはなかった。


 学校側は特別措置として野口と田村を別のクラスへ移した。しかし実弦はもう学校に行きたくないと言ったため、遠方に住む祖母を呼んで家に滞在してもらい、自宅学習をすることになった。実弦はそこで絵を描いたりゲームをしたりして過ごすようになる。志乃、将次郎、一樹はそんな実弦に会いに行っては彼を励まし、一緒に遊んだりした。


 「父さんがさ、もうお前たちと遊ぶなって言うんだ」


 ある日、実弦の家から帰る途中、将次郎は一樹と志乃に言った。


 「でも俺は、お前たちと遊ぶのが悪いと思ってない。あのケンカだって、俺たちが悪いわけじゃないだろ?」


 一樹はケタケタと笑う。「俺たちが悪いわけないだろ!父ちゃんの言うことなんて気にすんな!なんにも分かっちゃいないんだからよ!俺たちは実弦を守った仲間だ!」


 「そうだよ!関係ない!」志乃も賛同する。


 「…だよな」将次郎は笑った。


 「ジョージ、助けてくれてありがとう。あのとき言えなかったから」志乃は恥ずかしげに将次郎に言った。


 「いいよ。当たり前だろ」将次郎は満足げに応えた。


 「いっくんも」志乃は恐る恐る一樹を見た。「ありがとな」彼には苦手意識を抱いていたが、一緒に実弦を守ることが増え、今回も助けてくれたので、そこはちゃんと見ていた。志乃はこういう子だった。


 「べ、別に」一樹は照れくさくなってぶっきら棒に言った。


 「一樹、お母さんに怒られてたけど、」志乃は続けた。「あたしは一樹が悪いと思ってないから。だってすごかったもん。あの蹴り」


 「ん」一樹は顔を反らした。母が認めてくれなかったこと、志乃はちゃんと見て分かってくれた。それが何よりも嬉しかった。


 「もし2人になにかあったら、今度はあたしが守ってやるから!」志乃は高らかに宣言した。


 「おー!」一樹は照れを隠すように志乃と将次郎の肩に腕を回した。


 こうして幼馴染4人は友情を深めていった。実弦は3人の協力のおかげで5年生から学校に通えるようになり、そこから卒業までは何事もなく過ごせた。ずっと3人に感謝の意を抱きながら。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