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フォーギブミー・ノット  作者: 香坂茉音
高校2年生
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19/33

2-5


  濁りのある雰囲気が残るまま10月が終わり、11月の文化祭を迎えた。学校はお祭りのように彩られ、保護者だけでなく他校の生徒も見に来てにぎやかになる。


志乃は井浦に誘われて演劇部の公演を観に行った。演劇部は体育館で午前と午後の2回公演を行い、志乃たちは午前の部を観た。


 「いやー。面白かったな」体育館から出た志乃は隣を歩く井浦に言った。


 「うん。ロミオとジュリエットがあそこまでコメディになるなんてね」井浦はクスクスと笑っていた。


 「衣装もすごかったよな。あんな派手なの、作るのに絶対時間がかかっただろうに」


 「ね。結ちゃん頑張ってたもんね」井浦と江見澤は今でも交流があり、井浦の小説を江見澤に読ませ、感想を貰うやりとりも続いていた。


 「結ちゃん、私の小説にいつも的確で丁寧な感想メモ付けてくれるし、本当に努力家で良い子だよね。私も今回の劇の感想、伝えないと」井浦は言った。


 「だなー。このあとどうする?」


 「うーん。結ちゃんはまだ出てこないだろうし…」井浦は体育館の方を見た。江見澤は演劇部の一員として舞台袖で公演を観ていると言っていた。


 「じゃあ、6組に行こうぜ。お化け屋敷入れるかも」志乃は提案する。


 「えぇ…」井浦は乗り気でない顔をした。


 「なに怖いの?」志乃はニヤニヤする。


 「怖くはないけど」ツンとそっぽを向いた。


 「ふーん」志乃は井浦の背を押す。「どうせそんなに怖くないって。行こう」


  活気のある廊下を通り抜けて2人は6組の前に着いた。教室の窓は黒いシートで隠されており、風船でできた白いお化けや骸骨が廊下に並べてある。入り口となる扉の前には受付を担当している実弦がいた。


 「あ、志乃ちゃん。来てくれたんだ」実弦は喜んだ。


 「おう。どんな感じ?」


 「な、なかなか好評だよ。ぼ、僕もあとで交代したら志乃ちゃんのクラスのク、クイズしに行くね」


 「うん。難しいの用意したから」あたしじゃなくてこの子がと井浦を指す。「やってみて。あたしたちは漢字の問題作ったよ。ジョージでも解くの無理なんじゃない?」


 将次郎は数字に関する問題を作っていた。お互いの答えは知らない。


 「へ、へぇ。面白そうだね」実弦はやる気になった。「将次郎くんは?」


 「朝は一緒だったけど、劇を観るために別れたから今どこか分かんない」志乃は首を振る。


 「そっか。劇を観に行ってたんだね。ぼ、僕も午後の部を観に行くんだ」


 「めちゃくちゃ面白かったよ」志乃は期待していいと頷く。


 「た、楽しみだなぁ」ワクワクと顔を輝かせる。「あ、志乃ちゃんたち入っていく?今なら空いてるよ」と教室の扉を指す。


 「おう」志乃はウキウキしながら井浦を見た。彼女はまだ納得していないと目を細めている。「怖いならやめとく?」


 「怖くないです」井浦は少しムキになった。


 「だ、大丈夫だよ」実弦が安心させる。「教室内をぐるっと回るだけだからな、長くもないし、お、お化けも触ってきたりとかしないし」


 「だってよ。どうする?」志乃は余裕の表情で井浦に尋ねる。


 「怖くないって言ってるでしょ」眉根を寄せて抗議する。


 「はいはい」相変わらず怒った顔も美人だなと思いながら志乃はクスクス笑った。「じゃあ行こっか」


 「ふ、ふたり入りまーす」実弦が扉を開けて中に呼びかけたあと、女子2人にどうぞと道を譲った。


 志乃と井浦は教室に入る。真っ暗になっている教室内は衝立で一本道に仕切られており、怖い絵や飾りがあちこちに設置してあった。所々に置いてある小さなライトが進行方向を示している。不穏な音楽がどこかから流れ、不規則に机やロッカーを叩く音も聞こえた。


