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フォーギブミー・ノット  作者: 香坂茉音
高校3年生
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24/34

3-1


  3年生のクラス分けは次のようになった。1組に井浦冬舞、3組に一樹と志乃。5組に実弦と江見澤、7組に将次郎。3年生ということで前半は就職組、後半は進学組でまとめられている。


将次郎は委員長にはならず、生徒会長として就任。4月の頭にあった入学式に生徒を代表して祝辞を述べた。実弦は5組で再び書記に就いた。


  4月に行われた身体検査で志乃と実弦は変わらずだったが、将次郎は1センチ、一樹は2センチ背が伸びていた。他は何事もなく5月の体力測定と中間テストも終えると、体育祭の季節がやってきた。


  体育祭まであと数日という日。幼馴染たちは3年生の教室がある東側の校舎の一番上、1年生のときと同じように階段上の踊り場に集まって昼食を食べていた。


 「ああぁ~~」将次郎は他の3人より遅れて踊り場にやってくると、濁声の大声でため息をつきながら床に座った。


 「疲れてんなー」一樹が呑気に言いながらコンビニで買ってきたお弁当を食べる。


 将次郎は4月に入ってからより一層勉学に励むようになっていた。高校受験のような失敗は許されないと体調管理にも気を配っていたが、学校が終わると塾へ直行し、家に帰ってからも勉強。朝も早めに起きて机に向かい、学校では授業と生徒会長の仕事。最近では体育祭の準備もあって疲れ果てていた。


 「だ、大丈夫?将次郎くん」実弦が心配する。


 「あぁ」将次郎は肩を落としながらお弁当を広げ始めた。「生徒会長になんてなるんじゃなかった。こんなにやる事があるなんて。いつも通り委員長やっときゃよかった」とぼやく。


 「お疲れ」志乃も労った。誰がどう見ても将次郎は忙しくしており、また大事な時に体調を崩すんじゃないかと心配した。


 「誰だよ。障害物リレーと借りもの競争一緒にやろうとか言い出した奴」将次郎はブツブツと愚痴を言いながらお弁当を食べる。


 体育祭では生徒会と1年生と3年生の実行委員が種目を決める。競技は3つか4つと決まっており、大抵はクラスリレーと部活リレーが入る。残りは無難な玉入れや綱引きが選ばれるのだが、今年は障害物リレーと借りもの競争が候補に挙がった。どちらもやるのは時間的に厳しくなりそうだったので、どうせなら一緒にしてしまおうとなった。


 「反対したのに。クソ多数決がよ」と悪態をつきながらおかずをつつく。


 「何か手伝えたらいいんだけど、」実弦は眉を下げた。「ネタバレしないためにぼ、僕らは手伝えないんだよね」公平を期すために障害物と借りものの内容は関係者以外秘密となっている。


 「生徒会と実行委員だけじゃ手が足りねーよ。どう考えても」生徒会長は文句を続けた。「前日にテントの設置もあるのに」


 「しょーじろーくん。がんばってー」一樹は心のこもっていない言い方で、旗を振るように割り箸を振った。


 将次郎はため息をつく。「お気楽だなほんと。お前クラスリレー出るんだっけ?」


 一樹は首を振る。「いいや。障害借りものに出る。将次郎はなんも出ないの?」


 「一応クラスリレーの補欠走者に名前は入れてるけど、たぶん出ない」つまらなさそうに答える。「ほぼテントの中だろうな」


 「うわぁ。つまんね」一樹は実弦を見る。「実弦は?」


 「僕は部活リレーに出るよ。こ、今年は野球部と組むんだ。志乃ちゃんは今年もクラスリレー?」


 「うん」志乃は頷く。「今年は最終走者」


 「わぁ」実弦はすごいと志乃を見る。「頑張ってね」


 「頑張れよ」将次郎も言う。


 「あんたらもね」志乃は3人を見回した。彼らの表情はお揃いで、このメンバーで参加する最後の体育祭になってしまうんだなと感傷に浸っていた。



  体育祭前日、授業が終わると将次郎は明日の準備のために慌ただしく動き回った。実弦は美術部、志乃はバイトへ行ってしまったので、一樹は1人でのんびり帰ろうかと考えた。


しかし暇だったので、なんの気なしにグラウンドの方へ足を運んだ。明日が体育祭なので、運動部はグラウンドを使っておらず、代わりにテントの骨組みが畳まれた状態で3つ置いてあった。


 「これ組み立てねーの?」と一樹がテントの側にいた1年生の実行委員に尋ねると、「人手が足りなくて」、「自分たちだけでは組めない」、「生徒会長か先生に確認しないと」と言った。辺りには教師も3年生の実行委員もいなかったので1年生は指示待ちぼうけを食らっている状態だった。


 一樹は「生徒会長なんて無視して組み立てちまえばいいだろ。俺が手伝う」と言って骨組みを立てるのを手伝った。実は一樹は1年生のときテントの組み立てを手伝っており、その経験から1年生たちに指示を出して天幕も張ってしまった。


