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フォーギブミー・ノット  作者: 香坂茉音
高校1年生
3/15

1-3


 「はい。じゃあ机の上にある教科書、すべて揃ってるか確認して」全員が着席するとホームルームが始まり、担任が自己紹介をしたあとに言った。


 「全部に名前を書いて、失くさないようにね。名前を書き終わったら2階の会議室へ行って、注文していた体操服とジャージを受け取ってください。


今日はそのまま帰っていいですよ。明日も授業はないけど、筆記用具は持ってくるように。朝の8時半までに登校してね。遅刻しないように!」


 生徒たちは指示に従って教科書に名前を書き始めた。


将次郎もきっちりと全ての教科書に目を通してから名前を記入する。一樹は早々に切り上げて教科書を鞄の中へ放り込み、ファスナーを閉めた。鞄を担いで席を立つ。


 「ちょっと一樹。ちゃんと名前書いたの?」近くにいた一樹の母が言った。「失くしてもお母さん買わないからね」


 「書いた書いた」一樹は適当に答える。「帰るの?」


 「お母さんたち、みんなでお茶しようって話してたけど。あなた達どうする?一緒に行く?」


 「俺らはどっかでメシ食ってくるわ」母親の集まりに参加すると長くなると思い、一樹は別行動を取ることにした。


 「志乃のとこ行ってくる」妹の頭をポンと撫でると一樹は教室を出た。


 廊下にいる保護者の波を掻き分けて2組の教室に辿り着く。2組もホームルームが終わってざわざわとしていた。


 「おーい、志乃。メシ行こうぜ」一樹は教室に入って志乃の席の横に立った。


 「あ?」志乃は一樹を見上げる。ちょうど教科書に名前を書き終えて、鞄へ仕舞ったところだった。「ジョージは?あんたら同じクラスじゃなかった?」と辺りを見回す。


 「いいんだよ。あいつは」一樹は耳を掻いた。後ろの席にいる実弦と目が合う。「おう実弦。メシ行こうぜ」


 「う、うん」実弦はガタッと椅子から立ち上がると2人に近づいた。「あれ?将次郎くんは?」


 「ほっとこうぜ」一樹は面倒くさそうに言うと、大袈裟なくらいの動作で実弦の肩に腕を回した。


 「ダメだよ。将次郎くんにも声かけようよ」こうして腕を回されるのはいつものことなので、実弦は特に気にせずに一樹を見上げる。


 「そうだそうだ」志乃は同意すると席を立った。よいしょっと勢いをつけて鞄を肩にかける。「重っ!4組だったよな?行こう。体操服も取りに行かないと」


 一樹は志乃を見降ろしてプスッと笑う。


 「なんだよ」志乃はジロリと一樹を睨んだ。


 「やっぱお前のスカート見慣れねえわ」彼女の膝を見てさらに笑う。


 「うるせーなぁ。ジャージがないから仕方ないだろ」一樹の肩を軽く手で押す。一樹はビクともしなかった。こいつまた背が伸びたか?昔と比べて全然こっちのダメージが入らない。


 「行くぞ」体格差をヒシヒシと感じながら志乃は男子2人に言った。


 4組へ行く前に3人はまずそれぞれの親に声をかけた。志乃の母は一樹と実弦のことを褒めちぎったあと、母親たちのお茶会に参加すると言った。志乃の兄は妹たちの写真を何枚か撮ったあと、父さんに送っておくと言って帰って行く。


実弦の父も高校生たちにひと言ずつお祝いの言葉をかけたあと、息子に「父さんは仕事に戻るな。今夜はちょっと帰りが遅くなるかも」と告げて去っていた。


 その後、人が4組へ行くと、ちょうど将次郎が教室から出てきた。


 「ジョージ」志乃が声をかける。


 「おう」将次郎はそれに応えたあと、幼馴染たちを見回した。


一樹はまた実弦の肩に腕を置いている。一樹曰く、実弦の身長が腕をかけるのにちょうどいい高さらしく、よくこうして実弦を肘置きにしていた。


実弦はそれを何とも思わず受け入れ、志乃はそんな2人を見て呆れ気味の表情をしている。


 「お前ら変わらないな」と独り言。


 「なんて?」志乃が聞く。


 「なんでもないよ」将次郎は子供を見守る親のような目をして3人に加わった。


 「あっそ。じゃあ体操服取りに行こう」


 「あぁ」


 4人は階段を降りて2階の会議室へ向かった。


既にたくさんの新入生が会議室へ移動していて、部屋から溢れ出るほど混雑している。


部屋の中には体操服などが入った段ボールが大量に置いてあり、担当の先生が生徒の名前をチェックしてそれぞれのサイズの体操服を渡していた。


 4人も受け取りの列に並ぶ。


白い体操服と黒のハーフパンツ、明るめの青のジャージ上下を受けとると、密度の高い会議室を出て、人の少ない廊下の端に移動した。


志乃はさっそく包装ビニールを破いてジャージのズボンを履いた。灰色がかった紺の制服に明るい青のジャージは相性が悪く、少々不格好に見えた。


 「ふぅ。やっと落ち着いた」志乃はそんなことを気にせずにリラックスした。中学生の時も常にスカートの下にジャージやハーフパンツを履いていたので、今日はずっと風通しが良すぎてそわそわしていた。


 「高校でもジャージを履くつもりか?」体操服を鞄に仕舞いながら将次郎が言った。「言っとくけど、校則違反だぞ」


 「いいじゃん」志乃は肩をすくめる。「中学ではオッケーだったし」


 「ここは中学じゃない」優等生らしく注意する。


 「え~」志乃は不貞腐れた。「先生になんか言われたら止めるよ」


 「言われる前に止めとけ」


 「ったく。ジャージくらいで校則違反とか意味が分からん。ちゃんと学校のジャージ履いてるんだから、いいじゃんねぇ?」他2人に同意を求める。


 「ふっとい足隠すんだからいいんじゃね?」一樹が揶揄からかう。


 「は?」志乃は一樹を殴ろうとしたが、彼は笑いながらサッと避けた。


 「お、女の子もズボンを履けるといいよね。志乃ちゃんはズボンが好きだから」実弦は同意する。


 「だよねー」志乃は笑顔になった。


 将次郎はやれやれと首を振る。「怒られても知らないからな」


 「はいはい。早くメシ行こう」志乃は将次郎の背を押した。


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