 志乃は小さなライトを目指してゆっくりと歩みを進めた。井浦は志乃の後ろを歩きながら、志乃のブレザーの裾をギュッと指でつまんでいた。


 数歩進んだところで柔らかい羽根のようなものが志乃の頬に触れた。志乃はビクッとなって身を反らす。それに驚いた井浦が小さく悲鳴を上げた。


 「ちょっとなに?」怒ったような口調で井浦は聞く。


 「大丈夫だって」志乃はクスクス笑う。


 「もう。早く行こうよ」弱った声で井浦は志乃を押した。


 2人はチビチビと歩く。ちょうど教室の真ん中あたりまで来たかという所で、井戸のようなオブジェの中から長い黒髪で白装束を着た人が不意に現れ、2人を驚かした。


 志乃はうぉっと身を引く程度だったが、井浦は悲鳴を上げて尻餅をついた。


 「おい大丈夫か?」志乃は後ろを向いて井浦に手を差し出す。


 「う、うん」泣きそうな顔で井浦は志乃の手を取って立ち上がった。


 「出口まで目つぶってなよ。あたしが手引いてやるから」


 「うん…」井浦は俯いて目をつぶった。志乃がその手を引く。


 再び進み始めると、衝立の向こうからぬっと大きな手が出てきた。小さなライトに照らされたその手は骨張っていて、赤く血塗られていた。


 あ。一樹だ。と志乃は直感した。バスケットボールを片手で掴んでいたあの手だ。


 こんなので驚くわけないだろとニヤニヤしながらその手の側を通り過ぎようとしたとき、急にその手が伸びて志乃の首を掴み、ぐいっと引っ張った。


 「えっ」ゾンビの格好をした一樹が衝立の向こうから姿を現す。


 一樹は驚いた志乃の顔を見ると、小さな声で満足そうに笑った。


 「なに?どうしたの?」目をつぶったままの井浦が尋ねる。


 一樹はパッと手を放し、揶揄うような瞳を志乃に残してから衝立の裏へ消えた。


 「志乃ちゃん?大丈夫?」井浦は恐る恐る薄目を開け、不安そうに聞く。


 「あぁ。大丈夫。行くよ」あいつマジで後で殴るとイライラしながら志乃は井浦のために前へ進んだ。


 音で驚かされ、白いシーツで覆われたお化けに遭遇したあと、ようやく出口に着く。明るい廊下に出ると志乃は眩しさで目を細めた。


 「終わったよ」と井浦に声をかける。


 井浦は目を開けて廊下にいることを確認すると、ホッと一息ついた。


 「よかった…。え?」志乃を見て驚く。「どうしたのそれ!血が出てる!」と首元を指す。


 「え?」志乃は自分の首に触れた。赤い液体が指に着く。「あ」


 「うわぁ!どうしたの志乃ちゃん」受付にいた実弦が志乃たちに気付いて近づいて来た。「赤いのが顔にも制服にもついてるよ」


 「大丈夫、大丈夫。ケガしてないから」志乃は2人を落ち着かせるように言うと、制服を引っ張って襟元を見た。確かにブラウスとブレザーにも赤い液体が付いている。


 「あ、あれ?それって血のりだよね?」実弦は赤い液体をじっくりと見ると、自分の制服のポケットをごそごそとまさぐった。「血のり使ってるのい、一樹くんだったはず。……あぁ。もう。こ、こういう時に限ってティ、ティッシュがない…」


