表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔と皇子と殺意と私  作者: 夜府花使
53/81

53 元気はつらつどころか眠いんですが?

 私はしばらくその場に寝転んでじっとしていた。

 そうしていればいつか眠りに落ちるんじゃないかって。

 次に目が覚めたら、

 そこはサーレンシスの城の私の部屋で。


『ああ変な夢見た』


 なんて言って、ふわぁぁと大欠伸したりして。


 瞼を閉じて、そんな風に何度か想像してみたものの、そうっと瞼を開けるとそこはやっぱり薄暗い洞窟の中なのよね。


 かなり長時間放置されて暇だし、

 どこか遠くで声や物音がするので気になってくる。


 それでとうとう散歩に出掛ける事にした。


 洞窟の入り口から外を覗くと、広大な砂漠みたいな空間が広がっていた。それでも全体的に薄暗いんだけど、所々に色とりどりの光が見える。

 そしてその光の下には無数の檻が一直線に遥か遠くまで連なっているのが見えた。

 私は少し歩いて檻の数の多さに呆れる。

 本当に大量の檻で、どこからどこまでがそうなのかすら見えない程の途方も無い数だったから。


 とりあえず一番近くの檻を覗いてみると、筋骨隆々とした男性が入っていた。


 檻の前には立て札があり、「罪状」と書いてある。

 見た事もない文字だった。

 ひょっとしてこれ、"冥府文字"だったり?

 だけどどうしたわけか意味が判る。


 立て札に目を通すと―――



 名:オルクランバ・テズビィ=エナゴーテイク

 備考:海賊として生き、後、

 レーダーゼノン帝国の爵位を得て公爵

 享年:96歳


 海賊として多くの略奪をした。

 罪無き人命を損ない、あるいは売却した。

 テロ活動を企てた。

 複数人の帝国要人暗殺の指令を出した。

 友人を誣告し、処刑させた。


 死因:老衰


 得票:82% 

 ※あなたには投票権がありません



(ちょっ…)


 この檻の中の人、ひょっとしてベルザ様のご先祖?

 グレンダーさんを陥れたテズビィ海賊団首領にして、

 初代テズビィ=エナゴーテイク公爵?


 吃驚して思わずまじまじと眺めてしまう。


 死亡時96歳の老衰の筈が、檻の中にいるのはいかにもといった感じの強面の青年で、鋭い目をギラギラさせて私を睨んでくる。


(そういえば前にリグナスが言ってたっけ。初代エナゴーテイク公爵はまだ冥府にいるって)


 それにしても。


>得票:82% 

>※あなたには投票権がありません



 この二行ってなんなんだろう。


 考えてもわからないし、檻の中の人はとりあえずベルザ様や他のエナゴーテイク公爵家の方々とは似ても似つかないし、見なかった事にした。


 そのままいくつかの檻の中を覗く。


 檻の中に入っているのは常に男性だけど、立て札を読むと国籍も罪状もそれぞれ違っていたし、件の確得票の数字もそれぞれ違う。だけど"あなたには投票権がありません"の一行は同じ。

 見た檻の数も十を超える頃には飽きてしまって、立て札を読むのも適当になった。

 だけど更に通り過ぎた六つか七つ目かの檻の中に若い女性の姿をみとめた時は、思わず目を見開いてしまった。


 檻の中の女性は10代半ば―――つまり私と同じくらいの歳だろうか。


 女性は俯いていてその顔立ちは見えないけれど、着ている衣装のデザインが古風である事は判った。

 女性の檻の前にも立て札がある。


 目を通した途端、ドキッとした。

 さすがに眠気が少しだけど飛んだ。



 名:エリサラウ・ラセンノート

 備考:ラセンノート侯爵家令嬢・後に離縁

 享年:18歳


 婚約者の浮気を疑い、

 浮気相手であると誤解した女性に

 毒殺犯の冤罪をかけて刑死させる。

 翌年、罪が発覚して貴族籍剥奪後、処刑。

 

 死因:絞首刑


 得票率:99% 

 ※あなたには投票権がありません。



 こ、この方は!?


 私は驚きで目を見張ってしまった。


(この方、ご先祖さまの元婚約者よね。メネルト・ワナティカ様を陥れたご本人……!)


