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悪魔と皇子と殺意と私  作者: 夜府花使
67/81

67 狸親父達による雑な陰謀

「狸親父、ですか?」

「父上とアーティボート侯爵の2人の事だ」


 殿下のお父上はけして狸ヅラではないし、

 体型もシュッとしていると思うんだけど。

 記憶の端にあるアーティボート侯爵様も、

 狸というほどでは。


 すると、容姿の事ではない―――と殿下。

 そして「まぁ聞け」と仰る。


「…前にも言ったが、俺はガキの頃から独身を貫くつもりでいた。だが父上も母上も本気にせずに失笑した。ライラ、昔お前も嗤ったよな。あんな感じだよ」


 その節は舐めた態度とって申し訳ございませんでした。


「独身宣言をガキの()れ言と思い込んでた俺の両親―――特に父上は、ここ数年、当たり前のようにライラが俺の嫁になると思い込んでいた。お前が皇宮の貴賓室にいた間も、全快したらいよいよ婚約発表かぁって期待しちまってたんだよ。

 だがお前、元気になったら『どうもー』とばかり、あっさり帰っちまった上、"婚活"始めただろ?」


 婚活―――のところでじろりと睨まれる。


 まさかすでに殿下のお耳にも入っていたとは。

 まぁでも事実だし、私は素直に肯く。


「……父上は拍子抜けしてな。なーんだギーズとライラ嬢は結局ただの友達だったんだーってな」


 殿下に女友達の枠しか空けてもらえてないだけですけどね。


「そこを狙い澄ましたかのようにアーティボート侯爵が父上にしつこく婚約の打診に来たわけだ。この俺がミルクレア嬢に惚れていたなんてガセ情報まで持ち出してな。我が娘とギーズゴオル殿下は実は相思相愛で~ …だってよ」


「え。今更ソレが出てきちゃうんです?」


 ミルクレア様の勘違い。

 それを長らく放置していたツケが今頃?


 殿下がリグナスに目配せをすると、

 心得たとばかりリグナスは肯き、指パッチン。

 切り取られた空間の中に2人の人物が映し出された。


 アラクネイティズ公爵殿下とアーティボート侯爵様だ。

 背景はかなり豪華な部屋。

 きっとアラクネイティズ公爵ご夫妻の住まう瑪瑙宮の一室。


 映像はアーティボート侯爵がアラクネイティズ公爵殿下に話しかけるところから始まった。



『公爵殿下、幾度となく打診しているギーズゴオル殿下と我が娘ミルクレアとの婚約についての件ですが』

『ギーズが承知せぬ。そろそろ諦めてくれないか』


『公爵殿下はご存じでしょうか、我が娘とギーズゴオル殿下が想い合っている事を』

『なんだと? 初耳だが』


『知る者は多いですよ。しかしながらギーズゴオル殿下の父君であらせられる公爵殿下のお耳にいれる者はいないでしょう。なんせ憚られる事情がありまして』

『どういう事だ?』


『実は我が娘は1度、怖れ多くもギーズゴオル殿下を袖にしておりますゆえ』

『ギーズをか? お前の娘が?』


 アラクネイティズ公爵殿下は不快そうに眉間を歪める。

 だけどアーティボート侯爵様はどこ吹く風の腹黒顔を覗かせている。


『我が娘はギーズゴオル殿下を愛しておりますよ。

 ただ、娘は当時、レジレンス殿下とのさしのお茶会にも参加を許されていた立場。そんな身でありながらギーズゴオル殿下に懸想するのは礼節がない。せめてレジレンス殿下が正式に他のご令嬢と婚約をお決めになるまではと。

 けしてレジレンス殿下のお顔を潰すまいとして、心ならずも真に愛するギーズゴオル殿下を袖にしてしまったのですよ』


 そう言い切るアーティボート侯爵。



「えー…」


 打算じゃん。あの頃のミルクレア様、礼節がどうのじゃなくて明確に打算だったじゃーん。

 そもそも別の令息と婚約してさっさとレジレンス殿下の婚約者候補から一抜けした方々なんか無数にいるし、この私に到っては頭ごなしにお茶会辞退までやらかしてしまっていたわけで。

 婚約してたのに破棄したってんならともかく、婚約すらしてない令嬢を縛る権利なんかさすがのレジレンス殿下にもないんだし、強要もしてないし。

 そーんな事を礼節とか言われましてもって感じなんだけど?