 体育館で生徒会のメンバーと一緒に障害物用の道具を倉庫から出していた将次郎は、グラウンドへその道具を運ぶと既にテントが立っていたので驚いた。


1年生の実行委員にどうしたのか尋ねると、「知らない先輩が来て手伝ってくれた。その先輩は天幕を張るとさっさと帰ってしまった」と説明した。


 将次郎は親切な誰かが手伝ってくれたおかげで時間短縮になった、と感謝した。



  体育祭当日、今年も生徒と保護者がグラウンドに集まり、クラス対抗リレーから始まった。1年生が走り終わると3年生女子の番がくる。最終走者の位置に就いた志乃はグラウンドを見回した。


 両親が保護者席から身を乗り出さんばかりに応援している姿を捕らえたあと、テントの下にいる将次郎と目が合った。生徒会長になってしまった将次郎は1年生のときとは違い、大々的に誰かを応援することはしなかった。しかし黙っていてもその目から読み取れるものがあった。


次に自分のクラスのエリアから、一樹が応援しているのが見えた。将次郎とは対照的に、自分のクラスで友達なんだからいいだろ、と大声で激励している。実弦も自分の席から両手をぐっと握ってこっちを見つめていた。


 スタートのピストルが鳴り、志乃はリレーに意識を戻した。第一走者が走り出す。志乃のクラス、3組は少し出遅れてしまい、下位で第二走者にバトンが渡った。


第二走者の争いでは上位の人が転倒し、3組は中位に順を上げる。志乃がスタートラインについた時点でも順位は変わらず、第三走者からバトンが回ってきた。


 志乃はバトンを受け取ると、針で刺された風船のように勢いよく飛び出した。前を走るのは3人。あまり差はないためすぐに1人抜き、さらにもう1人抜いた。


1位の走者の背中に必死で付いて行ったが、相手は陸上部の子。なかなか追い抜くことができず、志乃は2位でゴールラインを踏んだ。


 志乃は地面に座って悔しがった。しかし一樹が頭を抱え、実弦が肩を落とし、将次郎が拳を額に当てているのを見ると、思わず笑みがこぼれた。


 3年男子のクラスリレーが終わると、部活対抗リレーが始まった。走るのが早くない実弦を帰宅部である志乃と一樹は大声で応援。将次郎も静かに見守っていた。


美術部はコンビを組んでいる野球部の頑張りもあって、2位を取ることができた。因みに1位はぶっちぎりでゴールテープを切った北島率いる陸上部とコーラス部だった。


 昼食を摂ったあと障害借りもの競争へ移った。グラウンドのトラックに障害物が設置され、その間に借りものののお題が書かれた紙が置いてある。1人4分の1周で合計8人。トラックを2周でゴールとなる。障害物走者から始まり、借りもの走者へバトンタッチ。借りもの走者はお題に書かれたものをグラウンド内から探し出して、一緒に走る。次の障害物走者の前にいる判定員に合格を貰ってからバトンたちとなる。


 1年生の障害借りもの競争が大騒ぎで終わったあと、3年生の番になった。3組の一樹は8番目、最後の借りもの走者を任されていた。


スタートの合図が鳴ると3年生たちは四苦八苦しながら障害物を乗り越え、借りものを探す。1周目が終わった時点で3組は3位にいた。2周目に入り、借りもので手こずって4位に落ちると、その順位のまま一樹にバトンが渡った。


 一樹は並べられた紙の中から1枚選び、お題を確認した。薄々予想はしていたが、やはり{好きな人}と書かれていた。


辺りを見回す。将次郎はごちゃごちゃしている走者の順位を記録するのに忙しくしていて、実弦はまだ部活リレーの疲れが抜けていないのか、席でくたびれながらこちらを応援している。自分のクラスに目をやると、一番前の席で志乃が「何してんだ!さっさと走れ!」と大声で怒鳴っていた。


 一樹は舌打ちをして紙を握りつぶすと走り出した。トラックから外れて向かった先は保護者席。大勢いる保護者の中から応援に来ていた妹の菜々美を見つけると、彼女をおんぶした。


トラックに戻り、ゴールの前まで走る。判定員にお題の紙を渡すと、判定員は大声でお題を読み上げ、一樹は「妹!」と背にいる小3の菜々美を見せた。


無事に合格を貰った一樹は妹と一緒にゴール。残念ながら順位は3位であったが、ケラケラと笑う妹を見て一樹は満足だった。


 一樹のお題が好きな人であることを知った一樹ファンたちは、自分が選ばれたかったと悔しがった。しかし彼が妹を選び、生徒を誰も選ばなかったことで全員ホッとしていた。


それに対して将次郎は上手いことやったなと思い、志乃と実弦もその手があったかと少し驚いた。だが妹想いの兄だから当然だとも納得した。


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