 衝撃のあまり、

 じろじろじっくりと眺め回してしまったけれど、

 ふと気になる事があった。



 得票:99% 



 今まで見てきた立て札の中では一番数値が高い。


 そしてもうひとつ。


―――浮気相手であると誤解した女性


 "誤解した"と言う事は。


 やっぱりメネルト様はうちのご先祖スティアールに一方的に惚れられただけなのに冤罪をかけられ、ご実家に見捨てられ、斬首されてしまったって事か―――。


 今ここにご先祖がいたらデコピンとかしたい。


 そんな事を考えていたら、


「ライラちゃん、ここに居たんだ?」


 リグナスの声。

 リグナスは向かいの通路から歩いてきた。


 私を見た後、私が覗き込んでいた檻を見て、アハハと笑う。


「うんうん。縁のある檻に無意識に辿り着くのが冥府の(ことわり)だからねぇ」


 エリサラウと私は"縁ある者"同士なんだろうか。

 血も繋がってない他人であっても、やはり関係者扱いなのか。


 リグナスの背後には大鎌を持つメリアザンさんがいて、メリアザンさんは私と眼が合うと軽く会釈してくれた。けど、よく見たらその背後には―――もう一人いる。


 覗き込むと、大人しそうな容姿の綺麗な女性が立っていた。


 つい不躾に眺めてしまったせいか、ふと女性と眼が合った―――気がしたけど勘違いのようで、女性の視線の先に居るのは私なのに、その目は私の姿を捉えていない、そんな気がする。


 それにしてもどこか見覚えがあるような、無いような。

 よく見ると着ているドレスは古風で。


 そう、エリサラウと同時代の。


「ひょっとして」


 呟くとリグナスは肯く。


「150年間、ずっと皇宮の薔薇園にいたメネルトちゃんだよ。そんで、ライラちゃん殺しの依頼人~」


 そう言って紹介してくれた。


 薔薇園にいた頃のメネルト様の恐ろしい姿とは様変わりして、一見普通の女性の姿に戻っていらっしゃる。


―――けど、私としてはどんな顔していいのかわかんない。


 ご先祖がろくでなしで申し訳ありません

 それはそれとしてよくも殺しの依頼とか

 してくれやがりましたね、こんにゃろう


 こんな感じ?


 悩んでいるとリグナスが苦笑する。


「前に言ったよね? 幽霊は冥府に来ると色々正気に戻るって。こっちに来たらみんな一番元気はつらつの若かりし頃に戻ってから転生するんだよ」


「そういえばそんな事言ってたような」


 じゃあ5年前に成仏したユーフェも―――なんて考えかけて、言葉を呑んだ。


「あれ?」


 なにやら違和を感じて眉間を歪める。

 だけどリグナスは私の様子に気付かず話を続ける。


「でもね、メネルトちゃんはさぁ、ほとんど妖怪化しかかってたせいでまだ"抜け"きってないんだよ。人間味が完全に戻るのはもう少し後かなぁ。……ライラちゃん、どうかした?」


 リグナスは遅ればせで私の様子に気付き、顔を覗き込んでくる。


「ねぇ、リグナス。私、ここで目覚めてからずっとものすごく眠いし身体もダルいんだけど」


 元気はつらつとは到底言いがたいんだけど。


 そう言うとリグナスは、笑顔のままフリーズした。


「…やっべぇ」

「何? どういう事?」


 問うと、うーむと少し難しい顔をする。

 だけどひとつ溜息を()くと、すぐに表情を和らげた。


「…もう種明かししちゃおうかなぁ」

「種明かし?」

「本当はね。嘘なんだ」


 そうして私の頭を撫でた。


「嘘?」

「うん、嘘」

「何が? 何が嘘なの?」

「実はライラちゃん、死んでないんだよねぇ、アハハぁ」


「はぁ!?」


 思わず叫び声が出た。


「幽霊は冥府に来ると元気はつらつになるけど、生者が来るとその逆で、身体が酷く疲れて眠たくなるんだよね。

 眠いって事はつまりライラちゃんはまだ生きてるって証拠」


「生きてる? 私、生きてるの?」

「半分だけど生きてるねぇ。もう半分は死んでるけど。ギリギリだけど」

「い、生き返れるの?」

「生き返れるよ。ただし"条件"付きでだけどね」


 パチンとウィンクをして見せる。


「条件?」

「僕の見立てでは99%はカタイ。多分、きっと、恐らくだけど」

「100%じゃないんだ…」


 多分、きっと、恐らく?

 そんなあやふやな…。


 メリアザンさんは私がまだ生きている事を知ってたようで、申し訳なさそうに私をチラ見した後、リグナスの頭をコツンと叩いた。


「さっきも言ったけどさ」


 リグナスは語り出す。


「人殺しの依頼なんて魂でももらわないと請け負えないし、メネルトちゃんは幽霊だから魂が無いしで、つまりメネルトちゃんと僕の間で交渉が成立する可能性はほぼほぼ無かったんだよ。実際、ギーズ君の"招かれ人"として皇宮にいた3年間も、僕はメネルトちゃんの依頼をのらりくらりと躱し続けていたんだ。

 僕側によっぽどメリットがない限り、願いを叶える気なんかなかった―――てのはさっきも言ったわけだけど」


「どんなメリットがあったの?」

「それはね」


 リグナスはニンマリと笑った。




「秘密だよー」




 こんにゃろう。


 なんとか訊きだそうと割としつこめに頑張ったけどリグナスはあくまで口を割らないし、やたら眠いしで、もうどうでもいいやって気になってきたわ―――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