 「これ使って」井浦がスカートのポケットからハンカチを取り出した。


 「いいよ。汚れるから」志乃は遠慮した。


 「な、何があ、あったの?」ティッシュ探しを諦めて実弦が聞いた。


 「ちょっと掴まれただけ」志乃はまったくもうと呆れる。


 「お、お客さんにはさ、触らないって決まりなのに」


 「どうせいつもの悪ふざけだろ。あたしだって分かっててやったんだ。舐めやがって」フンと鼻を鳴らす。


 「早く落とした方がいいよ」井浦が言った。


 「あぁ」


 志乃と井浦は近くの女子トイレへ向かった。鏡で顔を見ると頬や首に少量の血のりが付いているのが確認できた。


 「ったく」志乃は冷たい水道水で顔と首を洗う。


 「一樹くんって雪元一樹くんだよね?」側で見守っていた井浦が聞いた。井浦と一樹は顔見知り程度の仲だった。


 「うん。そうだよ」


 「どうして意地悪したの?」


 「ああいう奴なんだよ。いっつもちょっかいかけてくる」頬と首の血のりはすぐに落とすことができた。


 「はい」これで拭けと井浦はハンカチを差し出す。


 「いいよ」


 「いいから」ハンカチを志乃の顔に押し付けた。


 「あぁ。はい。ありがとう」有難くハンカチで水滴を拭う。「洗って返すな」


 「それはいいけど、」井浦は不機嫌そうに腕を組んだ。「腹立たないの?」


 「立ってるよ?」志乃はハンカチをスカートのポケットに仕舞うとブレザーを脱いだ。「あーぁ。ブラウスにも…。こっちも脱ぐか」とブラウスも脱いだ。


 11月。さすがに寒さを感じてぶるっと震える。


 「着替え持ってる?」井浦は聞いた。


 「持ってない。体操服もジャージもないや」志乃は腕をさする。


 「私もない」小さくため息。「待ってて。誰かから借りてくるから」


 「ごめんな。ありがとう」ブラウスを洗い始める。


 「いいよ」


 井浦は女子トイレから出た。誰か知り合いがいないかと人の多い廊下を歩いていると、6組の教室の前に実弦と将次郎がいた。


 「あ、あの、志乃ちゃんど、どうなった?」実弦は少し緊張気味に井浦に尋ねた。


 「顔と首の血のりはすぐ取れたよ。今はブラウスを洗ってる。誰か体操服かジャージ持ってない?」男子2人を交互に見た。


 「僕も、持ってないや…」さっきから全然役に立ててないなと実弦は落ち込む。


 「部室にある」将次郎が言った。彼は実弦から事情を聞いていた。「取ってくるよ」


 「うん。お願い。あっちの女子トイレにいるから」井浦は女子トイレを指す。


 将次郎は頷くと駆け足で部室へ向かった。


 「あ、お客さん」扉の前にお客が並び始めたので実弦は受付に戻る。


 井浦は女子トイレに戻って将次郎を待った。


 数分後、少し息を切らせた将次郎が体操服とジャージを持って現れた。井浦はそれを受け取って女子トイレに入る。


 「どう?落ちた?」


 「うーん。多分な」志乃はブラウスの襟元を絞って広げた。「いや、ダメそう」と白い生地にうっすらとしたピンク色が染みているのを見せる。


 「これ着て。寒いでしょ」井浦は将次郎の体操服とジャージを渡す。


 「サンキュー」志乃は体操服に首を通した。「あ、これジョージの?」腕を通して着たあと、体操服の裾を捲って名前の書いてあるタグを見た。綺麗な字で中尾将次郎と書いてある。


 「やっぱジョージのだ」


 「よく分かったね」


 「匂いがね。あいつの家のだったから」志乃はジャージも着てファスナーを上まで閉めた。少し大きいので袖を数回捲って洗濯に戻る。


 「どうして縁を切らないの?」


 「え?なに?」ブレザーを洗いながら井浦を見る。


 「雪元くんのこと。よく意地悪されるんでしょ?」井浦はまた腕を組んだ。


 「あー。そうだな…」志乃はあやふやに答える。


 「幼馴染だから?」


 「まぁ、それもあるけど、あれでもいいところあるんだよ。あいつ」ブレザーの襟元をつまみ洗いする。


 「あるようには見えないけど」冷たく言った。

 