 私が呆れてそう言うと、殿下は首を振る。


「時代だよ」

「時代?」


「俺らの時代は緩くなってるがな。父上達の時代はその辺けっこう世間の目が厳しかったみてぇだな。1度でも皇族の婚約者候補に名を連ねたら、皇族側の婚約が正式に発表されるまでは望み薄の令嬢達でも待機してるのが(たしな)みとされていたんだとよ」


「うわ、面倒臭いですね」


「父上も時代が違ってる事は承知の上だ。だからこそミルクレア嬢の事を古風なところが良いとか抜かして好感を持った」

「え、古風? どこの誰が?」

「続きを見ろ」


 私と殿下が話している間、リグナスは映像を止めてくれていたみたい。

 リグナスが指パッチンすると、止まっていた映像がまた動き出した。



『公爵殿下。私は娘に皇太子妃の座を射止めてみよと幼少の砌より言い聞かせておりました。いや失敬、我が恥ずべき野心についてはどうかご内密に。

 娘はギーズゴオル殿下に惹かれながらも父である私の希望に添わんと自身の乙女心を殺して振る舞っておりました。本当はギーズゴオル殿下の事を愛しておりましたのに。

 2人を引き裂いてしまったのは私の不心得違いな野心。我が娘には罪は無いと思われませぬか…』

『そなたの娘は今時珍しく古風であるのだなぁ』


 アラクネイティズ公爵殿下は感心したように目を瞬かせる。



 古風かー。

 ミルクレア様のどこが古風なのか心底わかんない。



『だがなぁ。ギーズの本命がミルクレア嬢であったとは俄には信じがたい。正直、ギーズの口からお前の娘の話題が出た事はない。サーレンシスのライラ嬢ならば頻繁に、だが』

『ふふふ。我が娘はライラ嬢とは大変親しいお友達でしてね。二人の架け橋になりたいと言って下さった…ようなそうでもないようなそんな気のするお年頃…』

『ほほう、ライラ嬢がそのような事を… ていうか、そなたの台詞、後半、聞き取りにくかったような』

『いえいえ、大した事は申しておりませぬ』

『左様か。しかし』

『まだ何か?』


『ライラ嬢は長らく皇宮の貴賓室に療養していたが、ミルクレア嬢の見舞いは1度もなかったように思うが?』

『フッ…。我が娘は勘違いから身を引こうとしたのです』

『ほほう?』


『ギーズゴオル殿下が 女 友 達 であるライラ嬢の為に大変献身的であった事は今や語り草。我が娘はギーズゴオル殿下の想いはすでにライラ嬢へ移っているものと勘違いをし、今更自分などが…とね。

 つまり気を遣ってライラ嬢へのお見舞いを遠慮したのです。

 だがまぁ、実際にはギーズゴオル殿下とライラ嬢との仲は婚約に発展するような物ではなかった事はすでに判明しておりますでしょう? つまりはお二人は性別を超えた 友 情 なんでしょうな。いやはや尊いご関係ですな』


『なるほど』


『ところで公爵殿下』


 アーティボート侯爵様の声が極端に潜められる。


『……この話はその、私とて蒸し返したくは無いのですが。以前、うちの娘が皇宮からの帰り道で襲撃された件』


 言われたアラクネイティズ公爵殿下は少し緊張した面持ちになる。


『あの時、奇貨居(きかお)くべしとばかりに皇帝陛下に我が娘とレジレンス殿下との婚約の打診をば願い出よ…などとと申す親族などおりましてね。

 勿論とんでもない事だと私は(たしな)めたものです。

 ですが私も聖人君子ではありませぬ。本当はそんな野心が無いでもなかったのです―――ただ』


 アーティボート侯爵はフッと笑う。


『娘への愛がそれを凌駕しました。我が娘の真の想いを優先したくなったのです。

 我が娘が真に想う方はレジレンス殿下ではなくギーズゴオル殿下。あの子が心からの笑顔を見せながら嫁ぐ先はギーズゴオル殿下。そう考えた時―――私の中から野心は綺麗さっぱり消え失せたのですよ。

 ふふ。巷では皇宮は我がアーティボート家への借りを未だ返していないなどとほざく輩もおりますが、我家はそんなつもりは一切ない事も併せてお伝えしたく存じます』


 言い終えたアーティボート侯爵様。

 アラクネイティズ公爵殿下は雷に打たれたように感動した様子を見せる。

 傍目にも芝居がかっていたけど。


『なるほどなるほど。いや、ギーズめ、子供だ子供だと思っていたが、いつの間にかそこまで女性に想われるような(おとこ)に成長していたのだな。

 なるほど、アーティボート侯爵。お前の気持ちはしかと受け止めた。

 で、ギーズの方は本当にほんっとぉぉぉぉにミルクレア嬢の事を?

 しつこいようだが? しつこいようだが? しつこいようだがぁ?』


 いやほんとしつこいし完全に芝居がかっている。

 するとアーティボート侯爵は心得たりといった表情を浮かべる。


『我が娘は怖れ多くも殿下の想いを一度無碍(むげ)にしました。―――ギーズゴオル殿下はプライドの高いお方でしょう?』


 その瞬間、アラクネイティズ公爵殿下の瞳が待ってましたとばかりにキラリと光る。


『左様であったな。うむ、確かにうちのギーズなら素直になれぬかも知れないな。それならばこの父がひと肌脱ぐべきか』



 そこで映像は止まった。


「この翌日の朝に俺とミルクレア嬢の婚約が発表されちまった。俺には一切の報告も無しでな」


 殿下は目を据わらせる。

 私は呆然とする他ない。


「て言うか、殿下のプライドがどうのって辺りからの公爵殿下の納得の仕方、急展開すぎません? 謎のしつこさも変でしたが、突然雑っていうか」


「雑だとも」


 そう言って殿下は目をくわっと見開いた。

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