 志乃は苦笑いした。井浦は一樹みたいなタイプが嫌いだろうな。


 「ダメなものはダメって言わなきゃ。仲間だからっていつまでも許して甘やかしちゃダメだよ」厳しめの口調で井浦は注意する。


 「うん。でもこういうのある度ぶん殴ってるから」志乃はブレザーを絞る。「今回も、あとでぶん殴るよ?」


 「ぶん殴ってもまた意地悪してくるんでしょ?なにも学んでないじゃん」苛立ちを見せた。「雪元くんは柏木くんや中尾くんにも同じようなことしてるの?」


 「いやぁ…」将次郎とはケンカになりかけることもあるが、こんな意地悪はしない。実弦には優しく接している。


 「志乃ちゃんにだけこんな事してるならおかしいよ。何度も注意してるのなら尚更。どうして嫌がってるのに雪元くんはやめてくれないの?柏木くんや中尾くんは、志乃ちゃんが嫌がってるのを見てなんとも思わないの?」志乃に詰め寄る。


 「どうしたんだよ」志乃は井浦が熱くなっていることに気付いた。何事にも淡泊で静かな井浦が怒りを見せている。


 「だって…」井浦は小さく首を振る。自分でもどうしてこんなに怒っているのか分からなかった。


 「あたしたちはいつもこんな感じなんだ。他の人から見たらちょっと変で理解しづらいかもしれないけど、うまくバランス取ってるというか…」


 志乃は自分で言っておいて違和感を覚えた。以前ならそれでよかったのに、この時はなぜか、一樹と将次郎が中庭でケンカになりかけた時のことを思い出してしまった。


 「志乃ちゃんが我慢することないんだよ」井浦は志乃を見つめた。淡い茶色の瞳には思いやりが映っている。「志乃ちゃんはもっと大切にされるべき人なんだから」


 「え…」志乃は驚いた。


 今まで自分は家族から大事にされていると感じていたし、幼馴染3人からも仲間に入れてくれるくらいには想われているのだと感じていた。


男3人の中にいるからといって、お姫様扱いされるわけじゃないと以前自分で言った。それは当たり前のことで、お姫様になりたいわけでも特別扱いして欲しいわけでもなかった。ただの友達として見て欲しいだけで、対等な扱いを受けるにはそんなものはいらない。


でも他人から見れば、あたしは無下に扱われているように見えるのだろうか。彼らの友達として見られていないのか。それとも女性から見て、女性らしい扱いを受けていないあたしは可哀想に映るのだろうか。


 「いや、うん。あたしは別に我慢してないよ」志乃は弱々しく微笑んだ。「言いたいことは言ってるし、ケンカだってするし、これがあいつらの友情表現なんだと思うし…」とうつむく。


 井浦は志乃の横顔をじっと見つめた。彼女だけがこんな扱いを受けるのはおかしい。男子3人の中にいて、彼女だけが搾取されるのは間違っている。男子の中で友情を成立させるために、きっと志乃は自分を捨て去らなければならなかったんだ。


 「…ありがとな。気にしてくれて」志乃は優しく井浦に言った。「あんたの方こそ自分を大事にしなよ。可愛いんだから」


 井浦は息を飲んだ。今まで可愛いだの綺麗だの言われて来た。でも彼女はそんな意味で言ってない。


 「うーん。一回乾かさないと落ちたか分かんねえな」志乃はブレザーを広げる。「とりあえずこれでいっか。行こう」と井浦を見た。


 「うん…」戸惑った表情で井浦は頷いた。


 2人は女子トイレを出る。すぐそこで将次郎が待っていた。


 「落ちたか?」志乃の持つ制服を見る。


 「たぶん。ありがとな。これ」とジャージを指す。


 「いいよ」将次郎はため息をついた。「一樹のやつ、マジなに考えてんだよ」


 「あたしがぶん殴っとくから、ジョージは何も言わなくていいよ」またケンカになるとまずい。


 「んなわけにはいかないだろ。いくら何でもやり過ぎだ」将次郎は苛立ちを見せる。


 「大袈裟だって。ただ制服がちょっと汚れただけだろ」いいからと首を振る。「あたしがいいって言ってるんだから」


 将次郎は強めのため息をつく。志乃がぶん殴ったところで一樹にはなんのダメージも入らないのに、どうしてそこまでして一樹を庇うのか理解できない。


 「あ、いま何時だ?」志乃はキョロキョロと辺りを見た。「ジョージ、行かないといけないんじゃなかった?」


 委員長である将次郎は文化祭で色々と仕事を任されているので、このあと予定があった。


 「あぁ」まさか一樹のことが、と考えたがそれはないだろうと改まった。「じゃあまた後でな」と言って将次郎は去って行った。


 「あたしたちも6組に行こう。江見澤が来てるかもしれないし、実弦にも説明しないと」


 井浦は不服そうな顔をしていたが了承した。


 6組に戻って実弦と話していると、江見澤が来た。志乃と井浦は劇も衣装もすごかったよと感想を伝える。


そうこうしているうちに、6組の教室からゾロゾロとお化けたちが出てきた。同時に別の教室から同じような格好をしたお化けたちが出てきて、お化け屋敷に入っていく。


 「実弦、交代の時間だぞ」ゾンビの一樹が実弦に声をかけた。側にいた志乃にも目をやる。彼女の着ているものが将次郎のジャージだとすぐに気付いた。


 「お前マジいい加減にしろよ」志乃は目くじらを立てて一樹に詰め寄る。「お前のせいで制服洗う羽目になったんですけど」


 「だってお前ぜんぜん驚いてなかったじゃん」一樹は不機嫌になった。


 「で、でも一樹くん。お客さんには触らないってルールだったでしょ?」実弦も注意した。「ダ、ダメだよ。志乃ちゃん困ってるよ」


 「あ~。はいはい。悪かったって」悪いと思ってない言い方。


 「お前が出すのはクリーニング代だ」志乃は一樹の腹に肘を入れようとしたが、将次郎のジャージを汚してしまうと思い諦めた。


 一樹はそれに気付き、顔を少し歪める。「俺のジャージ貸すから、それ将次郎に返して来いよ」


 「ムリ。お前のジャージなんてデカくて着れるかよ」


 「は?」顔がさらに険しくなる。「いいからそれ脱げって」と語気きつく言った。


 「嫌ですー」志乃は一樹から距離を取った。「さっさと行けよもう」


 「責任とるって言ってんじゃん」志乃に近づく。「俺の着てろって」


 「うるせー」

 

 2人の様子を傍から見ていた井浦は複雑な気持ちになった。男子3人から志乃はぞんざいに扱われていると思っていた。だが実弦や将次郎が一樹を責めているのを見て、ちゃんと志乃を大事にしているんだと分かった。それと同時に、なぜ一樹が志乃をイジるのかも分かってしまった。


 「もう行こうぜ」一樹とわちゃわちゃ言い合っていた志乃が他の子に言った。「お腹すいたからなんか食いに行きたい。みんなはどうする?」


 「おい、無視すんな」一樹が噛みつく。


 「うるさい。さっさと着替えてこい」志乃は手払いして他3人を見る。


 「私は体育館に戻らなきゃ」江見澤が言った。「午後の部に向けて衣装のチェックしないと」


 「ぼ、僕はもう少しここにいるね」と実弦。「こ、交代の人がま、まだ来てないから」


 「私は志乃ちゃんと一緒に行くよ」と井浦。


 「分かった。じゃあまたあとで。行こう」志乃は井浦に言った。


 高校生たちの輪はそれぞれの方向へ解ける。一樹は舌打ちをしてから別室へ向かい、その扉を乱暴に開けた。


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